23 無名さん
(彩り鮮やかに色付く山々を抜け訪れる秋の風が校庭の落葉と戯れてはその名残を見せる午後の一時、図書室の窓際で今日は珍しく使われていないグランド、幾分物悲しさを備える外の風景を眺めていた。寄贈文庫が大量に届いたと言う事で急遽お呼びが掛かった休日、当然数人しか集まらなかった委員メンバーと共に棚作りから始めて全てを収めるまでバタバタと過ごしていたがそれも終わり解散と相成って今は一人、一冊の本を片手にこの空間に留まっているのだ。手にしている本だが、内容にも特に詳しくもない上、然程興味がある訳でもない代物だが、それは個人的に思い出深いものであり、すっかり郷愁に駆られていたのだった。午後の予定も無ければ既に戸締まりも任せれている現状、この図書室で忍び寄る微睡みを待つのも一興か。秋らしい穏やかな日差しが柔らかに射し込む其処で過ごす内、白昼夢でも見るかのように思い出がフラッシュバックする暫しの時間。もし誰かの来訪があったとしても間近に来るまで、若しくは接触するまで気付く事も無いだろう/入室↑)

(窓際に置かれた飾り気の無い植木鉢の中で陽気な日差しを浴び見事に咲き誇る白い花の群集が、開け放たれた保健室の窓から吹き入る風に小さく揺れる午後。普段から自分の周辺を漂う陰気臭さも吹き飛ばす程の晴天に病の訴えは無く、怪我人もいない。委員会の交流を経て唯一懇意にしている養護教諭が背丈が同じくらいだと言うだけの理由で自分を抜擢し、白衣片手に笑顔で留守番を押し付けて来たのが彼之一時間程前だっただろうか、従う必要は当然なかった。しかし医学を志す自分にとって白衣の誘惑は理不尽な留守番をも受け入れさせる効力を持ち、今の自分の姿に気分は高揚した儘棚にあった複数の医学書をデスクで読み漁り過ごす時間は保健医とすっかりシンクロしている。何気なく捲った本の間からひらり、と、一枚の淡く可憐な彩色で彩られた無防備な紙切れが可愛らしく綴られた文字を露わにし、まるでその恥じらいを知って欲しいと言うように目の前へ舞い降りたのはそれから直ぐの事)……おや、これは。(仕方無くと興味半分の天秤はどちらに傾く事もない儘手に取ったその紙は想像通り矢張り恋文だった。締め括りの日付は今から十年程前、内容からして相思相愛を連想させる関係から擦れ違う日々、見つけて欲しいと願う願掛けのような恋文は察するに十年間想い人に見付からずひっそりと息づいていたのだろう、日本人ならではの謙虚で奥ゆかしい悲壮感が美しい。十年間、医学書を只々飾りにしていた当人の後悔と平和さも又、感じる事が出来た瞬間でもあった。お誂え向きの春の風のいじらしい後押しもあり拾った一枚は敢えて心臓のカテゴリーに挟んで本を閉じ、他の医学書共々元あった場所へと。密かに祈る幸運の行方を知る日は果たして来るだろうか)秘めたる美しさは、秘めているから美しい。幸運を、祈りましょう。……さて、そろそろ部活に行きましょうか。


ロル違いすぎ