14 うまやろ

っはは…驚いた、けど大丈夫!これって案外きもちいいか――…も、って、え?ちょっ…、かい…(背面から思い切り吹き上がる水圧にさしたる威力等なかれ、あれよあれよと降り注ぐ散水は無情にも"待った"を聞き届ける事はなく。水塊を空中で四散しまるで霧のように降り注ぐ冷水は、最初こそ"通り雨襲来"と過った不安から花火大会お開きを連想してしまい僅か焦燥感を煽ったものの、目の前の相手に…多少の瞠目は確認出来ていたとして、別段変化は読み取れず、剰え律儀に火を消して己の正面へと歩みいでた頃には、中々どうして生温い夏の風を涼風へと変えてくれるこの状況が然程悪い物ではないなと感じ初めており。発想の転換一つで何事も楽観的に捉える長所故か、それとも良識の欠けた短所故か、恐らくは放水の類だろうと当たりを付けた挙句の果て、間近で向き合った相手にへらりと笑みを浮かべた手前の表情は、如何にも行水万歳と刻まれていた筈である。然し、緩慢極まりない口調で安穏と胸中を伝えるつもりで口を開いた言葉半ば、その笑顔は相手の、”自ら散水側へ回ると”言う思わぬ予想外の行動に寄ってあっさりと奪われてしまう羽目となり。背後に回られたせいでしっかりと視覚で捉える事は出来ずとも、水と己の間に挟まる壁により受ける水量が軽減されたのは目にも明らか、「一体なぜ、」と疑問が浮かんだ次の瞬間、まるで前進しろとでも言いたげに押された背中の圧力により、どうやらこれが相手なりの救助方法なのだと身勝手に悟ったなら、取り敢えずは言われるがままスプリンクラーの範疇外へと移動を果たして。そう言えば先程の答えを返していないな、云々、こんな所で名前呼びのあれこれに意識を巡らせてしまう気の逸れ具合はご愛嬌、そうした緩み故か、はたまた指示通り身を屈めた手前の頭部を襲ったタオルの感覚故か、『お世話』をされる状況に甘んじた手前の手元へ戻らなかったスマートフォンは、暫く相手ポケットに居候する形なるだろう。無骨な動作で水を拭うその感覚はどこかむず痒く、反面心地よさを煽ってくれるお陰ですっかり浸りきった己と言えば借りてきた犬宜しくしゃがみ込み膝に手を添える格好でおとなしく待機、その間告げられた提案には作業合間の邪魔になろうとも大きな頷きで以って同意を伝えて見せ、やや名残り惜しさを感じながらも「よし」の合図で立ち上がると改めて相手の方へと振り返り)水も滴るいい男?になりそこねちゃった。夜のプールとか水浸しな感じは夏!って気がしてこう言うのも案外いいよね。……と言うか、…(対面後、相変わらず適当な感想を述べ連ねていたのだが、"なり損ねた"と冗談交じりに嘯いた"絵に描いたような好男子"がなんと目の前に居るではないか!と気付いた瞬間、詰まらせた言葉尻に合わせさっと掲げた掌を掌打の如く相手へ見せ、続けて指先を曲げちょいちょいと動かすことで言外に"軽く屈め"との支持を一つ。こちらの意向に気付くか否かはさておき、徐に一歩踏み出すがまま前傾姿勢だったためか唯一被害を受けていないTシャツ裾を軽く持ち上げれば、届く範囲のみではあるが先程相手が己にしてくれた仕草同様に…否、それよりも若干雑で不器用さが否めない動作にてその短い前髪を不躾に拭おうと腕を伸ばし。試みが叶うかどうかは相手次第ではあるが、避けられたとしても多少の功績はあげられるように素早くがしがしと掻き回した後は清々しい迄のしてやったり感を備えたドヤ顔を見せる事だろう)一人だけ"いい男"なのは狡いので、俺もキヤスメテイドに。写真は、花火文字じゃなくてこのずぶ濡れ感を残しとこ。並んで自撮り自撮り。えーっと、…スマートフォン…どこやったっけ?