俺の猫

秋の夜長ってモンは魔物みてえに人の心を沈ませやがる。
なあジャン、お前は今何処で、誰の膝で幸せな夢を見ているんだろうな。
俺が守ってやれなかったお前の気の抜けた笑顔ばかりが頭を過る。

後悔の念を綴るのは場所が間違っているだろうが、あの悲しい言葉が並ぶ場所へお前のことは綴りたくなかった。

なあジャン、宿も何もかもあの頃とは変わってしまった。お前の鈴の音を探す術も今の俺にはねえ。ただ何処か遠くからでもお前の声が聞けたらと、一握の望みを賭けて此処に残しておく。

鍵なんて言えるもんもねえが、お前がお前であるならすぐに判る筈だ。俺の膝はずっと、お前だけのものだった。
……信じらんねえ。もう、一生あんたの声は聞けねえと思ってた。
呟いた言葉が届くとは思ってなかったし、今でも兵長の目に触れたわけじゃねえと思ってますが…此処であんたの言葉を見付けた瞬間にうるさく響く己の心臓が全てに色を付けました。
俺は誰の膝にも行かねえよ、帰る場所を決めるのは俺なんでしょ?

兵長が家を出たんだ。だから、兵長から直接会いに来てよ。此処の宿から繋がれます。気紛れでも何でも良い。一目でも…貴方に、会いたい。
お前の言葉に触れることが出来て嬉しかった。…自愛しろ、ジャン。