9 無名さん
猫と少女のお話
むかしむかしあるところに、とても可愛らしい、ひとりぼっちの女の子がおりました。名を、トトリ。
両親に囲まれてささやかながらも幸せだったトトリの生活は、急に暗転します。宝石商を営んでいた両親が借金を苦に蒸発したのです。勿論幼いトトリに、その理由など分かるはずもありません。マフィア達に根こそぎ金目の物を奪われ、家を追い出され、手元にあるのはお気に入りのぬいぐるみのみ。トトリは、居場所を求めて歩き出します。

時を同じく。昼間から酒を呷り、あてもなく城下町をふらつく男がおりました。名をシド・フィッツロイ。有名な公爵家の次男坊として生まれた彼は、出世第一の両親から見放され放蕩三昧、その日気ままに好きなことだけをする、野良猫のような毎日をただ怠惰に過ごしておりました。お金も余るほどありましたし、それを目当てに近寄ってくる女も山ほどおりました。しかし、シドの心の隙間は埋まりませんでした。

年齢も立場も違う二人は、街外れの公園で邂逅を果たします。両親がいなくなった、とぬいぐるみを抱きしめ一人涙するトトリにシドはこう告げました。

「外の世界には何でも願いを叶えてくれる不思議な宝石があるらしいぜぇ。」
「いい子にしてりゃあ、いつか見つかるかもなぁ。」

単に幼子をからかいたかっただけなのか、哀れな少女を慰めたい情が湧いたのか、居場所の無い少女に己の姿を重ねたのか。シド自身にもよくわかりませんでした。
勿論、そのような話など聞いたこともありません。絵本の中の夢物語にすぎないのです。しかし幼いトトリは、その話に瞳を輝かせました。

「おそとのせかいに、つれてって。ほうせきでおねがいごと、かなえたいの。」
「おねがいなの、パパとママにあいたいの。」

…こうなっては、後に引けません。嘘吐き猫は少女と、世界を旅することを決めたのです。

 ギルド「ねこのしっぽ」
シドが金と権力に物を言わせて作った冒険ギルド。
ギルドマスターは勿論シドだが、行きたい場所は全てトトリ任せ。メンバーの加入に制限はなく、性別や身分に関係なく誰でも加入できる。フィッツロイ公爵家の所有するマナ船「ソレイユ号」に乗って世界を旅をするのが目的。