66 無名さん
今日が終わらない内から次の約束に…あああ、いっいや、その………お、俺、結構こっこういう、の、なな慣れて、るから…だだ、大丈、夫。(好奇な視線に晒されるのは相手の身長だけでなく己の服装にも原因があるかもしれない。男二人でもなるべく悪目立ちしないようにと祖母手製の服を封印したのが運の尽き、白いシャツに重ねたグレーのケーブルニット、ベージュのチェスターコート、赤いマフラーと、上半身のアイテムが相手と被っており。そこに黒いスキニーパンツ、同色のキャップ、リュック、スニーカーを合わせてカジュアルダウンさせているとはいえちょっとしたお揃いコーデに見えないこともなく。祖母の服を選んだ方がよかったかもしれない、もしかすると付き合ってみえるだろうかと、考えすぎの嫌いもあるが出会い頭から緊張の感度は急上昇、バスを降りてからは殊更届く視線を意識から遠ざけたい一心で練習を重ねた例の台詞を復習がてら念仏のように胸中で繰り返していた。そこに掛かった声に反射的に出た台詞が殊の外なめらかだったのは胸中のスピードそのままに早口で告げたせいかもしれないが、失態に気づき、遅れて相手の言葉が頭に入ってくると焦った顔で言い繕い。家族や部活の友達と行く場所に女性が好むスポットが多く選ばれるため言葉自体は嘘ではないのだが、掲げた手は親指を突き立てる代わりに所謂ぐ/わ/しのポーズを取ってしまい、額面通りに受けとめられる可能性は低い)そ、そう、だよね、かっ華道部だ、もんね。みみ三ツ村くんの、お花、いっ一生、懸命、活けたって感じ、が、すっするし…。おっ俺も花、すっ好きだよ。みて、見てると、実家でご飯食べて、ってる、ような、気持ちになる…から。(首を振って緊張を追い出そうとしたところで再び掛かる言葉。それに文化祭での相手の作品が思い出されて、窺える正直な気持ちは意外なものではない。しかし本音を洩らすそれが珍しいものに思え、今日は花に表情を崩すような貴重な場面が拝めるのではないかと相手から受け取る薄いチケットには仄かな期待も詰まり、吃音はそのままだが精神も安定に向かうというものである。チケットと引き換えに園内のパンフレットを手に入れながらゲートをくぐった先には電飾で形作られた雪だるまが可愛らしく鎮座して客をお出迎えしており。後方に広がるビオラの花壇はライトアップされ、紫には紫、ピンクにはピンク、花色に合わせた光の色に可憐な輝きは増すばかり。そしてその終わりは遠く、広大な敷地の一端を窺わせる。まだ入り口だというのに僅かに瞳は見開らかれ、感慨に胸を踊らせながらひとまずはパンフレットを捲ろうか/↑)わー、かわ、可愛い、ね。…あ、お城には、道、なっなりに進、めば、いいみたい。花、ゆゆ、ゆっくり、見ていっ行こう。