短期募集

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1 鶴/丸/国/永(刀/剣)
死にたがり
鉄の塊で成り立っていた頃には感じ得る事のなかった情緒が身を蝕んで止まない。人の子の心が此れ程尊く脆く、其して鮮やかであったとは誰が知っていただろうか。ひとつ事を為そうとすれば着いて回る感情の変化、慣れるよりも前に煩わしさを覚えたのは一体何時から。此の生命を放れば無に還るのかと身一つで戦場に赴き、幾度も死に損なった刀は不要と判断されたか近頃専ら待機を命じられる日々。墨を溶かした様な着流しを纏い、世話役の短刀にまるで死を招く蝶の様だと指摘を受けて笑った筈の顔は実際如何だったのやら。彼を見掛ける事が無くなってしまったゆえ、此の先問う事もないだろう。さて、此の老い耄れを持て余すのは酷と云うものだ。運ばれた夕餉に手を付けない姿を見飽きたか促す言葉に戯れを一つ。此の身を案ずるならば、君の手で終わらせてくれよ。驚いた顔は、ああ、うつくしい。

雰囲気を伝える為と長く綴ったが話は簡単。死にたがりの俺の世話役となった哀れな刀を募っている。きっと君には、俺を殺すな死なせるなときつく言い伝えられているだろうなあ。其れを知って尚、時には頸を絞めろ、時には肌を傷付けろと迫ってやる。如何反応するか、願いを聴き入れるか否かは任せよう。只、時が経つに連れて君への執着が強くなり、行く末は姿が数刻見えんだけで呼吸すら儘ならなくなると思え。愛と呼ぶには、愚かしいほどだ。
先ずは様子見として一週間。其の後、与えられた任を放棄するも続行するも君の自由だ。最後の日に「世話役は慣れたか」と、問い掛けよう。無言の儘去って好し、肯定の答えを継続の証しとする。
ああ、病人如く常に昏く沈んでいる訳ではなくてな。話しが楽しければ笑いもする、下らん事で盛り上がりもする。人の心の有り様に苛まれた結果が今の俺だ。根本的に死にたがりである事を除けば何一つ君と変わらない。半ならば短い言葉の応酬を、完ならばしっとりとやり取りを。二つを兼ね備えられると面白味は増すが、其処は君の望む通りに。言い忘れていたが、暴力的な表現や行為を好まない場合は先に伝えておけよ。加減の努力はしよう。
死を求めて止まない者は俺の他に幾振りか。主命に忠実であった筈の飼い犬、金色の片方を自ら眼帯で覆う伊達男、龍を腕に宿す独り者、愛する小さき者達から逃れ籠城を決め込む年長者、一等の美しさを曇らせる耄碌、自慢の毛並みにすら感心を無くした獣。世話を命じられるは何処ぞの一振りか、打刀以上の者がよいな。褥へ縺れ込む際、此方は鞘となろう。然し取って喰らうのも一興。まあ、頭の片隅にでも置いておけ。

屋敷の奥、滅多に足が及ばない離れに息を潜めて住まう壊れた刀を一目見てやろうと奇特な情緒の持ち主は、組合せや萎え、半か完の指定と完ならば殺せと乞われた場面か幾度目かの会瀬の場面の描写を。媒体は帯のみ、招待状があれば宿は偽で構わないぜ。以上を認めて襖の隙間にでも文を挟めば目を通そう。此の身朽ちるまで、きみをまつ。

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