1

尺八

人通りもまばらな小路を、二人の青年が歩いていた。
明らかに日サロで焼いた、滑らかに黒い肌を薄手のニットで包んだ精悍な印象の青年と、
量の多い前髪を白い額に垂らした眼鏡の青年だ。
「・・・新木・・・」
眼鏡の方が色黒の青年を呼び、足を止めた。
木枯らしの吹く寒空だというのに、彼の頬は火照って朱に染まっている。
「待って・・・」
やっと絞り出したようなか細い声は、僅かに震えていた。
新木と呼ばれた青年が、またか、といった呆れ顔で振り向く。
「さっさとしろよ。ほら!」
強引な手が硬直している手首を掴み、グイと引き寄せる。
内股でもじもじとしていた青年が、急に引っ張られてがくんとよろめいた。
「ぁあ・・・っ」
その刹那に薄く開いた唇から漏れ出したのは、熱く湿った吐息だった。
「直人、もしかしてお前、めちゃめちゃ感じちゃってる?」
新木に意地悪い目で顔を覗き込まれ、直人は眼鏡を押し上げる動作で視線を逸らす。
この一時間、彼を苦しめていたのは小さなソフトシリコン製のプラグだ。
長さは11cmほど、中太りの紡錘形をしたそれは楔のように肛門を穿っており、しかも微弱
に震動している。
肛門のところで一度くびれ、そのすぐ奥で大きく膨らんだ形状のため、どんなに動いても
抜け落ちたり奥まで落ち込んだりする危険はない。
尻に物を挟んだまま歩くだけでも、衝撃が前立腺にダイレクトに伝えられて耐えがたい刺
激をもたらすだろう。
それがバイブレーター機能によってさらに震動するのだ。
直腸と密着する柔らかなシリコンがビリビリと震え、直人が一歩進むごとに尻の性感帯に
ねっとりとした蜂蜜のように甘い快感を与えていた。
丈の短いライダースジャケットでは隠しようのない股間が、ジーンズの前をギチギチに押
し上げていることからも、彼がすっかり「出来上がった」状態であることを示している。
「行くぞ」
新木が無情に告げ、掴んだ手首で引き摺るように歩かせる。
「ぁ・・・あ・・・っ・・・はっ・・・んっ」
尻を引き締めて全身をぴくん、ぴくんと震わせながら、直人は緩やかに歩む。
なるべく震動を与えないようにそっと歩くのだが、時おり強く引かれて乱暴に踵をつくと、
三本指を突っ込まれて前立腺マッサージを受けたような悦びが、下半身全部にジワッと広
がった。
「震動、緩めてやろうか?」
一重の大きな切れ長の目を細め、新木が囁く。
触れることは許されていないが、直人のジーンズのポケットにはリモコンが入っていた。
ダイヤル式のスイッチをひねるだけで、淫靡な震動は止まる。
「お願いし・・ま・・・っ」
もはや耳まで赤くなった直人が潤んだ目で懇願する。
新木はニヤニヤ笑いながらわざとすぐポケットに手を入れずに、ジーンズの縫い目に沿っ
て腰を撫でた。
尻ポケットのすぐ上、中央の縫い目の横を撫でられ、甘酸っぱい感覚が尻の表皮をピリリ
と走る。
「・・・くぅ・・ん・・・っ」
仔犬のように鼻を鳴らし、直人が身を捩る。
新木の手が勃起のせいできつくなった前ポケットに差し入れられる。
「あ!・・ぁ・・・っ!」
「バーカ、デカい声出すなって。人に見られてもいいのか?」
そう言いながらも、新木の指先は腰骨をさすり脚の付け根を押している。
散々焦らされて敏感になった陰部の周囲をこすられ、つつかれ、くすぐられて、直人は性
器を中心にドロドロに熔けてしまいそうなほどの淫らな快感を味わわされていた。
ブリーフはもはや先走りでぐっしょり濡れ、いやらしい臭いが蒸気になって漏れ出してい
る。
「あった、スイッチ」
2
最初から分かっていたくせにまるで今見つけたような顔をして、新木がスイッチをひねっ
た。

「んーーーーーーーっ!!」
直人の全身がガクンガクンと大きく揺れ、通りすがりの人が眉をひそめてこちらを見た。
今や真っ赤に染まった顔からは理知的な表情が消え、性的な悦びを貪る獣のようにだらし
なく口を開いている。
新木はスイッチを切るどころか、最大方向に回したのだ。
一時間かけて熟された身体が、突然の激しい前立腺刺激に耐えられるはずもない。
しかし陰茎への刺激無しでは射精できない直人は、絶頂寸前で我慢を強いられるような気
も狂わんばかりの快感地獄に叩き落されていた。
「あーーー・・・ぁあーーーーっ」
溜まった唾液を飲み込むこともせず、一筋の流れが顎を汚す。
同様に筒先からも透明な蜜がだくだくと溢れ出し、ますます大きくなった染みがブリーフ
にべったりと広がる。
解放を求める手が無意識に股間に伸びたところで、新木はスイッチを切った。
「はぁ・・・・っ!」
大きく息継ぎをした直人の体から力が抜け、新木の肩にもたれかかる。
「悪い。間違った」
背中をポンポン叩き、新木が笑う。
その手は徐々に下へと落ち、太腿をひと撫でしたのちに陰部を覆うように添えられる。
カリリ、と爪がジーンズの合わせ目を引っ掻いた。
「んぅ・・・・ぅ・・・っ」
ツーンとした刺激が裏スジに沿って伝わり、そこからジワジワと熱いような感覚が広がる。
「もうたまんないんだろ。イきたい?」
直人は額を新木の胸に押し付けたまま黙しているため、その表情は見えない。
「この辺、すげぇ湿ってる」
執拗に前の方をなぞっていた指が、縫い目を下って会陰方向に伸びる。
「くふぅ・・ん」
陰茎と同じくガチガチに硬くなったそこをくすぐられ、直人がまたあの仔犬の鳴き声をあ
げる。
「イきたいなら、ちゃんとおねだりしろ」
「くぁああっ!」
高圧的な口調と同じくらい強い圧力で会陰をしごかれ、直人は尻たぶを痙攣させながら仰
け反った。


二人はビルとビルの隙間の細い道を抜け、ひと気のない裏手に回った。
「下、脱げよ」
風除け代わりにビルにもたれかかる新木が、さも馬鹿にしたように鼻先で命令する。
ある程度覚悟はしていたが、てっきり性器だけを出してしごかせてもらえると思っていた
直人は、愕然とした表情で新木を見た。
「そんな顔したって無駄。脱げないならオアズケだ」
有無を言わさぬ視線が直人を射抜く。
プライドがあるならここで脱ぐべきではないということくらい、直人にも分かっている。
だが、肛門を深く貫いた異物によってこねられた性感帯がムズムズとした快感を吐き出し
続け、彼の男性器は射精を求めて荒れ狂っていた。
これ以上責められたら、今度は人通りの多い場所で立ったままイってしまうかも知れない。
そうなったら自分は、もう二度と正気ではいられないのではないかと直人は思った。
「・・・分かった」
視線から逃れるように斜めを向いた直人が、努めて機械的にジーンズを下ろす。
先走りでぐっしょり濡れたブリーフが姿を現し、新木が腕組みをしたまま肩を震わせて笑っ
た。
3
「すごいコトになってるな。お前、マジでケツがイイんだ?」
野外で、服を着たままの人間の目の前で下半身を晒す惨めさに、下唇を噛み締めた直人が
泣きそうな目で地面を睨む。
尻から伸びたコードの先についたリモコンを握り締め、打ちひしがれたように立ち尽くす
直人に、容赦の無い言葉が追い討ちをかけるように投げられた。
「さっさとパンツ脱げ。ケツ掻き回されてピンピンになってるいやらしいチンポ、見せて
みろよ」
直人は押し黙ったままブリーフを下ろした。
勃起して点を突く陰茎は、淫水焼けしていない淡い色合いだ。
薄っすらと血管の浮かんだ皮は余ってはおらず、微妙にグラデーションしながら紅い亀頭
へと続く。
陰嚢は寒さゆえかきゅっと縮まっており、それがなおさら彼の陰部を張りのある印象にし
ていた。
その陰茎と陰嚢の根元を、金属製のリングが縁取っている。
このコックリングのおかげで、彼の勃起はいつも以上の持続力と硬度を保っていた。
「お前、ほんとに変態だよな。こんな場所でチンポ丸出しでさ。そうだ、ついでに自分で
スイッチ入れて見せろよ」
直人の肩が震えているのは、寒さのせいだけではないだろう。
理不尽な性的暴力への怒りが彼の中に渦巻いていることは、誰が見ても明らかだった。
「嫌ならいいよ。お前のハメ撮り写真、CD-Rに焼いてそこらじゅうに配るから」
「・・・・・っ!」
何か言おうとした唇が諦めたようにゆっくり閉じられ、直人は新木の方に突き出したリモ
コンのスイッチを少しひねった。
「・・・ぅ・・・・っ」
ブーンと鈍い音がして、直人の太腿の筋肉が引き締まる。
下半身を熱く疼かせるあの震動が、ジワジワと尻の奥から侵食する。
「もっと強く」
震える指が言われるままにスイッチを回しつづけ、次第に大きくなるモーター音に合わせ
て切ない声が喉から絞り出される。
「くぁ・・・あっ・・あぁ・ああっあっ!」
放って置かれたままの陰茎が声につられるようにピクッピクッと揺れ、小さな水滴を浮か
べた。
濡れた先端が冷たい風に冷えるが、それすらも直人にとっては鈴口を焦らす快感になる。
やがてスイッチが最大に回され、直人は直腸で前立腺を叩いて暴れまわるプラグに翻弄さ
れて獣のように吼えた。
「んむぁ・・ぁ・・あぁ・ぁ・・ぁあああっ!」
快感の泉を無機物で嬲られ、先走りがとめどなく溢れ出る。
直人の押し殺した悲鳴のような声と同期して揺れる男根が、その雫を糸を引きながら撒き
散らす。
新木が額を押えて声を上げて笑い出した。
「直人、お前さぁ・・・」
尻を奇妙に突き出して小刻みに揺れる直人が、救いを求めて新木を見る。
「テメエがどんなエロいツラしてるか、分かってんの?」
いきなり突きつけられた刃のような言葉に引き裂かれ、直人が硬直する。
その間も尻をいたぶる震動に押し出されて、新たな流れが陰茎を濡らした。

「あんまりエロいから、俺まで興奮してきた」
新木がベルトを外し、前をはだける。
立小便でもするかのように突き出された太い肉は、しかしガチガチに勃起して僅かに開い
た鈴口から先走りが光っている。
「舐めろ」
新木はリモコンを奪い取ると仁王立ちになり、促すように直人の頭を押さえつけた。
フェラチオ自体は何度も強要されていたが、レイプされた時と同じかそれ以上に惨めな状
況に、涙が溢れそうになる。
「さっさとしろ!」
4
「ぁあぁああっ・・・!」
髪を掴んで激しく揺さぶられ、しゃがんだことで開いた肛門に埋め込まれた異物が違う方
向に動き、漏らしたのではないかと思うほどの熱い感覚が陰茎を通り抜けた。
「そうだ、舌をちゃんと使えよ」
先走り特有の生臭く塩辛い味が口一杯に広がり、吐きそうになるのを堪え、舌を絡める。
一向に触らせてもらえない自分の陰茎を放置したままでのフェラチオは、同じ男性器への
愛撫だけに切ない。
こんな風に唇を窄めて、皮がめくれるほどにしごいてもらえたなら。
喉の奥まで入れて吸い上げながら、根元を甘噛してもらえたなら。
男根が感じているであろう快感を想像しながら舌を使い、唇でしごき、裏スジに軽く歯を
立てる。
「いいぞ。そら、お前にもご褒美だ」
「むぐっ・・・う・・・ぐっ」
スイッチが忙しなく操作され、プラグの震動が強弱を繰り返す。
一定の震動を与えられつづけて慣れていた直人の性感が、再び沸々と煮え立つ。
自分が今欲しいのは陰茎への刺激なのに、普通の男が使うことの無い尻穴への愛撫に悶え
てしまう身体に、直人は絶望した。
「んん・・・出るぞ・・・っ」
新木の背筋がブルッと震えた瞬間、唇から陰茎が引き抜かれる。
間欠泉のように次から次へと噴き出す精液を浴びながら、直人は己の射精を思って股間を
熱くした。