1 リヴァイ

俺の右腕に宛てる。

青いインクの手紙を発見した時の事は今でも鮮明に思い出せる。更に遡るとしてお前と出逢ったあの日や、初めて酒を酌み交わした夜の事も。


万華鏡みてえな奴だ、光の加減や角度で様々な模様を描き出す。鮮やかな色彩が幾重にも重なって、俺の知らない世界が広がる。

言葉には確かな生命が宿って温かい。飄々としている様にも見えるが、その眼差しは何時だって真っ直ぐに前を見据えている。何処にも嘘が無い。少し突ついてみれば恐ろしく芯の強い奴だという事が分かる。深い優しさは心の強さが齎す物に違い無えんだろう。

そんなお前だからこそ、安心して身を委ねる事が出来た。此処に綴るのは尽きる事の無い感謝の意と、普段照れ臭くて言えねえある種の愛情表現だとでも思っておけ。


中々思うように逢えず、大の男二人がグズグズと鼻水を垂らした日もあったな。喧嘩…とまでは行かねえが、互いに余裕が無くてギクシャク出来たのも実は嬉しかった、なんて…オイ、怒るんじゃねえぞ。


本当は器用な癖して俺の前では感情を隠さねえその姿勢に、酷く救われている。

迷う心が生まれたり得体の知れない感情が芽生えた時、気持ちが先走って処理に困った時。出来ればその侭の身体で逢いに来い。何故なら、飾り気の無いお前を何より一番に愛しているからだ。


優秀な俺の右腕。お前は頭が良くて誰にでも愛される才能を持った人間だ、俺が教えてやれる事なんざもう無いに等しい。

…但し。真面目過ぎるのは考えものだ、常に心には“あそび”ってもんが必要だからな。そして、最も労わる対象はどんな時でもお前自身であるように。これは命令だ、脳味噌の片隅にでもぶち込んでおけ。


あの日飴玉が齎した運命を、どう足掻いても離してやれそうに無え。

この先の人生において何が待ち受けているかは分からねえが、お前が居ればそれで良いと今なら自信を持って言える。……なあ、一年間有難う。
2 エルド・ジン
本当に、飴よりも甘い人だ。誉め殺すおつもりですか?貴方の言葉でどうにでもなっちまう男が居る事を、どうかお忘れなく。

この約一ヶ月間。何度も貴方からの手紙を開いては、返事を書こうとペンを取って時間だけが過ぎていく無情さに頭を抱えてきました。
伝えたい事は沢山ある筈なのに、何一つ上手く言葉になってくれない。一年分の想いは予想していたよりも膨大で、正直この手紙だって何の終着点も見えないままに書いていたりします。
なので、支離滅裂な事を言っていても、そこは兵長の優しさで見て見ぬフリでもして頂ければと。ね。


それにしても……まさか、兵長に真面目過ぎるなんて指摘をされるとは思わなかったな。
任務内容の負担から考えても貴方の方が心配ですよ。せめて寝る時は其処らの椅子じゃ無くて、ちゃんとベッドで寝るようにして下さい。冷たいシーツが嫌だと言うのなら暖めておきますから。…良ければ、朝まで。

俺が声高らかに自慢出来るのは掃除の腕くらいなモンです。それだって貴方には到底敵いませんが。
全く足りない。技術も知識も勘も何もかも。せめて安心して使える武器になれるよう、これからも貴方の下で学ばさせて貰えたらと…目標と憧れが同じ対象な上に、直下の部下として動ける事がどれだけ贅沢な事か、どう言えば伝わってくれるんだろうな。
ベラベラと軽口ばかり出てきて肝心な時に上手く回ってくれないこの口は、どうやら想像以上に欠陥品みたいです。参った。


机の引き出しに溜まっていく手紙の束が、積み重なっていく分だけ貴方が恋しい。
真っ直ぐな好意を不意打ちで食らわせてきて本人が気付いていないその天然さとか、後々に自力で気付いて慌てて弁解してくる照れ屋っぷりとか。寝る前の無防備な顔や、沈んだ心を然り気無く掬い上げてくれる心地好い距離の気遣いも、この関係を手にした時から一つ一つ知っていったものです。
毎日貴方に惚れ直して重くなっていく想いを、それでも軽々と受け取ってくれるから…ああ、やっぱり一生敵わない。


もう一つの一周年が迎えられた感謝を此処に。
どうかこれからも、隣で笑っていて欲しい。