1 リヴァイ

七の付く日。

俺がお前を好ましく思うところ。


ガキ臭く騒がしい、それでいて控えるべき所を良く理解している。頭の回転も悪くない、笑うと年相応に無邪気だ。執拗な粘着質もまあ、無きにしも非ず。只管に俺馬鹿で、心底俺馬鹿で、お前の目玉は一体どうなっているんだと言うレベルで俺馬鹿。項垂れる姿は中々に蹴り飛ばし甲斐がある。直情的、且つ何処までも素直だ。裏表がある様で無い。不安に揺れる瞳、嫉妬深さと面倒臭さも天下一品。無駄にポジティブでありながら、同等に悩みも備え、それでも前を見据える姿勢は好印象だと常々。夢見がち、頭の中は春一色。自分の心を偽らないが故に、下手な勘繰りも不要な為、疑って掛かる事もせずに済んでいる。価値観や抱く矜持は全く噛み合わねえ癖に、根っ子の部分が同じなんだろう。同じ色で同じ音を鳴らす、奇妙な安定感がある。


好きだと吼えるその声が、今日も俺の日常へ染み込んで行く。それは宛ら呪いの様だ。右を見て上を向き、奔放宜しく後ろを振り返った所でその音が途切れる事は無い。叩き付けて、刻み込む。その声、熱、存在の全てを以てして。何処までも傲慢に、何処までも柔らかく。まるで生きた証を残す様に。

お前は一体どうしたいんだと問い掛けるだけ無駄だ。そんな言葉は、容易く掻き消され放り投げられる事を厭と言う程知っている。だから問い掛ける事は止めにした。表情を窺う事も止めにした。つまり、考える事を止めにした。それが何だと言われた所で答える術を持ち合わせてはいない訳だが、そもそもこの長々と連ねる言葉の全てが前座だと伝えた所で、お前は驚きもしないんだろう。綴る声の凡そ殆どがただの前振り、ただの無駄口。伝えたい事も残すべき言葉も、本当はたった一言で事足りる。間違えようも無い、勘違いする隙も無い。だからもう良いだろう。お前も真っ直ぐ聞いて、正しくその胸に留めておけ。


──…最近小生意気なエレン・イェーガーに告ぐ。

俺はお前が好きだ。
2 リヴァイ
時の流れは平衡感覚を容易く見失う。そんな真理を積み重ねて、気が付けば二度目の七日を迎えていた。本当は前回に倣い、此処でお前の嫌いなところを色々諸々語ってやろうかと思ったんだが。手繰り寄せた数多の記憶に、胸を張って嫌いだと言える何かが見当たらなかった。おかしな話だ。日常を過ごす中で面倒だと思う事やうぜえと思う事、本気で鍋焼きうどんの刑に処してやろうと思う事柄は存在する癖、いざ伸ばした指先へそれ等を掴み引き寄せる事が叶わない。代わりに思い出す事と言えば、相も変わらず腑抜けたお前の笑顔と、好きだと吼えるその声ひとつ。時間の平衡感覚所か、記憶までもが容易く何かを見失っている。それも悪くねえと思う辺り、俺の思考も大概クソッタレな具合に染め上げられているに違いない。

日毎伝えたい事は直接話している所為か、今更改まって何を伝えれば良いのかを考える。お前は俺の事を素直じゃないと評するが、そんな事は無いと此処で断言しておこう。そんな事は無い。俺は何時だって、お前の前では素直な俺で居る。面白可笑しく生きたいと望む余り、下らねえ意味もねえ他愛無い諸々しか紡げていないが。そんな日々が、そんな日常が、どれだけ貴重で大切なのかを俺は知っている。寧ろそれしか知らねえと言って過言じゃない。なあ、普通って凄い事だ。当たり前って言葉程、俺にとって遠く儚いものは無い。俺達が出会い、こうして声を交わせる奇跡が如何程の確率か、お前は知っているか。そんな事柄を奇跡と呼ばないと言うのなら、俺は今日から空が青いと言う事実さえ信じる事は出来ねえだろう。

そうして気が付けば過ぎていた日々に、俺とお前の形が出来上がっていく。図らずも斜めに積み重なった平行四辺形、始まらないカウントダウン、三秒以内に紡がれる千文字。侵入者撃退用の罠に阻まれ、俺とお前の夜が更けて行ったあの日も、今となっては大切な宝物に成り得た事だろう。
しゅん太郎は今日も元気だった。現を揺蕩うふたつのおめめは、変わらず明日を見据え続けている。語らずの背中に付随して生じる静寂も、イエス枕に彩られた信仰心も。俺とお前がふたりで築き、積み重ねた何よりの証だ。こうして尤もらしく語ると何やらすげえ良い感じに見える辺り、物は言い様なのだと心の底から思い知る。散りばめられた言葉が齎す無意味加減は、俺とお前だけが知っていれば良い。


最早にらっぱーとおくらっぱーに思考が毒され始めたので、二ヶ月記念はこの辺りで勘弁しておいてやろうと思う。まるでお経が俺の鼓膜を撫でて行く様だ。五秒しか真面目になれねえ俺が此処まで頑張ったんだ、寧ろ褒めて頂きたい所存である。褒めろ、崇めろ。奉れ。好きだ。
3 リヴァイ
長々と綴った前回の二頁を見直して思う事は、取り敢えず頑張っているなと言う事。誰がって俺が。別段諸々を露呈するつもりはねえが、この言葉の意味を理解出来る野郎も少ないだろう。寧ろお前にしか分からねえ。そうして取り繕う言葉を手繰り寄せながら、迎えた今日と言うこの日に。お披露目宜しく、常の饒舌さを晒して捧げよう。何と言っても今の俺は機嫌が良い。それもまた、お前だけが分かる理由と真実だ。


さて、と。八ヶ月を経た現在は秋、枯淡の季節。南瓜の菓子や料理が彼方此方に並び、仮装行事に心弾む。美しい四季、寒い冬の訪れを待つ秋がとても好きだ。楓の繊細な紅に見蕩れながら、この時だけは何の躊躇いも無しに過ぎ去った日々を想う。今に続いて来た、今を作った過去。戯れと称して思うがままに噛み付き、時折感情の行き場を見失っては不器用な振る舞いで何かを欲した。伸ばす指先へ掠めたのは、幻にも似た憧憬だ。擦れ違うだけの存在ばかりなのだと、厭と言う程知っている。

こんな風に追憶し、感傷に浸りながら僅かに寂しい目をしてもう二度と戻れないのだと呟く。そう言う人間の顔は綺麗だが、残念ながら俺には似合わねえだろう。だから。
俺はお前に変わらぬ想いを注いで、これまでと同じ様に今を刻んでいく。過去の日々を羨まない様に、不似合いな感傷を抱かねえ様に。過ぎた日々に今も続く愛しさを重ねて想える様に、俺は。真っ直ぐお前と向き合って行きたい。


つまりはこの先も変わらず、無意味と無駄に溢れ返る日々となる事を覚悟しておけ。異論は聞かねえ、言論の自由は許してやる。兵長がナンバーワンでオンリーワンです、等と言う言葉も今なら許して聞いてやろう。一週間後に。


なあ、お前が好きだ。
続く七日へ想いを寄せて。
4 リヴァイ
まるで一ヶ月に一度来る定期検診の様に、この記事を引っ張り上げて言葉を綴る。なあ、そろそろ良いんじゃねえかと心の中で呟きながら、それでも恐らく来月の今頃も同じ事を繰り返しているんだろう。俺には未来が分かる。俺には未来が見える。不確定要素なんざクソ喰らえ、誰かには不可能な事でも、俺だけは違う。俺には先の事を知る能力がお有りなんだよ。

取り敢えずの手始めに特別感を醸し出してみた訳だが、お前は如何お考えだろうか。大体からして最近はお前の顔も満足に見れてねえ。「寂しかったら言ってくれて良いですから!」とお前がついこの前言っていた様な気がしなくもない。然しながら凡そ世界が滅んだ所で、俺がお前の名を呼び付ける瞬間だけは来ないだろう。それは何故か。自分の胸に手を当てて良く考えろ。可哀想な俺が、可哀想過ぎる目にあったあの日の事だけはああ、易々と忘れる事なんざ出来ねえ。俺はお前が怖い。怖いから呼び付ける事をしない。これ即ちただの当然的事象である。

そんな風に戯れる日々を過ごして、気付けば四度目のアレが訪れていた。今では賑やかな時に身を委ね、右から左から現れるガキ共を横目で眺めながら、「どのご時世も子供は元気だ」と呟くばかりの毎日を過ごしている。不満は無い。縁側で茶を啜る俺の隣には必ずお前が居ると、それこそ当然の様に思っている。離れている時も一緒だろう。なあ、其処のクソガキ様。揺るがねえ視軸に、当たり前な色だけを映し続ける今へ、どうして不満等と言うモンが抱けるのか。お前に会えずとも俺は寂しくない。お前の声が聞けずとも一切不安は無い。態々思い出さずとも、俺はお前の表情ひとつひとつを思い浮かべる事が出来る。まるで昨日も寄り添っていたかの様に。まるでお前は俺の一部と錯覚する様に。


だからつまり、俺はお前に会うのが怖い。
だってすげえ気持ち悪いから。


以上。そんなお前が好きな俺より。
四ヶ月おめでとう、ありがとう。
5 エレン・イェーガー
 
本日で貴方の隣に立ち、九ヶ月。
九ヶ月前のオレは貴方の隣に立つ所か、寧ろ後ろを追って居ただけの様な気がしますが。それが如何して『恋仲』なんて甘酸っぱい関係になったのか、…話し出せば長くなりますね、兵長。
今や貴方の隣に立つだけでなく、その五指を握って同じ歩調で歩む事を許されてる。───オレがどうやって貴方の手を握り、握り返して貰える様になったのか。
泪無くしては語れ無い純愛の軌跡、……只管貴方に拒まれ、『無い、有り得無い』と言われ、『好い加減諦めろ』とフラれ続け、『欲しく無い』と迄言われ続けたオレが。このオレが。
何がどうしてこうなったのか。───最早、泪無くしては語れ無いと今宵も自負して居ます。
…と、同時に。
オレは未だに貴方の恋仲として存在出来ている現実が、偶に夢なんじゃ無いかと思うんです。
恋仲に成れずとも、オレはずっと貴方の傍に居る気でしたし。離れるなんて先ず考えた事も無いので。貴方と在る事は自然な事。その上で、“押し付ける好意”では無くなった今が、時々夢なんじゃないかと思います。
恋仲に成ってからは四ヶ月を過ぎたオレ達ですが、オレが貴方を好きに成ってからは九ヶ月目な今日。

オレの気持ちは九ヶ月前より日増しに強くなる一方です。今この瞬間も、貴方に何を届け、伝え様か、…考えるだけで思考の十割を貴方が占める。
そうしてオレの脳内で再生される貴方は、つい先日、収穫祭のあの日。───オレを蔑み、ドン引きし、気持ち悪いと愛を告白した貴方だ。気持ち悪いと言いながらも貴方はオレの傍に居る。
寧ろ気持ち悪いオレを好きな貴方こそ気持ち悪いです、兵長。
オレの子守歌に賛辞を述べる貴方ほど、最高に格好良く、意味不明で、気持ち悪い存在はありません。…そしてオレはそんな貴方を心から尊敬し、好きだからこそ、今宵も湯浴み中の貴方の背後を狙う。
───兵長、何時になったらオレと湯浴みに挑んでくれるんですか。
…恋仲の醍醐味、一緒に湯浴みは何時叶うのかと。首にぶら下げた鍵の先っぽで、今宵も完膚無き迄に閉ざされた浴室の扉を削るオレは、間違い無く貴方の恋人です。


お分かり頂けたでしょうか、兵長。オレが過去四度に渡り此処に書き込めなかった理由が。…気持ち悪いから?違いますよ。オレは正常です。クレイジー?褒め言葉ですよ、オレは貴方に狂ってる、色んな意味で。
そうでは無く、この纏め切れず、恋慕が鏤められ空回りした挙句の、…饒舌さ。
また紙に文字が食み出てしまう前に、今日一番大切な事を此処に。


オレと出逢ってくれて有り難う御座います、兵長。
日々彩られる様々な色彩のひとつひとつは、貴方がオレと出逢い、オレの手を握ってくれなければ色付く事も無かったでしょう。
貴方を傷付ける事も沢山増えました、その分、貴方を笑顔…になったら気持ち悪いですが。幸せな気持ちに包まれる事も増えていれば嬉しいな、と。

好きです、───好きですよ、兵長。
『好き』の言葉に負けない位貴方を大切にして行きますから、来月の今も、オレの隣で無意味に無意味を重ね続けて下さい。
 
6 リヴァイ
お前は本当に人の話を聞かないと、まるで俺の全てを知った口振りで誰もが声を揃えて言う。人の話を聞けば死ぬのかと問うて来た輩も中には居た。敢えて言おう、俺は人の話は確り聞いている。だから何時、誰がどんな事を言っていたのか、それが些細な事であれ大概の事を俺は覚えている。記憶力は人並み以上に良い、良くも悪くも。ただ返事をしないだけで、それに付随する言葉を返さないだけで、人の話はちゃんと聞いているのだと改めて主張しておこう。

そうして例外無く、お前の声を流し無視して好き放題言葉を並べ立てる時が、何時の間にか十ヶ月と言う月日を積み重ねていた。長くも短くも無い時間だが、十ヶ月も在れば色々な事が出来る。人が恋へ落ちるに十分な期間であるし、離別するにも取って余る程事足りる経過と言えるだろう。

お前と過ごした月日を想う。成る程、下らねえ他愛も無い馬鹿な毎日を過ごすばかりであった。先立って告げた様に、俺は確りとお前の声を聞いている。全てを把握した上で、俺は能天気に日々を過ごしていた。別にそれが悪いと微塵も思わない。誰もが自由に生きる権利が在る。例えそれが誰かの心を踏み躙る行為だとして、それが一体何だと言うのか。己の心に嘘を吐き好かれる位なら、馬鹿正直に生きた上で嫌われる道を俺は選ぼう。先陣を切って颯爽と、そして堂々と、誇らしく。

つまり、俺は好き放題自分勝手に生きていたいのだとお気付き頂けただろうか。だからつまり、どれだけ月日を重ねても、俺が此処に在る意味こそがそもそものアレなのだと、アレして頂ければ何の異存も無い。語るのが面倒になった訳じゃねえよ。断じて。決して。


肌寒い季節になった。お前と出会い、声を交わした四季のひとつがまたやって来る。昨年の今頃、俺はただ痛みに蹲る事しか出来ていなかった。もし過去の自分に会えるのなら、もう少しの辛抱だと伝えてやりたい。後少し、もう少しでお前は厭でも騒がしい日々を過ごす事になるから、と。教えてやりたい。


そんな具合に肌寒い夜、記念に一枚残しておく。
眠気に抗えない俺より、毛布の中から想いを込めて。
7 リヴァイ
絶望的な幸福と付き合って行く事が幸せの道に繋がるのだと、何処かの本で読んだ事がある。本来、幸福とは苦行の中に在るものだと。成る程、言い得て妙だ。正論過ぎて詰まらねえと言う俺の屁理屈はさて置き、お前はそれを聞いてどんな感想を抱くのか、それに少し興味はある。何時でも能天気に笑うお前が、最近良く頭を使う様になった。別段一々その全てに言及こそしねえ。けれど理解はしている。お前は、俺と肩を並べて歩く為の自分になろうとしているのだと。


素直である事こそ美徳と今まで生きて来た。それでも、変わっていくお前を目の前で見ながら、奇妙な気持ちが生まれ始めている自分に気付く。らしくねえと思う傍らで、自分勝手な振る舞いを少しばかり悔いる様になった。──…なあ、俺はお前と肩を並べて歩く事の出来る男になれているか。ひとりで生きていく為の自分じゃねえ、お前とふたりで生きていく為の俺になれているか。別に個を捨てたい訳じゃねえよ。ただ、俺も成長したい、…と。言えばお前はきっと「兵長どうしたんですか熱でもあるんですか、お願いだから無理はしないで下さい…!」とか言うんだろう。無理じゃ無く努力と言え。怠けて甘えると録な人間にならねえ、それはお前も十分ご存知だとは思うが。

積み重ねた時が、確かな変化を告げている。或いは今流行りの進化とも言えるだろう。変わったのか進んだのか、その差異は決定的なものだと思わねえか。どちらにも転べる今に、俺とお前は何を選び掴むのか。少しばかり楽しみな毎日だ。


それでも決して色褪せず消えない肩書きひとつに、俺は今日も感謝を告げよう。
六ヶ月。口にすれば容易く長い日々を与えたお前に、心からの感謝と敬意を。俺とお前の選ぶ道が、決して間違ったものにならねえ様に。後悔と言う下らねえ色に染まらない様に、俺は。明日も変わらない時を過ごして行きたい。


昨夜は諸々のアレがアレで零時を狙えなかったので、甲斐甲斐しくも今日が終わる間際に言葉を残そうと企んだ心意気がイケメン過ぎる俺より。


好きだ。明日も、明後日も。きっと恐らく、一年後も。