1
藤田 翔-After a tale
誰もいない生徒会室で武人は新しいシャツに袖を通していた。
生徒会室までの道のりをプレザーだけを羽織ってきた状態で歩いてきたのだが、
授業中だった為にその姿を見た人間はいなかった。
着替え終わると、武人は深いため息を吐いた。
静まり返った部屋にそれはかなり大きく響いた。
武人のやり場のない気持ちがそうさせたかも知れない。
校庭を見渡せる生徒会室の窓に頭を打ち付けて、自分の憤りをやり過ごそうとする。
そこに校庭の隅の植えられた木々の間をフラフラと倒れそうになりながら隠れるように
歩いていく翔の姿が目に入ってしまった。
「くそっ!」
またいつものいいようのない憤りがこみ上げてきて、武人は拳で窓を叩いた。
あの親子の所為で、母はノイローゼになった。
事あるごとに喚き、泣き叫んでそこら中の物を投げまくる。それはひどいものだ。
そんな母を宥めすかし、落ち着かせる毎日は…嫌になるほどだった。
母がそんなんだから、父はますます母から遠のいた。
それがまた母のヒステリーに輪をかけて…悪循環だ。
あの女は今ごろ、勝利の笑みを浮かべているに違いない、そう思うと腸は煮え繰り返る。
翔…あの女と父の息子。俺の異母弟。
もしあいつがいなければ母のノイローゼもここまでじゃなかったと思う。
だから、憎しみのすべてをあいつにぶつけた。
あの小さな身体を無理やり開いて、傷付けたかった。
傷付けることで、いくらか溜飲が下がるはずだったのに……。
こっ酷く傷付けた後、一切の存在を無視する気でいた。
翔という存在を自分から抹消するはずだった。
だが、武人の中から『翔』という存在は消えなかった。
むしろより鮮明に残ってしまった。
最初は傷付けられても尚、反抗的に光る目に興味を持ったのかもしれない。
自分が私生児ということに引け目など感じていない、その強い光に…。
生徒会室までの道のりをプレザーだけを羽織ってきた状態で歩いてきたのだが、
授業中だった為にその姿を見た人間はいなかった。
着替え終わると、武人は深いため息を吐いた。
静まり返った部屋にそれはかなり大きく響いた。
武人のやり場のない気持ちがそうさせたかも知れない。
校庭を見渡せる生徒会室の窓に頭を打ち付けて、自分の憤りをやり過ごそうとする。
そこに校庭の隅の植えられた木々の間をフラフラと倒れそうになりながら隠れるように
歩いていく翔の姿が目に入ってしまった。
「くそっ!」
またいつものいいようのない憤りがこみ上げてきて、武人は拳で窓を叩いた。
あの親子の所為で、母はノイローゼになった。
事あるごとに喚き、泣き叫んでそこら中の物を投げまくる。それはひどいものだ。
そんな母を宥めすかし、落ち着かせる毎日は…嫌になるほどだった。
母がそんなんだから、父はますます母から遠のいた。
それがまた母のヒステリーに輪をかけて…悪循環だ。
あの女は今ごろ、勝利の笑みを浮かべているに違いない、そう思うと腸は煮え繰り返る。
翔…あの女と父の息子。俺の異母弟。
もしあいつがいなければ母のノイローゼもここまでじゃなかったと思う。
だから、憎しみのすべてをあいつにぶつけた。
あの小さな身体を無理やり開いて、傷付けたかった。
傷付けることで、いくらか溜飲が下がるはずだったのに……。
こっ酷く傷付けた後、一切の存在を無視する気でいた。
翔という存在を自分から抹消するはずだった。
だが、武人の中から『翔』という存在は消えなかった。
むしろより鮮明に残ってしまった。
最初は傷付けられても尚、反抗的に光る目に興味を持ったのかもしれない。
自分が私生児ということに引け目など感じていない、その強い光に…。
2
そして抱く度に、その光が反抗的から切なげな縋るような目に変わっていった時、翔は
武人の中に決して消えない存在となった。
義弟として以上の感情が何か芽生えたのだ。
泣きそうな顔で切なく自分を呼ぶ翔の声に、武人は胸を抉られるような愛しさが込み上げた。
その身体をすべて優しく愛してやりたいという想いに溢れた。
だが、それは武人の胸の中だけに深く沈められる。
武人は決して翔にその感情を晒さなかった。むしろ逆にますますきつくあたるようになった。
その小さい身体にかなりな負担をかけているだろう事はわかっていたが、止められなかった。
この感情が、想いが、武人自身はもう何か分かっている。
だが、武人はそれを絶対認めるわけにはいかなかった。
武人はコツンと窓に頭をつけて、一時瞑目する。
「俺までお前を…なんて、笑い話にもならない…」
自分まであちら側に走ってしまったなんて知ったら、今度こそ母は発狂してしまう気がする。
ヒステリックで、馬鹿で、可哀想な女。それでも自分を生んでくれた母親なのだ。
武人には見捨てるなんて事は出来なかった。
思いをすべて胸の中に無理矢理しまい込むと、パッを顔を上げくるりと踵を返す。
今はこんなことで煩ってるわけにはいかない事態がさし迫っている。
自分の前に新たな敵が現れたのだ。
初等部の平井教諭…
あいつが翔に接触し始めたのだ。
初等部の平井という先生がショタコンであるということは裏ではかなり有名だった。
彼の毒牙にかかった初等部の生徒は公にはならないが、かなりな数だという。
高等部で生徒会長という役柄、さまざまな情報はどこからでも入ってくる。
誰も知らない先生、生徒達の裏の顔なんてはいて捨てるほど沢山知っているのだ。
「あのクソエロ野郎には…一度、痛い目を見てもらったほうがいいかも知れないな…」
たとえ自分の感情を認めていなくても、翔を好きにしていいのは自分だけなのだ。
武人は誰一人として、翔を触れさせる気はなかった。
「俺の物を欲しがるなんて…身分不相応なやつだ…」
翔だけが知っている裏の顔で武人はこれからのことを思索し始める。
授業終了のチャイムと共に、武人は生徒会室を後にした。
END
武人の中に決して消えない存在となった。
義弟として以上の感情が何か芽生えたのだ。
泣きそうな顔で切なく自分を呼ぶ翔の声に、武人は胸を抉られるような愛しさが込み上げた。
その身体をすべて優しく愛してやりたいという想いに溢れた。
だが、それは武人の胸の中だけに深く沈められる。
武人は決して翔にその感情を晒さなかった。むしろ逆にますますきつくあたるようになった。
その小さい身体にかなりな負担をかけているだろう事はわかっていたが、止められなかった。
この感情が、想いが、武人自身はもう何か分かっている。
だが、武人はそれを絶対認めるわけにはいかなかった。
武人はコツンと窓に頭をつけて、一時瞑目する。
「俺までお前を…なんて、笑い話にもならない…」
自分まであちら側に走ってしまったなんて知ったら、今度こそ母は発狂してしまう気がする。
ヒステリックで、馬鹿で、可哀想な女。それでも自分を生んでくれた母親なのだ。
武人には見捨てるなんて事は出来なかった。
思いをすべて胸の中に無理矢理しまい込むと、パッを顔を上げくるりと踵を返す。
今はこんなことで煩ってるわけにはいかない事態がさし迫っている。
自分の前に新たな敵が現れたのだ。
初等部の平井教諭…
あいつが翔に接触し始めたのだ。
初等部の平井という先生がショタコンであるということは裏ではかなり有名だった。
彼の毒牙にかかった初等部の生徒は公にはならないが、かなりな数だという。
高等部で生徒会長という役柄、さまざまな情報はどこからでも入ってくる。
誰も知らない先生、生徒達の裏の顔なんてはいて捨てるほど沢山知っているのだ。
「あのクソエロ野郎には…一度、痛い目を見てもらったほうがいいかも知れないな…」
たとえ自分の感情を認めていなくても、翔を好きにしていいのは自分だけなのだ。
武人は誰一人として、翔を触れさせる気はなかった。
「俺の物を欲しがるなんて…身分不相応なやつだ…」
翔だけが知っている裏の顔で武人はこれからのことを思索し始める。
授業終了のチャイムと共に、武人は生徒会室を後にした。
END