13 無名さん
不動産屋から無事に鍵を受け取り、運び終えた荷物を整理していた♀は、休憩を取ることにしました。
シャワーを浴びたり片付けに疲れてうたた寝を始めたりと、好き好きにくつろいでいるようです。

一方、その頃。夕方までの用事を済ませ、引っ越し業者と新居に訪れた♂に、上司(先輩)からの着信が。
「運んでおいて下さい」と鍵を渡して電話で話す中、あっという間に少ない荷物が運び込まれました。

玄関にある女性物の靴も気に留めず、置いてある荷物は彼が先に運んでいた物と思い込んでしまった、多忙に駆られる業者を見送って部屋に向かった♂は、あろうことか♀が契約したはずの扉を開いたではありませんか。

「きゃあぁぁあ!!」
「うわあぁぁあ!!」

お互いに、いるはずのない住人に驚きおののいたのは無理もないでしょう。荷物を運んでしまっている手前、追い出すことも逃げ出すこともできません。
悲鳴を聞いて怒鳴り込んできた、隣人のエリザベスも交えて三人で話し合ったところ、二人揃って悪徳不動産屋に騙されたことが判明しました。不動産店は既に閉店されており、記載された連絡先も通じません。

ひとまず♀は、エリザベスの厚意に甘えて隣室で生活を始めますが、異国のお姫様だという彼女は庶民の日常生活などお構いなしに、♀を振り回す日々が続きます。
また念願の一人暮らしを始めた♂も、格安の家賃は二人で折半した金額であったことに頭を悩ませていました。

元はといえば責任はどちらにもあり、彼女の境遇を不憫に思った♂は、ついに、こう切り出したのでした。

「この間のお詫びに、メシでも奢ります」

まったく悪気の感じられないエリザベスとは、これからも良好な関係を築いていきたいと願う♀と、毎月の家賃に苦しみたくない♂は利害一致し、翌日からドタバタな同居生活を始めることとなったのでした――。