53 52

Boy's Side
……欠伸を噛み殺しながら電車に乗る。

窓の外を眺めながら、一駅、二駅……。
次の駅だ。次の駅に着けば、「彼女」が乗ってくる……あ、着いた。

スカートの裾を翻して電車に乗ってくる女の子の顔を、気付かれないよう盗み見る。

毎朝、必ず同じ場所に乗ってくる女の子。
彼女は何故か、毎朝何か言いた気に俺の方を見つめてくる。
ちらり、視線の主の方へと顔を動かす。
視界に映るのは慌てたようにそっぽを向く女の子、柔らかそうな髪がふわりと風に舞った。

……どうにも不審人物のような行動をとってはいるが、たまに友人らしき子と話してる様子を見ると別に危険人物ではなさそうだ。
顔立ちも割と整っていると思う。
だけど、どこかで見た顔かと聞かれれば…正直思い出せない。見たことがある気もするし、ない気もする。

ストーカーではない、……と、思う。
彼女と会うのはこの電車でだけだし、妙に視線を感じる以外は被害もない。

彼女は一体何者なのだろうか。
何故毎朝同じ電車に乗り、俺の方を見てくるのだろうか。
……やっぱり、ストーカーって奴なのか?

俺が下りる駅はもうすぐだ。
出ない答えに内心首を捻りながら、何事もなかったかのように電車を下りた。


Boy's Side
……………………………………

他愛もない日常、学校生活にふと小さな変化。いつからだったかは良く覚えていないけれど、視線を感じるようになった。それは例えば廊下を歩いている時だったり、購買へ行く時だったり。ちらり盗み見ると視線の主は一人の女の子だった。最初は怪しいヤツだと思って気にしないフリをしていたのだが、何故か俺は段々その子が気になり始めていた。だけど気づいたんだ、彼女が見ていたのは一緒に居た俺の親友。今まで視線を感じたのは一緒につるんでいた親友が居たからだったのか。現に俺が一人の時に彼女とすれ違ってもこちらを見ることはなかった。つまらない、胸中にモヤモヤとしたものが鬱積する。自分で思う以上に彼女が気になっていたらしい。それにアイツには彼女が居たはずだ、告白したってどうせ──。

そんなある日のこと、下駄箱に一通の手紙が入っていた。読んでみるとそれは例の彼女によるもの、入れる場所間違えたんじゃないのか?──放課後、確かめるために俺は約束の場所へ向かう。初めてしっかりと正面から見た彼女は驚いたように俺を見ていた。やっぱり間違えたのだろう、それでも何故か俺は本当のことを言わなかった。ズルくても良い、彼女と少しの間でも関わりを持ちたかったのだ。


Story
自分を助けてくれた男の子に、感謝の気持ちを伝えたい女の子。
毎朝意味あり気に自分を見つめる女の子が気になるものの、彼女の事が一向に思い出せない男の子。
二人が会うのは平日の朝、電車の中でだけ。話しかけるタイミングが掴めないまま、ただ淡々と時は過ぎる。

そんな日が続いた後の、とある一日。
少し離れた場所にある男子校と女子校の、合同文化祭の打ち合わせの日。

各校の実行委員の顔合わせをすると聞かされ、女の子は他の実行委員と共に男子校へと向かう。
通された教室で女の子が見たのは、よく見知った男の子の顔。
居るはずのない相手の姿に、丸く見開いた目と目が合った。

「……え、まさか本当にストーカーだったの?」
「ストーカー!? 待って、何でそうなるの!?」


Girl's Side
……………………………………

密かに想う人が居る。ただ見つめることしか出来なくて話しかけたりする勇気もない、それでも良かった。見ているだけで幸せ、その日は一日頑張れそう!なんて不思議とそんな気持ちになるから。だけど、そんな私を見兼ねて友人が告白するようにと背中を押した。想いを伝えてみようかな、なんて思うようになるも何をどうしたら良いものか…散々悩んだ挙句、手紙に想いを綴り尚且つ直接伝えることにした。何度も書き直し結局シンプルな内容になった手紙を事前に調べた想い人の下駄箱に入れた。ああ、入れてしまったーーもう後に引けない。

放課後、何度も前髪を直したりそわそわ落ち着きをなくした私の元に足音が近づいてきた。もしやと目を向けるが想い人の姿ではない。なんだ、違う人か。なんて思っていたらその人は私の前で立ち止まった。ーーえ?ちょっと待って、何であなたがその手紙を持っているの!?まさか、下駄箱間違えた!?本当のことを言うタイミングを逃し気づけば私は彼の言葉にただ頷いていたのだった。