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過去ログ228 2016/7/18 14:07

▼無名さん
拍手の分岐1

□□□□□

 斎は、ピエールの部屋のバルコニーから雨に煙る街を眺めていた。

 絹糸のような細く柔らかな雨が降りしきり、眼下の景色はかすんで見える。

 悪天候のなか、遠征から帰還するピエールの無事を願いながら、斎は雨に触れようと手を伸ばす。

 掌に受けとめた雨は、あたたかく感じられた。不意に、風向きが北西から南東へ変化する。

 見ていると、雨足は徐々に弱まり、間もなく雨があがった。

 雲の切れ間から、斜めに陽が射し込み、斎はまぶしさに目を細めた。

 と、大通りを横切ってやって来る、二頭立ての黒い馬車が目にとまった。正面上部に第二位階の紋章が刻印されている。待ちに待ったピエールの馬車だ。

 斎は階段を駆け降り、おもてに飛び出した。

 教会の前庭に、馬車が車輪を軋ませ停車する。

 聖騎士に支えられながら、馬車を降りてきたピエールを見て、斎は心臓が止まりそうになった。

 遠目にも、腹部のあたりが赤黒く血に染まっているのが見てとれる。

 厚地の法衣が血を吸ってぐっしょりと濡れているのだから、どれほど出血したのだろう――

 ひとりで歩くことができないほどの深手を負っているのか、タラップを降りきる前にピエールがガクンとくずおれる。介助していた聖騎士があわててピエールを抱きとめた。

 「……っ、ピエールっ!!」

 斎は息を呑み、ピエールに駆け寄った。

 聖騎士の腕のなかで、ぎゅっと眉を寄せ、苦痛にあえぐピエールに、ずきりと胸が痛む。落下の衝撃で傷口が開いたらしく、斎の目の前で法衣に鮮紅色の染みが拡がっていく。

 腹部の傷が致命傷となり、命を落とすことが多いのは、子どもでも知っている。

 このままピエールが死んでしまうかもしれない――

 不吉な予感が脳裏をよぎった。氷塊が背筋を滑り落ち、一気に血の気が引いていく。

 斎は自分が蒼白になっているに違いないことを自覚した。
7/18(月)14:07

▼無名さん
拍手の分岐2

□□□□□

 「ピエール……」

 知らず、涙が頬を伝わる。泣くつもりなどなかったのに、涙はあとからあとからこぼれ落ちた。

 いったん涙腺が決壊すると、人目があると思いはしたが、嗚咽をこらえることができない。

 と、ピエールの緑玉の瞳がゆっくりと斎を捉えた。数回瞬き、困惑したように斎を見つめる。

 「ああ、どうしましょう。あなたを泣かせてしまうなんて……」

 ピエールが血に塗れた手を伸ばし、ためらいがちに斎の頬に触れた。つねは理知的な瞳が内心の動揺を映し出し、揺れている。自己の感情を律することに長けたピエールにしては、めずらしい反応だ。

 斎には、頬に触れたピエールの指先がひどく冷たく感じられた。出血多量で体温が低下しているのだと知れ、不安と焦燥に胸が締めつけられる。

 「こんなに血が流れて……。傷、深いんだろ?」

 「大丈夫ですから、泣かないでください。まったくなんて顔してるんですか、斎――」

 ピエールの繊細な指先が目尻にたまった涙をそっとぬぐう。

 「心配してくださるのは嬉しいのですが……」

 ピエールが言葉を切り、咳き込んだ。唇の端から血が一筋、つと流れ落ちる。吐血したということは、内臓が損傷している可能性が高い。

 「いつもみたいに胸ぐらをつかんでくれないと、張り合いが出ませんねぇ」

 ピエールがくすりと笑い、直後、傷の痛みに顔をしかめた。

 「……このっ、馬鹿ピエールっ!」

 斎はピエールの胸ぐらをつかみかけ、さすがに自制する。代わりにピエールの耳もとに口を寄せ、何事かをささやいた。

 「……っ、」

 斎の言葉に、ピエールが信じられないと言いたげに目を見開いた。数瞬絶句し、まじまじと斎を見やる。

 「……はい。すみません。充分に注意いたしますよ」

 神妙に頭を下げるピエールの髭を引っ張り、斎は素っ気なく「許してやる」とつぶやいた。

 医務室に運ばれていくピエールを見送りながら、斎は彼の傷が早く良くなるように祈りを捧げた。

 斎がピエールに何と言ったのかは、ふたりだけの秘密――
7/18(月)14:06

▼ぱんだまん
無名さん様
おお(●´ω`●)どんな感じか興味あるので読みたいですヽ(・∀・)ノ
7/17(日)9:25

▼無名さん
拍手の話、分岐させてみましたが、お読みになりますか?
7/17(日)6:24

▼ぱんだまん
みず様
写メ(笑)

遅くなりました!(_ _)

現代に当て嵌めたらこんな感じかも(*´艸`*)女嫌いの髭はさぞかし鳥肌を立てて喜んだことでしょうw←

今のところ髭が優勢でしょうか?☆
6/27(月)14:47

229227

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