50 清丸ロル
(大粒の雨が獣を撃つ散弾の様に窓硝子を叩き続けていた。銀色の枠で四角く切り取られた世界を覗いて見れば空には灰色の分厚い雲が垂れ込め、外の景色が視認出来ぬ程真白く煙っている。月森学園の校舎は今、何か奇妙な事が起きそうな生温い空気と激しい雨音に包まれていた。一階の昇降口へと続く薄汚れた廊下を上履きを履いた足で踏み締めると瞬く間に靴音が掻き消され、まるで誰も存在しない様に気配を隠してくれる。これは好都合だと少年はゴム臭いフルマスクの下で唇を真横に引き、人知れず肩を揺らして一笑。幸い自分が歩んで来た道に他の生徒の気配は無い、誰とも遭遇する事なく目的地である下駄箱へと到着出来た。点滅する蛍光灯の下、仮面の目の部分に開けられた小さな覗き穴から鳶色の双眸をぎろりと光らせ、目当ての人物を探す。点々と置き傘の残る傘立てと開いたままのロッカー、それらを追った視線はやがて黒いカーディガンを羽織った背中へ縫い止められる。――居た。彼との距離はおおよそ三メートルと言った所か、少年は今にも笑い出しそうになる声を何とか堪えて此方の存在を示すべく足下の簀の子板を大きく踏み鳴らす。もしも相手が此方を振り向いたならばそこには白いホッケーマスクを被り安っぽい玩具のチェーンソーを鳴り響かせながら頭上にかざす殺人鬼の姿が露わとなろう/↑)