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8狩り獲られた蕾の薔薇

 夜の公園。ベンチの上、僕はひとりぼっちだった。
  そばにリョウ君はいない。でも、どこにも行けない。それがリョウ君の命令だから。
  すずしい。
  ほんのわずかな風が吹くだけで、そう感じる。
  汗のせいだ。
  今は夏で、こうやってベンチに座っているだけでも自然と肌はしめり気を増していく。体のどの部分に意識を移しても、点々としずくの子供が次々生まれてきてるのがわかる。
  でも、全身がすずしさにありつけるわけじゃなかった。
  たとえば、顔。ここはもうびっしょり。もういくつもの汗の玉があごから、首すじから、流れ落ちてった。
”どう?これ革で出来てるんだ”
  でも、それを見た目で確かめる前に、僕はそれに視界をうばわれた。
”えっ、なんで、なんで・・・”
  ベルトつきの目かくし。
  バックルでしめつける感覚、止める音がして、よけいに不安で、よけいに不安な声をもらしてしまった。
”大丈夫大丈夫”
  大きな手のひらで前髪を目かくしにたらして。ひととおり髪をとかして。そしてリョウ君はくらやみの中へ消えていってしまった。
  ・・・だいじょうぶ、なわけないよぉ・・・だってついさっきだって・・・
  湿気と熱をためこむ黒の裏がわ。
  何も見えない分、僕の意識はほんの数十分前の記憶を映像に変えて大きく映し出し始めた。
  しずくが、ひざをつたう。つたって、くつ下にしみこんでいく。
  そのしずくは、僕のせなかで生まれた汗だってこと、おぼえてる。
  ミミズのようにせすじをはいずって、小さなつぶを吸いこんで生長して、さらに下を目指してたれ落ちた。ゆっくりと腰をなぞって。おしりの谷間、なぞって、ふとももを、なぞって。そして今、僕の足もとにたどり着いた。
  またひとつぶ、くつ下に消えてった。胸もと。おへそ。ひざこぞう。ひとすじの足あと。熱い。消えない。
「はぁ・・・はッ・・・はぁ・・・」
  その時。カラダじゅうはびっしょりだった。両ひざがダラダラだった。
「ねえ、もう帰ろうよぉ・・・」
  僕はリョウ君に連れられて、夜の歩道、どこか知らない街灯もまばらな住宅街を歩いていた。
  あしがガクガクだった。夜、といってもいつだれがすれちがうかわからない。そんなさっきから頭にこびりついてはなれない、不安のせいで。
  だって、明らかにおかしいから。
  こんな熱帯夜に、ウインドブレーカーを着こんでるなんて・・・
「ほら、置いてくぞ」
「あっ・・・」
  ぼーっとしてるとジリジリとリョウ君からはなされてしまう。
「ま、待ってよっ、」
  ついて行くしかなかった。それ以前に、はなされるわけにはいかなかった。
  ちゃりっ・・・
「やッ・・・待ってぇ、」
  それはもうひとつの不安の種。
  ちゃりっ・・・ちゃりっ・・・
  くさり。リョウ君の手と、僕の首輪をつなぐくさりが、宙に浮いてしまうから・・・
  ちゃり、ちゃり、ちゃり、
「おねがい、ぃ、っ・・・」
  ムリして、ふらふらのステップをつないで僕はもういちど、リョウ君のとなりを目指す。
「くッ、はぁ・・・はぁ・・・」
2
  追いついて、リョウ君のうでにしがみついた。暑苦しいとか言われてもしかたない。その長いうでとウインドブレーカーで、急いでくさりをおおいかくす。
「もっと、ゆっくり、歩いてよぉ・・・」
  僕、両うでからませてるのに。まともに歩けない、完全にあしがもつれちゃってるのに。リョウ君は歩くペースを変えてはくれない。大またで、僕を引きずるようにしてスタスタ行ってしまう。
「はぁ・・・はぁ・・・ちょ、まッ・・・」
  まともに歩けないのにも理由がある。それは・・・
  コツ・・・コツ・・・コツ・・・
「やっ・・・!だれか来たっ・・・」
  くらがりの向こうで、革グツがアスファルトをたたく音。リョウくんが進んでいく方向に、だれかいる。
「普通にしてればいい」
  背広、着てる。サラリーマン風の男の人。
  でも歩く方向はおろか歩幅すら短くはならない。だめだ、リョウくんこのまま行くつもりだ。
「く、ぅ、」
  言う通り。そう、ふつうにしていればいい。落ち着いてればなにも気づかれない。
  息をひそめた。ううん、呼吸、してなかったかも。もう覚悟を決めるしかなかった。
  コツ・・・コツ・・・コツ・・・コツ・・・
  20m。10m。もうすれちがう。だめ。前見れない。黒の半そでのYシャツのそでに、僕はひたいをこすりつける。
  コツ・・・コツ・・・
  ふるふるふるっ・・・
  気づかれませんように・・・なにも起きませんように・・・
  ぶいぃぃッ、
「あンッ・・・!?」
  ぶぃぃぃぃぃぃぃ・・・
  おしり、がッ・・・!
  まともに歩けない理由、イコール、おしりの中の”ばいぶれーたー”。
「っ・・・!っっ・・・!」
  おしりが、おしりの中が、ぶるぶるされてる。ゆびでするより、細かく、すばやく、くすぐられてる。「今日はこれを入れたまま出掛けよーか・・・」おぼえてる。ピンク色。ソーセージよりひとまわり、長くて太い。それが、いる。いま目を覚ました。リモコン、リョウ君、ズボンのポケットに忍ばせたリモコン、スイッチ入れたんだ・・・
  ”ばいぶれーたー・でびゅー”されたのはほんの数日前だった。
  僕、ばいぶれーたー、きらい。
  こわいから。今だってそう。感じすぎてても機械的に無表情に動きを変えないから。それでいて大きな虫がいるみたいだから。
  それでも、キモチイイって、カラダがそう判断してしまうから・・・
「っ、ぅっく、」
  コツ・・・コツ・・・
  足音が、すぐそこで、動いてる、
  ぶぃっ!ぶぃっぶっぶぃっ!
「ぅや、ぁ、」
  シャツのすそ、かんだ。あふれそうな声をせき止める。
  だって、おしり、感じちゃう。
  感じちゃうからおしりに力が入って、でもギュッとすぼめるとその分オモチャは動きがにぶって、ブルブル感がくもぐる。
  音が、みだれる。
3
  コツ・・・
「あぅ、」
  音、聞こえてる・・・?
  この振動音、もれてる・・・?カラダの内側をつたって聞こえてるんじゃ、ない・・・?聞こえてる・・・?すぐそこにいる人に、聞こえてる・・・?
  ぶいん。ぶぃっ、ぶぃぃぃぃ・・・
  こんなっ、やだよぉ、っ・・・僕のおしりのヒクヒクまで、伝わっちゃうぅ・・・
  うゆん。
「んッ・・・?」
  うゆん。うゆん。うゆん。
  コツ・・・
「ふ、きゅン・・・ッ・・・!?」
  急に、動き、変わった・・・っ?
  振動から、回転。うねうね、身体をそらせながら。それはまるで、ヘビがおしりからその奥へもぐりこもうとしてるみたいな。
  さっきの動きは、意地になれば何とかガマンできた。おしりをこわばらせて、その振動の強さに逆らうようにしていれば。
  うゆんっ。うゆうゆんっ。
「あぁ・・っはっ、ぅんッ・・・!」
  でもこっちは僕の力をスルリとすりぬけてく感じ。内側のおにくを、くすぐって、もてあそんで。心の奥まで入りこんで、緊張や恐怖まで溶かしてく感じ。
「ゃんッ・・・や、ぁ、ぁ・・・」
  リョウ君止めて、どうしよう、声がノドから逃げてく。声、小猫になっちゃう・・・
  うゆん。うゆん・・・
「あ・・・は・はぁ、んっ・・・!」
  コツ・・・コツ・・・
  両手で、リョウ君のうでにツメを立てる。まぶた、もっとぎゅっとする。あし、引きずられてる。
  こんなの聞こえちゃう。ぜったい聞こえちゃうぅぅ・・・っ
「ふ、ぅ、っ、」
  うゆん。
  リョウ君もうだめッ・・・やだっ・・・!キモチ、イイ・・・よぉっ・・・!
  コツ・・・コツ・・・コツ・・・
「はぁ・・・はぁ・・・」
  もう、通り過ぎる。気づかれてない、よね?・・・もうすこしのガマン・・・
  コツ・・・コツ・・・
  早く、行って、ぼくもぉ・・・ッ・・・
  コツ・・・
「は・・・は・・・」
  ・・・
  もう・・・遠ざかっ・・・た・・・?
「・・・痛いよマサキ、」
「え・・・?」
「もう平気だよ」
「あ・・・」
  うしろ、ふりかえる。もうそこには誰もいない。
「ふぁ、」
  かくんっ、
  安心したとたん、ヒザから力がぬけた。歩道のコンクリートの上、ぺたんっ・・・両手両ヒザついてしまった・・・
4
  ヴー、ヴー、ヴー、
「はぅっ!は、は、」
  僕の空想とシンクロしてるかのような、振動。
  その感覚はかたくにぎりしめた両手の中でだった。それなのに、指の一本一本がじんじんしてしまって。背すじ、きゅんっ!しならせてしまって。カクダイカイシャクしすぎ。自分で自分がハズカシイ。
  ヴー、ヴー、ヴー、ヴー、折りたたみ式のケータイ。
  リョウ君はそばにいない。「後で連絡するから」そう言ってわたしてきたのがこのケータイだった。
「う、っぅ、」
  わかってる。わかってるよぉ・・・
  でもうまく開くことすら出来ない。それは目かくしのせいだけじゃなかった。
  じゃり、じゃらっ。
  両手にかけられた、手錠。
  「目かくしとおそろいなんだ」って言ってた。でもそれはもう目をふさがれた後でどういう物かはハッキリわからない。これも革製でベルト式らしい。リストバンドのような物をベルトでガッチリ固定されてるらしい。
  ヴー、ヴー、ヴー、ヴー。くさりの部分が中途半端に短くて、手のひらでもどかしく”おもちゃモドキ”を転がすだけ。
  もしかしてリョウくん、こんなカッコであたふたしてるところまで計算して、想像してるのかなあ・・・バイブ機能、も、ワザと・・・?
  しゅる。あ、アンテナ伸ばせた。カチャ。よしっ、ケータイ開いた。あせりが今は指先を速めてる。
  通話の、ボタン、ボタン、たしか、これっ・・・
”・・・おそーい”
「うぅぅ・・・ごめん、なさい・・・」
”ふふ。逃げずに大人しくしてる?”
「なんっ、な・・・」
  言葉を失うってこういうことなんだ。
  逃げずに。逃げられないよ。逃げられないようにしたのはリョウ君なのに・・・
  さっき、歩道に座りこんでしまった時。犬を飼ってたころのことを思い出した。毎朝ごはんの前に散歩に連れて行ってたっけ。
  まさか、自分が散歩される立場になるなんて・・・
  両ひざと両手を地面につきながら、くさりの向こうの大きな影を見上げてぼんやりそう思った。
  あれが散歩だとするなら、これは・・・
”ふっ・・・ふふっ・・・”
  何も言えないでいる空気を聞いて、いじわるな微笑みが送り返されてきた。楽しんでる。明らかに楽しんでる。
  ご、きゅ・・・思わずつばを飲むのどを首輪がしめつけた。
  逃げられない。僕、逃げられないんだ・・・
  その首輪からのびるくさりは今、僕が座るベンチの脚にカギを使ってくくりつけられている・・・
「・・・」
”こわい?”
「ぅ、ん、」
”そうだよな。この前の海の時も怯えてたもんな・・・”
「・・・」
”じゃあ、怖いの忘れる話をしようか”
「えっ、」
”バイブ。”
  びくんッ!思わずもう片方の手でケータイと口もとをおおいかくす。もともと手錠をかけられてるから半分自然にそうなっちゃうんだけど。
”よっぽどキモチヨカッタんだな”
5
「えぅ、ん、なに、が・・・?」
”お外なのに。ハッキリと言ってたよな?「あン・・・あン・・・」って。”
「うぅ、だからっ、それはぁ・・・って言うか僕ガマンしたよ?ちゃんと、歯を・・・」
”あぁ、そでがマサキのヨダレでグッショリだよ。でもスイッチ入ったらソッコーだった”
「うそ、ぉ、」
”「あン・・・あぁん・・・」”
「やめて、っ、」
”「いやぁ・・・ん・・・」って。”
「やぁぁ・・・」
”キモチヨカッタだろ・・・?おしりの中で、オモチャがビリビリして・・・”
「・・・」
”マサキ・・・?”
「・・・ぅん・・・」
”ふふっ。オレの胸元で、小さく萌だえまくるマサキ・・・」
「・・・」
”すげー可愛かった・・・”
「・・・(熱)」
”・・・”
「(熱)・・・」
”・・・ふふっ・・・あの人も、きっと同じ意見だった”
「やっ、や、もぉおねがいぃ、」
  夢心地は覚まされる。意味ないのに、思わずキョロキョロしてしまう自分がいる。このカッコを見られた時点でかなりヤバイのに。
  リョウ君と1対1なら、まだ、いい。ハズカシイのだって、ガマンできる。
  でも誰か別の人、ましてや全然、名前すら知らない人が、たとえ話の中にだって出てこられるとワケがちがう。
”気付いてた?すれ違う間、ずっとマサキのこと見てた”
「やぅ、や、うそ、」
”そりゃ向こうも見るよな。お前、本気なんだもん”
「な、してないよっ・・・」
”普通にしてろって言ったのに。あの人に近づくほど、強くしがみついてきてさ・・・”
「・・・」
”音も、声も、聞こえてたんだよ?”
「うそっ・・・うそぉ・・・」
”スイッチ入って、お前が声をあげた瞬間、顔をグッとマサキに向けてた”
「だめ、もぉ言わないで、だめ、」
”マサキが何されてたのか、絶対気づいてた”
「やめてってばっ・・・」
”あの人きっと、帰ったらオナニーするよ。”
「っ・・・!」
”オモチャの音と、甘えた声と、マサキが可愛くもじもじしてる姿で・・・”
「・・・だって、僕、男だもん・・・」
”この暗がりならどっちかなんてわかんないよ。それに、男の子でもOKな人・・・だとしたら・・・?”
「・・・(悶)」
”考えてみな?知らない人にオナニーされること・・・”
「やめ、決めつけな・・・」
”目に強く焼き付けた、ウインドブレーカー姿の男の子だけを、頭の中いっぱいに思い浮かべてる”
「うぅぅぅ・・・」
”妄想の世界で、リモコンを持ってるのは、もうその人で。ボタンを押せば、男の子は記憶の中よりも激しく身体を捩じらせて、くねらせて・・・”
「っ、」
”何百倍も大きな声で喘いで・・・”
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「・・・」
”名前、勝手につけられるかもな。どーする?偶然「マサキ」って呼ばれてたら。その人が、「マサキ、マサキ、」って何度も溜息混じりに呟きながら・・・”
「・・・は、ぁ・・・はぁ、ぁ・・・」
”硬くなった自分のモノをしごきまくってるんだ・・・”
「やめて。ちがうから。ちがうもん、」
”ふふっ、なんだよ、”
「見てたとしても、それは真夏に厚着してたからだもん。なんかヘンなヤツだなって、それだけ、だもん・・・」
  キモチヨカッタのは、みとめる。イヤだったけど。
  でも、あの背広姿は早く頭の中から消したかった。単純に、怖かった。僕のヘンタイなところ、見られてしまった。サイアク。それにどこから僕たちのことがバレるかわからない。
  それは、海で会ったあの”のぞきさん”もいっしょ。もう思い出したくない。
  僕がえっちになるのは、リョウ君の前だけでいい。そうじゃなきゃ・・・イヤ、なんだ・・・
「・・・」
”・・・”
「・・・」
”・・・鼻息荒い”
「っ、なってないっ、」
”想われてる、って思って、興奮した?”
「ぅぅ・・・ば、かぁ・・・」
”ふふ。厚着ねぇ。厚着だからこそ、余計その中を妄想するものだし”
「ちょっ、リョウくぅん、」
”そうだろ?ウインドブレーカーの割には膝は剥き出しだし”
  ど・くんっ・・・
”まー見た目だけなら駅伝選手っぽいけど?”
  忘れてた。
  この公園に来るまでがひどく蒸して、暑苦しくて。だからこの”すずしさ”が少し心地よくって。
  自分の今の状況、忘れてた・・・
  かく。かくかく、かくっ、
  にわかに震え始めた僕の両足。そこには白いくつ下とスニーカー。別にふつうだ。
  でもヒザ、そしてその上のふとももは、リョウ君が言う通りむきだし。たしかに厚着の下にそれだけでもじゅうぶん不自然だ。日に焼けることもなかったから白くて暗がりではよけい目立ってたかも。
”あの人はお前のナカミ、どんな風に想像してたかなあ・・・?”
  リョウ君のことばはつづく。僕の気持ちはとどいていないかのように。ううん、やっぱりわかってて・・・?
”ハダカ、かな・・・”
  ぬぐっても浮いてくる汗のみたいに、まっくらの中、かき消そうとしても現れる背広姿。
”服の下に白くて綺麗なハダカを隠して、ふとももにコードアンテナを貼り付けて。そんな、小さな変質者・・・ってとこかな・・・”
  僕の”ナカミ”、思い浮かべてる背広姿・・・
「・・・」
”・・・着込んだり、してないよな・・・?”
「う、うん・・・」
”はだけたまま・・・だよな・・・?”
「うん・・・」
”そっか・・・じゃあ、外灯の下で、”
  外灯。そう、ベンチのそばには外灯があって。きっとそれは、ステージに向けられるスポットライトのように、
”「エプロン姿」のマサキが照らし出されてるんだ・・・”
「ふ、うぅぅうぅ・・・」
”多分、答え合わせしてもあの人は正解してないかもね。”
7
「ぅぅぅぅ・・・」
  ウインドブレーカーの下は、別世界。
  僕の下半身をおおうのは黒いエプロン。
  エプロン、って言ってもほんの小さい、半分のたまご形のエプロン。
  おへそもかくれない、ヒザにも届かない、ふとももだって半分もかくれない、そんなミニミニエプロン。
”着け心地はどう?”
「ふっく、く、わ、かんないよぉ、もぅ・・・」
  スニーカーをつま立たせながらむきだしのヒザこぞうをすり合わせる。バリトンが汗ばむ素肌をなでる。
  エプロンは、腰骨に引っかけるようにして細いひもで体にくくりつける形。それが、おしりはおろか、ふともものつけねすらちゃんとかくれないサイズの小ささを強調している。
  それなのに、はしっこは淡いピンクのレースで縁どられていたりして。
  何の機能も持たない、ただ、着る人をよりえっちに見せるためだけの、そんなエプロン。
”「ブラ」もよく似合ってるよ?”
「ぶらじゃないってばっ・・・もぉぉ・・・見えてないクセにぃ・・・」
  そして上半身もハダカじゃなかった。
  ブラじゃない。そこは僕が言ってることが正しい。
  むしろタンクトップに近い。でもそれは胸のすぐ下までしかなくて。タートルネックみたいに首までかくれるタイプで。胸もととせなかには、イミシンなスリットがあって。
  色は・・・黒。水着みたいな、テカテカで伸縮性のある素材の、黒・・・
”ふふ。じゃあ「女王様」ショーを始めようか。”
「やっ、それ、ちがっ、」
”自分で言ったんじゃん”
「うー、しらないっ・・・知らないもん・・・」
  このコスチュームを着せられてるとき、僕が思わず口にした一言。「なんか、じょーおーさま、って感じだね・・・」。あぁ・・・もぉ上げあし取られっぱなしだよぉ・・・
”足を”
「う、」
”ベンチに乗せて”
「えっ?え、」
”片足じゃなくて両足な?”
「な、ちょ、やだぁ・・・」
”いーからやれよ”
「う、ぅ・・・、――――上げっ、たよ・・・?」
”・・・ふふっ。「フリ」じゃなくてさ”
「え、ちゃんと上げたよお、」
”上げてない”
「なに?近くにいるの?リョウくんっ・・・」
”近くにいなきゃバレなかった?”
「あっ・・・」
”ふふ・・・ウソついたってわかるよ。マサキの事だから、なんでもわかる・・・”
「あぅ・・・」
  ぞくぞくぞくっ・・・耳から流れこむ、電気。氷のつぶ。
  声が分身に変わって、僕を抱きすくめたような感じがした。
  やっぱり、逆らえない。ごまかすことも出来ない。僕は今リョウ君の手のひらの中にいるんだ・・・
”ほら。ん?”
「・・・ぅん・・・」
  右足。ひだり、足。ふたつのスニーカーがついに、地面からはなれてしまう。
  ずっと閉じ合わせてきたふとももの内がわ。外の空気が流れこんで一気に冷やされる。
  こんなカッコ、リョウ君の前でしかしたことないよぉ・・・
”オーケー・・・脚、もっと開こうか?”
「え、落ちちゃう、」
”ゆっくりでいいよ。開けるとこまで、ほら・・・”
8
「そん、なぁ・・・」
  ダメ、こんなのダメ、かくすもの、なんにも無くなっちゃう。エプロンだってふとももでめくられちゃってるから、見えちゃう、っ・・・
  頭ではそう思ってるのに。からだが言うこと聞かないんだ。
  スニーカーたちがベンチの上、すり足でその間隔を広げていく。
  ”こんどは僕の言葉を疑わなかった。やっぱりぜんぶ見すかされてるんだ・・・”そんなあきらめと、少しの期待を心でつぶやきながら。
「う、ねえ、もうダメ。これでいっぱいだよ・・・?」
”そ。これでやっと、ほんとのお外デビューだな・・・”
「うぅ・・・ねぇ、誰も来てない、よね?見られてないよね・・・?」
”さぁ・・・”
  ほんとのお外デビュー・・・
  エプロンの下は、ぱんつ。ほかの”衣装”とおそろいの、黒の。
  両方の腰をきつくきつくしめつけるふたつのベルト。そしてそれらが合流した先のおしりの部分は、完全に、ヒモ。そこにはバイブレーターを取り付ける金具があって、おしりの穴から抜け出しちゃうのをせき止めている。
  そして、一番大切な部分はたよりない、全然ちっちゃいただの三角でしかなくて・・・
「・・・あの、エプロンたらしててもいい・・・?」
”だーめ。そっか、マサキもうはみだしちゃってるんだ・・・”
「やぅ、ちがうぅぅ・・・」
  ぐいぐい食いこんでくる革の三角形。
  その三角のはしはしから、ふたつのタマタマと、ちいさな肉のかたまり、はみ出しちゃってるんだ。
  さきっぽをおそう、公園のそよ風。
  そうなんだ。ウソじゃないんだ。僕、外にいるんだ・・・
”状況を説明してよ”
「ぅえ・・・?」
”エプロンの下、どんな感じ?”
「あ、あのぅ・・・」
”・・・”
「・・・」
”・・・”
「・・・や、だまらないで・・・言うからぁ・・・」
  声が聞こえないととたんにすごく不安になる。こんなカッコのまま置き去りに去れちゃったんじゃないかって。
「かっ、かたく、なってる、の・・・」
”・・・”
「おおきく、なってるの・・・おっ、お、」
”・・・”
「おちっ、んちん、がっ・・・」
  返事がないと、アブナイひとりごとみたいだ。ううん、っていうか目の前、暗闇のその向こうに、話しかけてるみたいだ・・・
”・・・もっとはっきりと話せよ”
「ひぅ、ごッ、ごめんなさい・・・おちんちん、おっきくなってるぅ・・・っ」
  注意されていても、自然と言葉の最後は弱々しくなってしまう。気を抜いたら、泣いちゃいそうだよぉ・・・
”もっと詳しく”
「えぇぅ・・・あの、そのぉ・・・もう、ぜんぶ、はみ出しててぇ・・・」
”・・・”
「下着で押さえつけられて・・・もうずっと、おなかの、おへその下にあたってるぅ・・・」
”・・・”
「ぬっ、ううぅぅ・・・ぬるっ、ぬる、してる、のぉ・・・勝手に、ピクピクしちゃって、おなかでぬるぬるこすれて・・・とまんないのぉ・・・っ、」
”・・・へぇ・・・目に浮かぶよ・・・”
「え・・・?」
”感じすぎちゃって、ベンチで腰をうねうねさせてるお前が・・・”
「ばっ、そんなしてないっ・・・!」
  ちがう。それも当たってる。
  ヌルヌルはかわくヒマもなくどんどんあふれてきて、さっきからチクンっ、チクンっ、花火がおしっこの穴をくすぐりっぱなしで。
  思わずヒザを閉じたくなる。でもヘタに動けば落ちちゃいそうで。脳みそがどっちつかずなせいで、おしりがベンチから浮かんでしまってる。くいっ・・・くいっ・・・うごめいちゃう・・・っ