89 無名さん
(意識の外から不意に届く呟き声に動きを止めた。聞き覚えあるトーンの持ち主を脳裏へ思い描くまで数秒。頭上に伸ばした腕を降ろし、背筋と首とを更に反らすだけの横着で後方を確認しようと試みて。石段に座る相手を逆しまの視界に認められる域へ届いたなら、想像どおりの顔が大きく口を開いた様子に思わず零れる笑い声。己こそ横着故に垂れ下がる前髪で額も露わな間抜け面を晒した癖に、笑いは姿勢を戻しても尚収まらず。本心の無い謝罪と共に相手へ向き直る際には乱れた前髪より先に口元を手で隠し、取って付けたように問いかけて)…ふっ、うふふ、ああ、ごめんなさい、その…お邪魔してしまって。ええと、綱島さんもお昼休憩ですの?…ふふ。