お月様の兵長

あの日手を取って貰えなかった私が、貴方を捜すのはお門違いだと重々承知しています。それでも今の貴方が幸せなのか、それだけが知りたくて。あの日切なげに私の頬を撫でた貴方は、他の誰かと笑いあっていますか。悲しい日に埋れていませんか。…一人で背負い過ぎてはいませんか。私のお月様が辛い思いをしていないか、心配でなりません。


貴方の黒髪を褒めた
私を陽の中の夜と呼んだ
貴方は私のお月様

兵長、貴方と過ごせた時間はとても短くて、鍵という鍵はありませんでした。それでも、貴方なら気づいてくださると信じて、三つの鍵を残していきます。…ねえ、兵長。私馬鹿なんです。未だに貴方からの手紙が捨てられなくて。読み返そうとすると、涙が零れそうになる。もう一度抱きしめて欲しいなんて過ぎた願いは言いません。貴方が今幸せなのか、それだけでも教えてください。
……お前、おそらくだが、呟きを残しただろう。他人の空似かと覗きに来たら……、…間違いねえな、揃いの月。搜索文句に色々見透かされてんじゃねえかと二度見しちまった。幸せとは言い難いな。

ありがとう。と、そうだな……いくつか話すべきだろうな、あの日の理由を。

気掛かりだった事の一つは、正直なところ、俺はろくに左側なんざやったことがない。よって……長期的な遣り取りになった場合、お前の期待に沿えない可能性と、余計にお前を傷付ける可能性を考えた。
二つ目は、毎日鳩を飛ばせるとは限らない俺側の事情だ。

……故に、その手をとれなかったというわけだ。
お前がこれを読んでどう思うかはわからない。ただ、とっくに気付いていたかもしれねえが、……俺は相当格好が悪い。知っていたか?
私のお月様は、本当に優しいですね。ふふ、しつこい子供でごめんなさい。でも、貴方にどうしても会いたくて…言葉を残してくれてありがとう。兵長の声が聞けてよかった。…まだ、そばで支えてくださる方は見つかっていないんですね。もう、頑張り過ぎは体に毒ですよ。まだやらなきゃいけないことがあるからへたってはいられない、そう言ったのは貴方でしょう?なら、一時でも休まなきゃ。

あの日の理由はよく分かりました。でも、それでも私はお傍に置いて欲しかった、と言ったら貴方は困りますか?なんて、子供なんです私。貴方が左でなくとも、例えば疲れた時にだけ寄りかかってくれる関係で良かった。ふふ、甘やかすのは大好きですもの、クリスタ・レンズ頑張ります!手紙だって…貴方の負担にならないなら、一ヶ月でも二ヶ月でも待てた。私だって手紙が遅れる日もありますしね。それより、貴方の言葉につきまとう影が気になって、ああこの人は一人でいると頑張り過ぎるんじゃないかなって。

格好良い人類最強のリヴァイ兵長は、皆の前だけでいいんです。私には、一人の人としての、兵長…いえリヴァイさんで居て欲しかった。…ねえ、兵長。ここからは子供の我儘です。ご迷惑なら、忘れて下さい。…もしも、もしもまだお疲れなら、あの日のように膝枕をさせてはくれませんか。恋愛感情や、尊敬ともまた違うこの感情に名をつけて貴方を縛るつもりはありません。このお願いを聞いて下さるなら、この貼り紙にもう一度言葉を残して頂くか、上の直通の鳩に手紙を下さい。思いつくがままに綴った汚い手紙を読んでくださり有難う御座いました。もう一度お目にかかれる事を夢見て。
本当に……馬鹿だな、お前は。その優しさに甘える俺は、その倍は馬鹿だろうな。

今日は訓練任務書類……の後に更に食事会の予定が入っていて、どうにもゆっくり時間がとれねえ。まさかの再会なんだ、どうせならもう少し余裕のある時に鳩を飛ばしてえから少し待ってくれるか。
それか、お前が暇なら、先に鳩を飛ばしても構わん……任せよう。俺の名前を辿れば鳩を飛ばせる。

……また後で。
この場をお借りして、再会できた事に心から感謝を。そして、貴重なスペースを有難うございました。…皆の会いたい人から一刻も早く、連絡がありますように。