30 無駄が多い

(夏の宵。屋台で賑わう通から外れた境内の一画、木製のベンチに一人腰掛けて。菊唐草が描かれた赤地の浴衣にボーダー柄の帯、普段は左右で結わえている頭髪を高い位置で一纏めにし、内側に逆毛を巻き込んで足りない身長を補う高さの出るアップスタイルで項垂れている理由は、遡ること一時間、賑わう露店通にあり。己の右手首で存在感を放つシュシュと同カラーを探すべく、人波へと果敢に身を投じたものの、第一に声を掛けたのは春夏秋冬色のリストバンド――ではなく、それに似た色合いの健康アクセサリーを身に付けた初老の男性。手首ばかりに意識を向け顔や体格の確認を怠っては、第二、第三と声を掛けても目的とする生徒には辿り着けず。この類いには滅法強いと自負していただけに、第四、第五と破れたところでプライドは音を立てて崩れ落ち 、褒め上手な屋台の者の言葉すら耳に届かぬまま喧騒を逃れて。三、四組の若者が飲食や談笑を楽しむ落ち着いた雰囲気の境内にて、ベンチの表面に両手をつき、ぶらりぶらり、地面から僅かに足を浮かせて緩やかにばたつかせ、今は離れた露店通の賑わいに耳を傾け。草履の踵は漸く地面に、ベビーピンクのネイルが施された指を絡めて伸びを一つ、そのまま右手を空に掲げると右手首のシュシュが周囲に吊るされた提灯に照らされて。掌を握っては広げ、握っては広げ。無意味な動作を繰り返しながらも視線は自身の春夏秋冬色を捉えたまま、頬を撫ぜる生温い風に呟きを/↑)
ユキ、こういうのは得意なはずなのにー。