20 無名さん
先生……こんな風に人の心を試そうとするなんて、狡い人ですね。…俺の気持ち、知ってる癖に…でも、子供だと思って油断してると……(保健医の前までやって来るとその顎に手を添えて軽く引き、耳元に顔を寄せて何事か囁く。何を言ったのかは本人と保健医にしか聞こえないだろう。『口説き』が終わるとあっさりと彼女から離れる。頬を真っ赤に染めながら「100点満点…」と呟き、さらさらとペンを走らせ情報を記したメモ用紙を受け取る姿はすっかりいつも通りの無表情に戻っており、軽く会釈するともう用はないとばかりに踵を返す。背中に感じる熱い視線も無視し、一等席で観覧していた相手を促して保健室を後にしようと)

笹「くっさ。あんなんに大人の女がはするかお」

どうも…。当たり前だ、相手は百戦錬磨の女王だぞ?あれくらいで誤魔化される筈がない。(温度がないのはそこに捧げるべき情熱が既に存在しないから。あの時、自分の夢も希望も憧れも全てが壊れてしまった時に失われてしまったから。大多数の観客はあの演技で満足するだろうが"女王"と称した彼女のように形は違えど同じく演じ、人を魅了するような人間や目の肥えた人間には通用しない。衰えたということはないが、天才と称賛されたあの頃と比べれば演技に圧倒的に熱がない。まるで冷え切った陶器人形のようだ。