10 無名さん
(倒れている相手を放っておけなかったのは久方振りに生きた人間に出会したからかもしれないし、機械である自分を家族として迎え入れてくれた“あの人”の事を思い出したからかもしれない。どちらにせよ往来で行き倒れていた人間の介抱に乗り出したのは電子回路の下した決断に違わず。取り敢えず近くに設けられたベンチにまで移動しては人間の身体を横たえた隣に座り、その頭部を己の膝上にそっと乗せたアンドロイドは人工物でない天然の毛髪がそよそよと風に遊ばれるのを瞬く事もせずにじいっと見詰めていた。どれ程そうしていたのか。ふと、意を決した様に表情を引き締め前髪へと伸ばす指先が然し、中空で止まる結果となったのは相手の閉ざされた目蓋が微かに痙攣した為で。半端に固まった姿勢のまま、人間の目覚めをじっと待つ。程無くして覚醒した人物の瞳をおずおずと覗き込みながら訥々と言葉をこぼし)――あ、その…おはようございます。気付かれました、か…?……ぁ…具合、は?