10 無名さん
(暖かいベッドから突如真夜中の正門前へと召喚され、近くにいた生徒に一緒に行こうと声をかけ他の仲間達に別れを告げたのが約15分前、己の独断と偏見でプールを捜索地とし正門を背に左へ進み進み、何とか無事目的地へと辿り着いたのがつい5分前。そして現在、離れすぎないよう互いに気を配りながらも各個捜索を開始した直後のこと、己はというと任務を一時中断し、懐中電灯で己の顔を下から照らしながらプールサイドにしゃがみ込みぼんやり水面を見つめていた) ……。あーあ、ばらばらの小夜ちゃん。身体を探す僕ときみ。来ない明日。志方先生の本気の顔。みんな。さよなら胴体。――…呪い。ワタシノカラダ、サガシテ。(水面に映る自分の生首を指先でつついて揺らしながら、誰に話すでもない言葉を抑揚もつけずに紡ぎだしたのは、非日常に支配され混乱する我が脳内に、ふわふわと浮遊する情報ひとつひとつを言葉にして一度気持ちの整理をつけようと思い至ったから。もっと言うと、昨夜…否、正確には今夜というべきか――からずっと胸中に燻っている不安を言葉にすることで、胸に広がる暗鬱を和らげようと考えたからである。まどかについて思い出せることは2つだけ、暗く濁った大きな目と、口角を引き上げ満面に喜色を滲ませた笑う捕食者の表情。如何せん振り向いてすぐ、声を上げる間すら無く脇腹から腰に掛けて見事に引き千切られてしまったものだから、少女の造作の細部に至るまでを確認する余裕はなく、幸か不幸かまどかに関する視覚情報は乏しいのである。それ以上に印象に残っているのは、大動脈の切断による急速な血圧低下で意識と生命を手放すまでの短い時間、視界の端に捉えた置き去りの我が胴体と、切断面から勢いよく噴き出す鮮血。あれを思い出すと自分の体内に血液が流れている心地がしなくて、手首を眺めながら無意識に小さなため息が零れる。懐中電灯を持つ手はそのまま、目線を相手の方へと転じ、もう一方の手を暗闇に伸ばしてみせ/↑)ねえねえ、今きみの隣にいる僕が実は死体だったらどうする?僕ら一度死んじゃったからさ、…そんな風に思うことない?――僕にちゃんと脈があるか、ちょっと測ってもらってみてもいいかな?