62 無名さん
■深夜/失せ物探し(#1)

1.久保寺 蕾 [編]
(消灯時間もとうに過ぎ去った丑三つ時。静寂と仄暗さに包まれた寮の廊下へと忍び足で自室から抜け出ると眠たげな表情で欠伸をひとつ。勿論明かりの無い天井を束の間双眸に映して、視線を下ろせば眼前に続く道は闇に慣れた目でも朧に輪郭を黒く溶かしひっそりと、注意していても時折鳴る自身の足音が一層静けさを引き立たせている様で。ベビーブルーのパーカーに白のショートパンツ、スリッパというルームウェアを纏い進む足取りは緩やかに、静謐な空間を別の何かに注意を逸らされる事もなく漫然と進んで行き。やがて辿り着いたのは談話室。一応後ろ手に扉を閉めればやおらポケットからスマートフォンを取りだし、その明かりを頼りに床へしゃがみこめばそのまま彼方此方と見回し始めて。ゆらゆらと低空をさ迷うスマートフォンと、それに照らし出されるソファの足元や部屋の隅を覗き見るその姿は一見不審者か、はたまたそれ以外のナニカ。しかしじぃと熱心に視線を這わす頭には見咎められる危機感は無いらしく、探し物がないとわかればゆらりと頭を持ち上げて)
……誰かが拾ってくれた、かな。
(ぽつり、零れる呟きはひとつの可能性で。失せ物は花を象った和紙の栞。どうにも寝付けず読み掛けだった本を開こうとして無いことに気付いたそれは、恐らく本を携え就寝前に立ち寄ったこの談話室に落とした筈なのだけれど。もっとよく探せば見付かる可能性も高いが、何せ暗く視界は不明瞭。引き上げか、続行か。暫し悩みながらふらふらと唯一の光源を手首で振ること数秒、取り敢えずもう一周だけこの室内を探そうかと腰を上げて/↑)

2013-04-24 00:25