9 無名さん
(先ほどまでの薄暮もすでに星粒を燦めかせるかという頃。藍染めに井桁柄の浴衣は動きまわったためか既に襟を崩し、しかしそれを気に留めることもなく、耳に聞くのは周囲の喧騒、目に映すものは眩い夜店の照明。そして鼻孔をくすぐる様々な屋台の匂いに意識を奪われ、己の右手首に着けた何かも忘れ、祭りの酔いに任せて手にした食べ物はもう両手の指では数え切れないくらいか。そしてまさに今、小銭入れから出された三百円と引き換えに受け取ったのは、色とりどりのスプリンクルのまぶされたチョコバナナ。差し出されたそれに頬を緩め、お礼とともに振り返り、右手に持ったチョコバナナを頬張りながら石畳の上に下駄を鳴らそうとすれば、意識が散漫になったのか見知らぬ相手に肩をぶつけてしまい、慌てて謝罪の言葉を口にして/↑)ありがとうございまーす! …うおっ、すみません!