1 ナナバ

青い星に宛てて。

Vie la princierーーー…


書類整理を兼ねて、私が寝てしまわないよう見張っていて欲しい。
そう頼んで名乗りを挙げてくれたのが、君だった。
互いに一目惚れなんて何処かの国のお伽噺みたいで思わず笑ってしまうけれど、君に触れ、言葉を重ねるうちに、やっぱり運命を感じずにはいられなかったよ。
最初で最後の恋にしよう、そんな風に思ったのは、自然な成り行きだったと思う。

そんな中で、突然君から別れを告げられた。
この世界から旅立つという内容だったね。
最後に貴方と出会えて良かった、と。
とても驚いたし悲しかったけれど、例え何ヵ月、何年かかっても待ち続けようと決めた。
離れていった手を、もう一度掴むために。

二ヶ月後、私の呟きに君から手を伸ばしてくれた。
守っていたはずの君に守られていたと気付いたのは、その時だよ。
空白の時間の中で、でも確かに重なっていた部分もあって…それが、どうしようもなく嬉しかった。

それから度々鳩を交わして、プレゼントを送って。
連絡がとれずに大騒ぎして、挙げ句の果てにハンジを謝りに行かせたこともあったね。
風邪をひいた私が医務室に行くのを渋っていたら、少し怒った後散々甘やかせてくれたこともあった。

そんな君に自分から別れを告げる日が来るとは思わなかったけれど、…約束を破って、ごめん。
君から鳩が来ない間、任務に励む中で、自分の目指しているものがはっきりしたんだ。
もしその夢が叶ったら、もう一度、生まれ変わっても君に出会えるようここに言葉を残して旅立とうと思う。

鳩が途絶えて3ヶ月弱経つから、君にこの言葉が届くのか、最後に送った鳩がきちんと届いているのかも分からない。
それでも、私は私の愛した人を信じている。

自分を卑下しがちな君が、日々の暮らしの中で懸命に訓練に勤しみ、自分を好きになっていってくれること。
それは、私の喜びだった。
君は幸せになれる、愛されるべき人だ。
自分を傷付けるような、他の人の言葉に惑わされないで。
辛い時、悲しい時、どうか君の傍らで、君を本当に大切に思っている人がいることを覚えておいてほしい。
少なくとも、私はずっと君の幸せを願っているから。

暖かな時間を、言葉をありがとう。
私の最初で最後の恋人が君で、ーーー…クリスタ・レンズで、本当に良かった。
ありがとう、この世界でたった一人の大切な人。
どうか、身体に気をつけて。
2 クリスタ・レンズ
もう二年もの月日が経とうとしてしまっているのですね。…私の王子様、ナナバさん…お元気ですか?

訓練や任務に明け暮れる日々の最中に鳩が急死し、忙しさから此処へ戻るのにも覚え書きをしていなかった馬鹿な私は貴方に会いにも鳩を飛ばしもできなくて…。漸くここに辿り着けた時には貴方からのこの言葉が残されてから数週間経っていました。
愛しい貴方が決めたこと。馬鹿な私を好いてくれる気持ちが沢山詰め込まれた言葉。約二年前の私は貴方を捜すなんて野暮なことできなかった、数ヵ月会えなかった間も貴方は私の愛しい貴方のままだったから。

…旅立ったナナバさんの夢は、叶いましたか?

生まれ変わってもいないし、もうこんなにもの年月が経ち、私が私を卑下しがちなのも…少しマシにはなったけれど相変わらずで、貴方の居ない日々が流れていく中で度々貴方を思い出してはこの言葉を繰り返し読み返し続けて。
やっと私もここに言葉を残す勇気が出てこうして書き綴ってはみたものの……遅すぎるよってナナバさんは笑って下さるのかしら、想い出の中の貴方は私に甘過ぎるからもうわからないですね。

辛い時、悲しい時、いつも私の傍には貴方が居てくれて旅立ってからも貴方は心の中に居続けてくれました。
私にとって今でもたった一人の愛しく大切な貴方が、夢を叶え幸せに笑っていますように。ずっとずっと幸せに笑っていられますように。

たとえ二度と出逢えずとも、
私もずっと貴方の幸せを願っています。
3 ナナバ
驚いた、…本当に、息が詰まるくらい。
長い任務を任されて、前だけを見て、走って、走り続けて。
ふと昔を思い出して立ち寄った場所に、君の残り香があったのだから。

何から話そうか…。
まずは、クリスタがきちんと日々を歩んでいることに安心した。
昨日話していた者が、次の日にはいない日常が当たり前のこの世界で、どうか幸せに生きていてくれればと願っていたから。
無理はしていない?
昔のように誰かを思いやって、その分自分を傷付けていたりしないかな。
沢山の人から愛されるべき君が、君自身を傷付けてはいけないよ。
大丈夫。クリスタは、クリスタのままで良いのだから。

私の夢は、…そうだね。
少しずつ近付いているけれど、まだ叶ったとは言えないかな。
でも、自分の夢を追いかけることを許し、助けてくれる人々に囲まれて、本当に幸せな日々を送らせてもらっていると思う。

もし、もう一度出会えたなら、その時に話させてほしい。
そして、クリスタの話も聞かせてほしい。
1年後になっても、2年後になっても、遅すぎる、なんて笑わないよ。
離れていた時間の分だけ、君の心に寄り添えたらと思う。

可愛い、優しい…私のクリスタ。
君の行く手に幸あらんことを祈って。
4 ナナバ
未来の君へ

いつの日か目に留まるかな、という期待を込めて。
以前どこまで話したか確信が持てないけれど、夢が一つ叶ったから、その報告を。

昔のクリスタのような、自分が嫌いで嫌いでたまらないと俯いてしまう子供たち。
そんな子供たちが、ひとりでも自分を認められるよう、受け止められるよう、そして自分を愛せるように支えることが私の夢だった。

そのスタート地点に、やっと立つことができたんだ。

最後に話した君は以前よりも少し大人びていて、もう良い子じゃなくなっちゃいました、なんて随分綺麗に笑うようになっていたね。
良い子のクリスタも、良い子じゃなくなったクリスタ…ヒストリアも、私にとってはどちらも大切な人であることにかわりはない。

私は未来の君に、君らしく生きることのできる世界を作ると約束しよう。
いつの日か、もう一度会える日を信じて。
5 ヒストリア・レイス
ナナバさん、お元気でしょうか。

結論から言うと私、貴方から逃げたんです。
再会した貴方は夢に向かい頑張っていて、輝いていて、とても眩しくて素敵だった。それに比べ今の私は、とあの時に思ってしまったの。
良い子じゃなくなったどころか、ただの悪い子。

色々と吹っ切れた所もあったけれど私やっぱり…誰よりも自分が嫌いで堪らなくて、卑下してしまう所もちっとも直っていませんでした。
当たり前なんですけどね、そんな簡単に直るような事なら元から悩む筈か無いんですもの。それは今もそのまま私の中に巣食っていて、貴方からあの日逃げた時からより根深く私を縛り付けて責め続けている。
ねぇ、ナナバさん。それは君の自業自得だよ、って笑ってください…おねがい。解ってるんです、本当に、私は馬鹿だった。ううん、今も馬鹿なんだけれど…本当に、逃げたら後悔するって知っていたのに。

頑張る貴方の隣に立つには私は相応しく無かった。

でも……よかった。
貴方の夢が、一つ叶った。それは私にとっても、凄く嬉しくて幸せな事だから。スタート地点から、今ナナバさんは何処まで進んだんだろう。…もう私は知る事が出来ないけれど。
ずっと、いつまでも、貴方を応援しています。

時には立ち止まって御自身を労り、癒して、無理だけはしないでと…せめて祈らせてください。

敬愛する貴方へ。
言葉が目にとまらずとも気持ちが届きますように。