1 エレン・イェーガー

Re :

 文も、込められた意味も、確かに受け取りました。
 今度はオレからも贈らせてください。受け取ってくれると嬉しいです。


 ……毎日毎日手紙で日記で好きだ好きだと喚いておいて今更恋文も何もないと自分でも思うのですが、折角なので書かせてくださいね。
 兵長は……知ってる、と言うけど、オレも貴方が分かってくれてないとは思ってないけど。オレがあんまり言葉を知らないだけで本当はまだまだたくさん伝えたいことがあるんです。

 …兵長がオレに会いに来てくれたその日から、貴方への思いは募るばかりで、いくら蹴られても詰られても磨り減る日は一度もありませんでした。
 それでも最後の告白のとき、頷いてもらえなければもう諦めて、……諦められなくても諦めたフリを上手くやって、貴方に迷惑を掛けないよう普通の部下に戻ろうと決めていたんです。とてもそうは見えなかったかもしれませんが。
 だから兵長が頷いてくれた時、オレは本当に夢じゃないかと思ったんだ。今でもそう、…ずっと夢のつづきを見ているみたいで――でもこれが現実だって教えてくれるのもいつだって貴方だった。
 記念日のお手紙も――本当に、嬉しかったんです。あの後あなたが「送るタイミングを考えていた」って呟いていたのを見て、……余計愛しくなって。
 今だから言います、オレも考えてました。けど、貴方を好きな気持ちに対してまだどこか臆病だった所為か、なかなか踏み出せなくって…。

 だけど今はもう怖くありません。時間が経った今でも言える、あのとき貴方を選んで良かった、って。
 貴方からの手紙を待つ、穏やかで、少しもどかしいような時間。これが無かった頃、どうやって過ごしていたのか思い出せないくらい得難い時間。それすらも本当に、嘘偽りなく好きなんです。
 こんな風にずっと貴方を愛していたい。……、軽々しく永遠を約束することは何となく嘘っぽい気がして出来ないんですが、少なくともつい一分前の昨日まで、オレは兵長が好きでした。
 そして今日も貴方が好きです。だからきっと明日も、兵長、貴方が好き。
 こうやって毎日、明日も貴方を好きになる約束をします。
 出会った日から昨日まで、有難うございました。そして、今日からも末永く宜しくお願いします。
 ……好き。大好き、――愛しています。オレだけのリヴァイ兵長。
2 リヴァイ
お前にはいつも驚かされる。まさか俺の留守の間にこんな長い文をしたためていたとはな。

そうだな。それこそ最初は本当に、憧れや尊敬を取り違えてるんだろうとか、その気持ちが本物だと分かった後でもどうせ麻疹や熱病みたいなモンだろうと、すぐに目が覚めると、そう思っていた。
なのにてめぇときたら、覚めるどころか日に日に重症になりやがる。
あれだけ真っ直ぐに好きだと言われ続けて、絆されない方が嘘だ。
来たら来たであんな態度を取る癖に、お前が来ないと落ち着かない自分に気付いた時には、もう手遅れだったんだろう。

俺だって最初から自信があった訳じゃない。お前とは完でしかやり取りしていなかったからな…お前の呟きを見付けるあの日まで、お前の本心を計りかねて迷っていた。だが、呟きを残す程度には喜ばせられたらしいと。…描写から滲むお前の必死さに、一片の曇りもないのだと知った。そこからは笑っちまうぐらい、てめぇになし崩しだ。

俺は基本的に確固たる確証の得られないものには、信頼を置かない。
人の気持ちなんざ、その最たるものだとも思っている。
だから、絶対も永遠も好きな言葉じゃねぇ。軽々しく使わないお前の判断は寸分の狂いもなく正しい。
それでも、一切の揺らぎのないお前の言葉に掬い上げられて、その真っ直ぐさに縫い止められる。
確証の無い約束とやらを信じてみたくなる程度には、俺はお前にイカれてるらしい。

いつかも言ったが、今一度言う。
この先も、隣でその幸せそうなアホ面下げて笑ってろ。
エレン。
お前が笑ってさえいれば、俺の世界は満ち足りる。
3 エレン・イェーガー
 手記の頁の破り方が分からなくなってきた所で、此処にこっそり一枚。
 久々に掘り返したし、あんたが気付かないうちにもう一回沈んじまえば良いな、…とか、自己満もいいとこな落書きを。

 あなたには、…本当に敵わない。参りました。あんな言葉は卑怯だ。どれだけ惚れさせたら気が済むんですか。
 オレはどんなに言葉を尽くしても満足出来ない。二ヶ月前と何ら変わりは無いんです、本当はもっと伝えたい。
 音にして二文字と五文字で終わる言葉の中身をもっともっと詰め込んで、オレの中にある気持ちの全てを知って欲しい。
 言葉で足りなければ抱き締めます。キスを、します。胸いっぱいに溜め込んだものを吐き出さないことには死んでしまいそうな気がするんです。
 兵長が好きです。出会った時から昨日までずっと。来る今日はいつも、明日を約束出来る力が欲しい。
 今この時は、隣で眠れるだけで十分過ぎるくらいなんですけど。

 不意打ちに泣き出しそうなくらいときめいたのが嬉しかった反面、ちょっとだけ悔しかったので、些末ではありますが反撃です。
 兵長が気付かなかったらオレの勝ちってことで、今回はこの辺りで畳むことにします。
 あんたが好きで、大好きで、胸とか胃が痛くて吐きそうなくらいだ…。お互い獰猛なのを飼っていますね、本当に。
 おやすみなさい、また明日。
4 リヴァイ
気付かない訳が無い。本当に気付かれないと思ってたのか?俺の勘がいいと言ったのはお前だろうが。
で、この勝負は勝ったら何が貰えるんだ。…とは言え、お前には既に返しきれねぇ程多くの物を貰ってるな。

お前と居て、足りないと思った事など皆無だ。
いつだって溺れるんじゃねぇかと思う位、十二分に満たされてる。
同じ様に満たせてりゃいい。お前をこのまま雁字搦めにして窒息させちまいたいと思う程度にゃ、俺もお前にイカれてる。
日を重ねる程に、実感する。今は想像もつかねぇが、仮にこの先俺とお前が道を分かつ事があったとしても、もうお前以上の奴には二度と出会えねぇだろう。そう確信する程に、お前は理想そのものだ。
燃える様に熱くなくていい。特別なスリルやスパイスも要らねぇ。穏やかな波の様に凪いだ、お前との日々が他に喩えようもなく幸せだ。

常に俺と云う個を尊重してくれていると感じるお前の隣は、とてつもなく居心地がいい。
何の根拠もなく愛されていると確信できる。
それがどんなに満たされた事か、どんなに贅沢な事かを俺は知っている。
いつも一番居心地のいい場所で、一番居心地のいい距離を測って傍に居てくれるお前は本当に稀有な存在だ。

エレン、

…エレン。

お前が好きだ。
愛してる。

お前が居ないと生きていけない程弱くはねぇが、お前が居ると俺の世界は鮮やかになる。
これからも俺の世界を彩れ、エレン。
最期はお前に還らせろ。


…ダラダラ書いてる内にお前からの文だ。
返事は、明日にくれてやる。
此処ももう少し早く見付けてたんだがな。お前への返事を優先していたら遅くなっちまった。

胡散臭い永遠の代わりに、俺の「今」を全部くれてやる。
余さず受け取れ、俺の唯一。