1 ジャン・キルシュタイン

強奪野郎へ宛てる。

丁度1ヶ月前のこの日は、消えたお前の健在を知って直ぐに鳩を飛ばした日だ。覚えてるか。

お前の姿を見なくなった数年間、オレはいつもお前の息災や健在を願い、壁の外へ出る度にお前の姿を探していた。
それまで共に過ごした日々は、決して長いとは言えなかったが…それでもオレの身体を蝕んだみてぇに、頭ン中はお前のことでいっぱいになっちまってた。
毎日オレの布団に潜り込ンじゃあ文句ばっか垂れやがるお前の声も、狭いベッドで寄り添った温もりも、一切感じられなくなってからは不足感を感じるようにもなったし、喪失感さえ抱いた。
目まぐるしい日々は当たり前のように過ぎて、いつしか数年の年月が経った。お前の情報が得られないまま、オレはお前のことを諦めようかと思ったこともあった。
けど、心のどっかではお前のことを諦めたくねぇって気持ちがあって、最後の望みをかけてオレはお前の捜索を改めて再開した。
そこからまた数年と長い月日を経たが、懐かしい声と共に、お前はオレの前に戻って来てくれたな。
それがどんだけ嬉しかったか。捜索されてるなんて思ってなかっただろ?あん時のお前の唖然としたアホ面は、今でもはっきり覚えてるぜ。
そっから長年の隙間を埋めるようにオレたちは距離を縮め、恋人っつー新たな関係になったな。
あの頃のオレはきっと想像も出来なかっただろうよ。精々互いを認め合う仲間としての進展があるだけだって、そう思ってたのがまさかこんな想定外なことになるとはな。
まだ馴れねぇこの関係にむず痒い感じはあるが、お前を必死に探していたあの頃よりも、今の方がよりお前のことを大切な存在だと思ってる。
…誰かに手紙を書くなんて今までしたことねぇんだ、笑うんじゃねえぞ。

なぁ、エレン。オレはお前に、この心臓を捧げてやってもいいって思うくらいにはお前に惚れちまってんだぜ?マジでらしくねぇよな。けどよ、関係が変わったからじゃなくて お前を探し求めていたあん時から、もうオレの答えは出てたんだ。
いがみ合ってたあの頃も、思い返しゃ楽しかった…のかもしんねえ。けどそれ以上に今が最高に楽しくて幸せだ。
こうしてまた、俺の隣にお前が居ることが信じられねぇよ。
奇跡ってのは必ず起こるモンなんだな。
今なら、その奇跡も信じられるぜ。
オレをこんならしくねぇ男にした責任は、これからしっかりとってもらうからな。
それから、お前が嫌だっつっても離してやる気はねえ。が、許される限りは隣に居させろよ。それくらいの我儘、言ったっていいだろ。
この手紙はきっと最初で最後だ。
小っ恥ずかしくて続けられる気がしねぇしな。後々、お前の笑いのネタにされてもムカつくしよ。
エレン、改めてお前がオレの元へ戻って来てくれたことに礼を言う。ありがとよ。
それから…好きだぜ、お前のこと。
お前の背中も、そのすべても、オレに守らせてくれ。
2 ジャン•キルシュタイン
この場に手紙を残すのは、あの日で最後にするつもりだったが…慶賀すべきこの日、新たに筆を執るのも悪かねぇだろうと思ってな。
改めてお前に宛てる事にする。

今日という日に、こうしてお前へ祝福の言葉を贈るなんてのは、あの時の俺はきっと予想もしなかっただろうな。初めて面を合わせた時も、お前の誕生日はとっくに終わっちまってた後だったろうしよ。
離別から長年の月日を経て、再会を果たしてから今日まで数ヶ月。初めてお前の生誕の日を祝うむず痒さっていうのか。慣れねぇもんもあるが、まぁ取り敢えず目は通しとけ。文句なら後で幾らでも聞き流してやるからよ。

五年ってのは決して浅くはねぇ年月だが、今となっちゃあそれも大したことねぇなって思える程に、新たにお前と過ごす日々はすげえ実のある時間に感じている。
あの時よりも侘しい時を過ごさせちまってる事もあるが、変わらずオレの帰る場所として傍に居てくれるお前には…正直頭が上がらねえ。
そこに胡座をかく気はさらっさらねえし、お前が心底幸せだと思えるよう、この身を呈して努めるつもりだ。あの日の誓いも忘れちゃいねえよ。
来年も、こうしてお前の生誕の日を祝ってやるんだからな。
当然それだけじゃあねぇぞ。四季を共に巡りながら新たな思い出を作ったり、あん時出来なかった事をこれからやり遂げんだ。
お前となら些細な事でも最高のもんになるって思ってるからよ。だから傍に居ろ。

少し話が逸れちまった気もしないでもねぇが、改めてお前がこの日に産まれた事、出会ってくれた事へ祝福と感謝の言葉を送らせてくれ。
誕生日、おめでとう。エレン。
お前と出会えて本当に良かったぜ。

ありがとよ。