1 リヴァイ

手紙

何か特別な事を、…とあれやこれや考えた所で俺の頭じゃ良い考えは見付からん。
だから、お前に手紙を綴ろうと思う。

こんなモン書いた事ねぇんだ、らしくねぇと笑うんじゃねぇぞ?


『 親愛なるエレン・イェーガーへ。


 突然の手紙、驚かせちまったか?
 不慣れなモンでな、内容や字の拙さには目を瞑れ。こう見えて、書いては消してを繰り返してんだ…紙に文字を綴るだけの行為が思いの外難しいのだと、斯うして綴るまで知る事は無かったかも知れん。

 何故この日に手紙を綴っているか、お前なら分かるだろう?
 俺なりの愛情表現だ、精一杯のな。

 エレンよ、お前と出会ってから初めての春が来るな。
 幾度となく揉めて涙を落としては手を取り合い過ごして来た、もう駄目だと思う事も幾度となくあった。
 其れでも、お前と過ごす日々は愛しく優しいものだったと思う。

 お前には感謝ばかりだ。

 終焉ばかり見つめる俺を、見放さねぇで居てくれて有難う。
 傍若無人に振舞う俺を、何時も受け止めてくれて有難う。
 刃の様な言の葉を投げ付けてはお前を傷付ける俺に、変わらず笑い掛けてくれて有難う。

 傍に居てくれて、有難う。

 俺はお前に、何かを返せてんだろうか。
 お前が幸福を与えてくれるように、俺も幸福をお前に贈れているだろうか。
 お前が俺に捧げてくれた愛情を同じだけ…いや其れ以上、お前に返せるだろうか。

 不意に言葉少なになったり、触れ合いを避けたり、お前を不安にさせちまう行為を取る事もあるだろうが…此れだけはどうか忘れるな、エレンよ。
 俺の中でお前への想いが褪せた事は一度も無い。
 お前への愛情が薄れた事とて、一度たりとも無い。

 …ああ、何を書いてんのか分からなくなってきたな…そろそろ筆を置く頃合いか?
 お前がどんなツラで此れを読んでんのか、想像もつかん。

 エレン。お前と出会えて良かった。
 お前で良かった。
 お前が良かった。
 有難う。
 今日と言う此の日に感謝を込めて、此処に想いを綴る。

 愛してる、俺の可愛いエレン。


         リヴァイ 』


返事とかは要らんからな。
読んだら読んだとだけ伝えろ…クソ恥ずかしいんだよ、分かれ、クソガキ。
2 エレン・イェーガー
見つけるのが遅くなってごめんなさい、リヴァイさん。
26日、おれ、ちゃんと覚えてます。リヴァイさんとおれが付き合った日ですよね?一か月です。
このヒントでわかるのは、リヴァイさんとおれだけですよね。
リヴァイさんとおれの記念日だから忘れないです。
このあいだから、手紙を飛ばしてもうまく飛んでくれなくて、心配でした。
でもこれを見て、ほっとしました。
リヴァイさんとイチャイチャしたいです。
1回しかエッチしてもらってないし、またエッチしてほしいです。
すごくかっこいいリヴァイさんはおれの自慢のだんなさんです。
リヴァイさんが大好きです。
早く返事がほしいです。
待ってますね。
3 エレン・イェーガー
他のエレンが反応していたからどうしようか悩んだけど…でも、兵長がオレの為に筆を取り慣れない"綴る"という行為をしてくれた事を大切にしたくて。その言葉を、意味を、込められた気持ちを受け取るために。確かに貴方の、貴方だけのオレに届いたと伝えるために。少しだけ躊躇われた、貴方の手紙をオレの言葉で汚すことをして、この場所に言葉を残すことにした。

オレの特別な日に言葉を残してくれた兵長へ。オレは敢えて、何でもない日に言葉を綴ろう。貴方が毎月に一度の、年に一度の特別な日に言葉をくれるのなら、オレはなんでもない日が素晴らしいと感じてもらうために、言葉を綴り兵長に届ける。

出だしは敢えて同じに。
親愛なる、リヴァイ兵長へ。
貴方だけの、エレン・イェーガーより。

初めて置き手紙として贈られた言葉を読み返す度に、オレ達が今日まで共に過ごしてきた時間がまるで走馬灯のように蘇る。出会ったあの時から本当に、一言で纏める事が出来ない位沢山のことがありましたね。
もしかしたら、本当に、笑顔よりも涙に濡れた日の方が多かったのかとも思うくらい。何度でも何度でも、互いを傷つけながら、涙しながら、通じ合わないと悩みながら。共に歩んできた時間。

あの頃から貴方は、言葉の節々に本音を織り交ぜてくれるようになった。時にわかりにくくも時に分かりやすく。それが何れだけ貴方にとって勇気のいる行為か、オレはそれを理解しているからこそ、貴方の言葉を一つ一つ大切に出来ているでしょうか。
時に傷付けると知りながらも言葉を吐き出す貴方が誰よりも傷付いていることをオレは知ってる。だからこそオレは、傷つくことを恐れずそれらの言葉を受け止めると決めている。どんな言葉でもそれが貴方の言葉だから。その後に泣きながら笑って、抱きしめあってキスをして。悲しみも喜びも、貴方が与えてくれるからこそ、オレの世界は、オレ達の世界は、鮮やかに色付くのだと思う。

3月の、26日という日に貴方から言葉を贈ってもらえて、オレはこの上なく幸せ。ありがとう。本当に、ありがとうございます。この意味が、貴方ならきっとわかるはず。
ねえ、いつか絶対に。貴方が手放すのを惜しいと思えるくらい、いい男になって、自慢の伴侶になってみせるから。その時は、オレが広げた腕の中に、躊躇わずに飛び込んできてくださいね。…なんて。

あいしているよ、オレだけの貴方。
どうか身体を大切に。
時間が合えば、花見にでも出掛けましょう。