家康。

今更、どの面を下げて貴様に言葉を贖えばいい。別れらしい別れでは無い。所謂半と完、その境界すら蒙昧な遣り取りの中、宵闇が夜を覆う限られた時間で、夜毎貴様は私の身を求めた。陽の光に集る女共のように愛想も無ければ、可愛げも色香も無い、ただ悪態を吐き続ける私を、貴様は選んだ。…不可解、にも。

……家康。
貴様の住まう地が天災に見舞われた、あの日。貴様の待っていて欲しい、という乞いに私が応え、それからひととせが流れた。
生死すら定かではない貴様を探す事が例え無為に等しい事だとしても。此処に私は、私自身に巣食う貴様への思慕を埋没させる墓を立てるつもりで、捜索の板を立てに来た。

見つからなければ、それ迄だ。
鍵らしい鍵は、持ち合わせてはいない。

貴様が光色で、いつか私を“茶室”と呼ばれる場所へと連れて行きたい、と言って聞かされた記憶がある。恋仲である数組が入れる場所があり、そこで私をよく知りもしない他人へと自慢するのだ、と嘯いた貴様のだらしの無い、癇に障る笑みだけが……唯一の鍵か。

見つからないなら、それでも構わん。
私は私自身に見切りを付け、全てを封じた後。
静かに口を噤むのみだ。