1 リヴァイ

絵がドヘタクソなミカサへ

手を離れてしまったお前へ。
哀しみを綴りたかったわけじゃない…だから敢えてここに記す。
お前はここに気付かないだろう…だがきっとそのほうがいい。
ここから下は柄じゃねぇことを語る。
もしも…万が一見付けたなら…心して読め。


お前が飛ばしてきた手紙は一度目に手が離れたときにすぐさま燃やしてしまった。
理由は話したろう…思い出すのが辛くなるからだ。いつの間にかそれぐらい、俺はお前に惹かれていた。自分でも気付かねぇうちにな。

だがやり取りは断片的に覚えている。
お前が一番最初にしでかした悪さは、俺の珈琲に塩を入れることだった。
あの味は今でも忘れてねぇ…よくもクソ不味いモン飲ませやがって…おかげで人に淹れられた珈琲を飲むときは最初に味を確めるのが癖になっちまった。
…だがお前が二度目に淹れたモンはなかなか悪くなかった。

二番目にしでかした悪さは、ドヘタクソな絵で俺の似顔絵を描いてそれを俺の部屋の扉に貼り付ける、というものだった。
アレを見た瞬間の自分の反応ははっきり覚えてねぇが……俺は仕返しにお前のドヘタクソな絵を団員全員が見ている前で掲げてやったな。あれはかなり爽快だった。

三度目だったか…お前の悪戯は俺の予想の斜め上をいく悪さだったな。
突然抱き付いてきやがって…年甲斐もなくドギマギしちまった。お前の馴染みが何を言ったか知らんが…野郎にホイホイ触るんじゃねぇ。相手が俺だったからあの程度で済んだんだ。感謝しろよ…

次は…互いに熱を出してよく解らん状況になっちまったような気がする……最初にお前が熱を出して、それを看病した俺が次に熱を出したんだったな。不様な姿を曝したが……お前が抱き枕になってくれたおかげかあまり苦しくはなかった。

ああそうだ…図の描き方も教えてやったな。
あれは今でも覚えているのか?ミカサよ…

思えばたったの数ヵ月だ…だがされど数ヵ月だ。
毎日毎日飽きもせずお前と話していた。
朝に目が覚めればお前から手紙を確認し、夜は寝る前に返事を書く。
たった数日で俺の日課になった。
非番の日は一日に何度もお前からの手紙を確認し、届いている度に俺はわりとすぐ返事を書いていた。

しかしもうその日課はなくなった。

一度手が離れたあの日、目覚めていつもの癖でお前からの手紙を確認してみたら真っ白な紙が送られていて、俺がどれだけ気を沈めたか…もう話したから解るだろう?

虚無感と喪失感を他の何かで埋めようと必死になった。今でもそうだ。
だがやはり埋まらなかった。俺は他の誰でもなく、お前と話したかったんだろう…手が離れてやっと自覚したが、もう遅かった。

だが数日して再びお前から手紙が届いて、俺はすぐにそれを信じられなかった。
俺は幻覚でも見るくらいやられていたのかと何度も見直した…しかし夢じゃなかった。
俺達はすぐに再開したな。
互いに以前の手紙は残していなくてまた初めからだった。

だがその手は、すぐにまた離れた。

最後の手紙には返せなかった。
不様に引き止める真似が俺にはできなかった…お前の言うことも最もだと思ったからだ。
だが別れの五文字も、どうしても言えなかった。
感謝も内に抱く気持ちも、全てに蓋をした。
もう顔を見れないなら何を言っても意味はないと思った。

だが未練たらしいな…俺は今でもお前を忘れられずにいる。
なぁ、ミカサ。
俺は再会したあのとき、初めて自分の感情をお前に話したが…それは今でも変えられずにいる。
俺はお前が思っていたよりずっとお前に惹かれていた。
消えねぇ。誰と何を話しても、やっぱり最後はお前を思い出す。
ミカサよ…満点を取ると言ったことは覚えているか?俺は忘れていない。

お前の代わりなんか居ねぇ。
解っていたはずなのに今もお前の面影を探している。

ミカサよ……“好きだ”ともう一度言ったなら、お前は更に遠くに離れていくのか?

あのときと同じことは望んでいないが…俺はできるならお前ともう一度会いたい。
お前の手紙はまだ捨ててねぇ…俺が飛ばせば済む話だが…願う先が見えないのが恐ろしくてそれはできん。

直接言えずに悪いが…俺はお前に感謝もしている。今ここに想いを込めて記す。
結末は決して明るいものではなかったが…お前と出会ったことは後悔していない。
願わくば、お前も同じであるよう。


悪戯返しに身を潜めたリヴァイから。
後を尾けられていることにも気付かず俺を探し回ったミカサへ宛てる。
2 削除済
3 ミカサ・アッカーマン
あなたが書け書けと言うので、同じ内容は無理でも新たにまた此処に書き残そうと思う。

一度目も二度目も離れたのは私だ。だからもうあなたに会うことはないだろうと思っていた。私から離れた以上は忘れなければいけないし、私からあなたに手紙を送る事は許されないと…。だから手紙は全て燃やした。
兵長に関するものを全て消して、忘れなければと思って毎日を過ごしていた時に…兵長の書き込みを偶然見付けた。
見付けた瞬間は驚いて、困惑して…言葉では言い表せない位に嬉しかった。

見付けてから馬鹿みたいに何度も繰り返し読んだし、本当に私に宛てられた物かも何度も確認した。
私があの瞬間、どれだけ浮かれていたか知っていますか?…誰かに見られていたら恥ずかしいくらいだ。

勝手だとは思う、自分から離れたくせにあの瞬間兵長に会いたいと願う自分が居て…それでここに書き込んだ。
結局恥ずかしくなってそれは消してしまったけれど…。

私から二度も離れたのに、私を忘れられない馬鹿な兵長。
そんな兵長を忘れられない馬鹿な私。
きっとお似合いだと思う。
私はもう兵長の傍を離れたりはしない、約束は必ず守るから。
兵長も私の傍に居て欲しい。


ああ、そうだ…兵長に他に相手が居た時に少しだけ妬いたと言ったけれど…あれは嘘。本当は物凄く妬いた。
それくらい私は兵長の事が………まぁ、これはまた今度言おう。


最後に……兵長、これを読んだとしても保存しないで?恥ずかしいから。
4 リヴァイ
その言い方だとまるで俺が無理強いしたみたいじゃねぇか…半分以上はそうだが。

ミカサよ…気付いているか。俺達が二度目の再会をしてからもうひと月以上経ったぞ。それどころかもうすぐふた月か。
最近はなかなか手が空かなくてな…此所に書くことはとっくに決めていたんだが遅くなって悪かった。

お前と初めて言葉を通わせたのは色付く葉が舞う頃だった。冬の音がゆっくりと近付いてくる中で、黄色の葉に埋もれたお前を見付けた。
あの日から――離れた数日も含めたらもう五ヶ月、俺はお前といる。
……離れた期間を換算するかは迷ったが、あの数日間があったから今の俺達が在るだろう。一度目の数日がなければ、俺は自分が抱く感情に気付かないままだったかもしれねぇしな。

お前は言ったな。
「傍を離れたりしない」と。
その言葉を俺は信じている。ガキみたいだと笑うか。重荷だと息を吐くか?
最近はお前からの鳩がまた一段と減ったが…俺はお前の言葉を疑いもしていねぇ。だから幾らでも待てる。
俺にはお前しかいない。他に欲しいもんもねぇ。待ち続けても必ずお前が帰ってくるのなら、俺は部屋掃除でもしていつまでも待てる。
…………本当に待てる。だが違う事を思うときもたまにある。本音はお前に直接話そう。
お前は俺に全然わかってねぇとか言っていたが…それは無理ねぇだろ。お前は相変わらず淡々としているように見えるからな。俺ばかりがガラにもなく浮かれ上がって、俺ばかりが喜ばされているように思うときがしょっちゅうだ。
だがお前はきっと不器用なんだろう…俺も人のことは言えないが、こんだけ付き合っていりゃ少しくらいは見えてくる…お前も俺と似たような感情であろうことは疑ってねぇよ。

一度目より、二度目より…手が離れた瞬間があったからかもしれねぇが…お前との距離は随分と近くなったように思う。
今振り返れば一度目の俺達は今より接触していたはずだが互いの距離はクソ遠かったな。
だが今は違う。求めれば返ってくる仕草があることが、俺はガラにもなく嬉しいと感じる。

ミカサよ…俺はいつか、お前にはなにも求めないと言ったがあれは嘘だ。ただのハッタリだ。
お前が素直に妬いたと言いやがったから褒美として俺も教えてやる。
……しかし妬いたのか。それを聞くともう一度妬かせてみたくなるな。

あの日気紛れで見つけたお前に声を掛けた数ヵ月後に自分がこんなふうになっているとは夢にも思っていなかった。
俺達には確かな記念の日がねぇ…俺はそもそもそういうモノには無頓着だがこれだけ長く居ると不意に気になったりもするもんだ。
だが俺にとってはお前からの手紙を受けたその日その日が記念になっている。

見つけたのがお前でよかった。見つけられた自分を自分で誇りに思おう。


PS,保存は完璧だ。