72 無名さん
【湊】(手の平にはまだ温もりが伝わってきた、先程拾った小鳥からの。唯一それがまだ生きていることを伝えてくれる証で俺はやや安堵する。でもいつになく今日は気温が下がり、そして俺が柄にもなく走ってるもんだから手の平のそれには冷たい風が猛烈に当たるのだろう、拾い上げた時より少しずつ衰弱しているような気がした。

【榛名】(傷付いた鶯を拾ってから早数日が経ち、今日もそれの世話をするために、遊びの誘いも全て断り、学校が終わってから早足で帰宅することにして。勿論鶯が心配だということもあるけれど、自分自身拾って、更には名前までつけた鶯に愛着が湧いてきたこともあり、気付けば鶯に付きっきりになっているな、と人通りの多い帰路を、人の波を交わしながらローファーという歩きづらい靴ながらも出せる限りの全力で走って。

【正木】(冬の夕方、耳を覆う布越しに届いた音。歩みを止め白い息を視認可能にまでした重く浮かぶ 雲から視線を下げるも、風を避けるように背を丸めた帰宅途中の人々がそこかしこで道路を通り過ぎるばかり。何か聞こえた筈だが気のせいだったかと足は一寸前と同じ歩幅で再出発し、 臙脂のマフラーに鼻まで埋めて手袋着装の指は厚いコートのポケットへ。

【五十嵐】 (予備校から帰宅し開けた玄関には鍵がかかっており、夜がかなり更けていても部屋の灯りはついでおらず。今更仕事で遅い両親の居ない独りきりの家になど何の感情もなく、丁寧に靴を揃えるも無言で室内へ。寄ったキッチンのテーブルの上には母親の字で書かれた手紙とラップされた夕食がお盆の上に乗せられており、それを片手で軽々と持ち上げるとうっすら灯りを点した廊下を抜け、心なしか早まる足は階段を上がって。


さわりの部分だけ抜いてみたんだけど誰が好み?