ファミリーの皆さんへ

お元気にしていらっしゃいますか?
何を今更…と思われる方もきっと多いと思うのです。皆さんと過ごした日々はひどくかけがえのない愛しい時間でしたのに、私は日毎に居場所がなくなっていくのを見るのが怖くて、見て見ぬふりをして、そうして黙って消え去ったのです。
許されることではないと存じております。船長でありましたあの方にも悲しい思いをさせたことでしょう。薄情と罵られて当然なのです…。
けれどいくつ月日を重ねても、思い出すのはかつての日々。募る後悔と共に足を運んだ場所で自らの愚かさを知るばかり…。
許されるのでしたら今一度、この場所で二度目となるメッセージを送っても宜しいですか。
一人一人に宛てたいものも沢山ありますが伝えきれないので一言を。幾度も離れた私を、その度に温かく迎えてくれた貴方達と船長である貴女が、私はとても大好きだったのです。許して欲しいとは言いません。臆病な私をどうぞ蔑んで下さって構いません。ですが…ですが、我儘を叶えて下さるなら一つだけ。こんな私が貴方達をファミリーと呼ぶことだけは許して下さい。願わくばもう一度お会いしたいのですが、それは我儘が過ぎますよね…。もしお元気でいらっしゃいましたら一言頂けたら…とは思っております。

今更ながら鍵を。
私は見た目10代、実年齢は20。
うわばみで不味い物を食べても平気。
ファミリーの蒼い印が首の裏。
海賊船で旅。
不思議な力を持つ道具があった。
見張り番なども楽しめた。

これでわかって頂けるとは思うのですが…。
もしお心当たりのあるファミリーの方がいらしたら一言下さいな。嬉しく思います。…図々しいとは承知ですけれど…。

それから、その…ずっとずっと考えておりました。私はどうもそちら方面の感情には疎いものですから考えても正しいのかはわかりませんが、多分、そうなのでしょうね…とぼんやり。この期に及んでごめんなさい。最後にカウントダウンをご一緒した貴方のこと、きっと私は好きでした。…戯言です、どうぞ忘れて下さいね。
神様っているんだ。ああー…ほんとうにうれしい。目の前にいたらハグできるのに…はぁ。元気だった?わたしヴァイオリン弾きだったんだけど、おぼえてるかなぁ。冗談でもわすれてたなんて絶対の絶対いわないで!泣く!

わたしも逃げ出して、ごめんなさいとありがとうが言えなかった。船長はわたしたちの為にいつもがんばってくれていたのに、裏切ってほんとうにごめんなさい。ほんとうにゆるされないことしたって深く反省しています。
いつも、ご飯いっしょに食べてくれてありがとう。冒険、どきどきしたね。風邪ひいたとき、頭を撫でてくれてありがとう。一緒にみた花火もきれいだった。いたずらしても笑ってくれたね。魚、投げてごめんね。眠れなくなったとき、ほっぺにキスしてくれたのは誰だっけ。いっしょに楽器が弾けて本当にしあわせだった。
あと、あの日。タキシード姿かっこいいねって言えなくてごめん。ほんとにかっこよかったよ。……実は送れなかった返事、まだ残ってる。
みんなと過ごした日々はキラキラしていて、だいすきだったよ。

わたしの鍵はヴァイオリン、紫。かしこくて、かわいい。これは言い過ぎた。
オシャレとごはんが、だいすき。左耳の下に紫色の印があるよ。

アイラビュ、わたしの大切なファミリー。すこしだけでもいいから、話したいな。

P.S 吟遊詩人のおねーさま
わたし、連絡しても大丈夫…?
少し反応が遅くなってしまってごめんなさい。
もちろん覚えています…!以前も貴女は私の呼びかけに反応して下さいましたよね。あの時だってとっても嬉しかったんですよ、私。
私にとって貴女は可愛い妹のようで、懐いて下さっていたのも幸せに思っていました。いつだって出戻った時に歓迎して頂いていて…ふふ、私の方こそ今すぐ抱きしめたいくらい。
可愛い楽士長さんが良ければいつでもご連絡くださいな。
私の方からもご連絡しようと思っているのですけれど…今すぐだと時間的にきっとご迷惑でしょうから、今日中には。
届いていなかったらお伝え下さいね。
気付くのが遅くなって申し訳ない。ああ、ヴァイオリン弾きの言う通り“神様”というのは本当に存在するのかもしれんな。かつて旅路を共にしたお前たちの姿こそ見えてはいないが、大切な仲間の遺す文字を此処に間違いなく見留められたこと――安直な言葉にはなってしまうが……とても、そうだな……嬉しいと思っている。

本当は自分がここに言葉を綴ること自体、正しいのかどうかも判断が利かんのだ。あの時、俺もまた最後まで船長に寄り添いきれなかった。船長、あなたの目に此処へ遺す言葉が映るかすら分からないけれど。すまなかった。あなたにはきっと悲しい思いや辛い思いをさせてしまった。長い歳月を経た今ではあなたの心がかつてのように明るく、健やかなものであることを心から願っている。いつも俺達の前を行き、燦然と眩い希望で導いてくれたあなたに改めて、感謝と……今更詫びて何が変わるわけでもないことは重々承知だが、あの時の謝罪を。

さて、文章がかさばるのは相も変わらず悪い癖でな。
しかしあまりに長々とすると皆も目が滑ってしまうだろう。この辺りでひとつ、吟遊詩人と楽士長に倣って鍵を並べるとしよう。

・本の虫、フードを常に着用
・得物は抉る剣、フランベルク
・団員たちの身体にはそれぞれ仲間の印

出来ることならばあの場で出会った全ての仲間に言葉を残したいのだけれど、それをしてしまうとキリが無いからな。一先ずは、俺に考古学者として在れる居場所をくれた温かい船長、美しい言葉で未だ見ぬ世界のことを教えてくれた賢しい吟遊詩人と、軽快に跳ねる音符のような明朗さでいつも皆の手を引いてくれた楽士長に向けて、有り難う。
それから……これは、恐らく、とても昔のことだから……お前にはきっと届くことのない言葉になるのだろうけれど――いつか俺を初めて友人と呼んでくれた彼にも、感謝の気持ちだけこの場に留めさせて欲しい。

あの船で時間を共有した仲間たちのことは今でも何より大切に思っておる。どうか皆が、便りは無くとも一人残らず息災であるよう。
気付いてはいたのだけど、何分昔のことで自分がどんな姿で船に乗っていたのか覚えてないのよねぇ…。覚えている記憶を頼りに書くけれど、私はファミリーが結成されたばかりの頃に船に乗って、直ぐ降りてしまった記憶があるの。期間も短いし……皆の記憶にあるか定かじゃないけど、取り敢えず鍵について書かせて。

・水色の髪で扇を持っていた
・兎にも角にもやる気がない
・団員の身体に刻んでいた名称を単語にすると英語。声に出すなら四文字の言葉で最初がpの音

短くてもあなたたちと過ごすあの日々は楽しかったわぁ。今もこの海で繋がってると思うとなんだか不思議、嬉しい気分よ。
それじゃあまたね。皆の幸せを心から星に祈ってる。
6 削除済
度々すまない。どうにも残した手紙の送り先に誤りがあったようでな、試しに文を出してみたが俺の元に届かないことに気付いた。ああ、昔の仲間とまた言葉を交わせるかもしれないと期待にかまけた途端にこれだ。些か気恥ずかしい話が過ぎるが、どうか目を瞑って貰えると有難い。
上の書き置きに気付いて手紙をくれる誰かが居るかは分からないけれど、もしもの時の為、正しい送り先を改めて残させて貰うぞ。手間をかけて申し訳ないが、手紙はこちらへ頼む。

それから、新たな書き置きが増えているようだな。久方ぶりに見るお前の言葉に思わず幾度も懐かしい筆跡を読み返してしまった。確かに共に旅をした時間は短かったのかもしれないが、お前のこともよく覚えている。どこか気怠げでふわついた宙を下る鳥の羽根のようなその物腰、相変わらずのようで何よりだ。
重ね重ねにはなるが、三人もの家族の筆跡を幾年越しにこの場で見ることができて本当に嬉しい。どうかこれからもお前たちが息災であるよう祈っている。

何度も空白を自分の文字ばかりで埋めるのも申し訳が無いから、簡潔に要件だけの文章ですまんな。それでは。
8 爆弾魔
チャオ!
久し振りに覗いてみたらなんだ、見覚えのある旦那や嬢ちゃんらの筆跡が。
つってもオレは新参者だったからよ、お前さんらが覚えているか…分かんねーケド!

思えば色々こじらせてたな、仲良くなりたかった旦那に喧嘩吹っ掛けて困らせた記憶があるよ。あの人に謝りたい、実はオレあんたに憧れてましたーってな。
今でも覚えてるンだが、ありゃ無いわー……すまなかった。

ってのをここで言うのは場違いかねェ。
それから、最後にご一緒した嬢ちゃんが…今じゃ素敵なベラドンナになっている事を祈っているよ。びっくりする程に噛みつき癖のある嬢ちゃんさ。

あと…今だから言えるが、キャンプで一緒だった黒の似合う嬢ちゃん。戻ってくるのを待ってみたけど、遂に会えず終いだったな。たぶん、好きってヤツだったのにな?なんて言ったら斬られそうだな、おお怖い怖い。
お前さんも、今素敵な家族に囲まれていると嬉しい!

団長殿には挨拶出来ずにいたな、怪我をしていたようだが今も元気に飛び回っているといい。問題ばかり起こす問題児だったが、それでもファミリーだと呼んでもらえてとても嬉しかった。あんまり居心地が良いもんで長居しちまった。
楽しいひと時を、本当にありがとう。

今でもみんな、オレのファミリーだよ。


赤紫の髪の、傘男より。