土浦梁太郎

昴は、尋ねる。これを開いたという事は――土浦、梁太郎…君かい?
こんな組み合わせ、他にはないと思うから恐らく君なんだろうと僕は確信しているよ…
今更探すなんて君にとっては迷惑以上の何ものでもないかもしれないんだけれど…やっぱり、忘れられる訳がない。
九条昴という型に嵌った存在ではなく、昴という存在―…ただの昴として、僕と言う個人そのものを受け入れてくれた君の事を。会う度に、話す度に、触れる度に、凄く温かな気持ちにしてくれた君の事を。
昴は言った、願わくば―…もう一度君の声を、演奏を聞ける事を、と。
―思えば君はいつでも面白い反応をくれたな。フフッ、今もそうなのかい?
…でも、いざと言う時は頼りになる、まるで人々の指針となる北極星の様に僕を導いてくれたね。
星に願いを掛けるなど普段ならする事もないが―…今回ばかりは縁を担がせて貰うとしよう。

・今は無き募集サイトの無登録チャットでの出会い
・僕から連絡先を残し君が応えてくれた
・携帯での半なり、ロールはチャットで
・最初のデートは真夜中の演奏会
・楽曲はジャズ「A列車でいこう」にクラシック「ラ・カンパネッラ」
・屋上での星見、サンドイッチにケーキ
・海、祭…と出掛け、祭りで初めて女物の恰好
・僕の以前の連絡先は「j」から、連絡取り合っていた頃の、君の宛先は「e」から
・途中で同じ機種になったり

――以前、君は恐らく僕を探してくれた事を信じて。
君は相変わらず多忙の様だったけど、僕は構わないよ。暇が出来た時にでも声を掛けてくれるなら満足だし、謝罪の言葉はいらない。お互いが必要だと思った時に傍にいる…それだけでいい。違うかい…梁太郎?
そして、もう一度此方から手を伸ばす事を許してくれ。
梁太郎に伸ばす意思が無ければ、安心していいよ。昴は直ぐに身を引こう―…これは、気付かなかった事にしていい。情けは―…無用だよ?
唯、想う事だけは許してくれるかい…?それ程までに、僕は…昴は、君が好きだ梁太郎。
夫の帰りを頑なに待ち続けた蝶々夫人の気持ち…今なら分かると言うもの…、愛しい者を想い続ける幸せを与えてくれた君に、多大なる感謝を。