1 エルド・ジン

青いインクの手紙

まず最初にコレは本来なら机の奥に締まっておくべき独り善がりの独白だ。
だから例え貴方が何かの拍子にこの手紙を手に取ったとして、出来れば見て見ぬ振りをしてくれる事を祈ります。ホラ、どんな顔して任務に就けば良いのか分からないので…何て流石にそんな青い事は言いませんが、素直に照れ臭いんで、ね。


貴方は俺の憧れです。誰より高く速く軽やかに宙を飛ぶ姿は本当に背中に羽根が生えてるんじゃ無いかと、初めてその姿を見た時は同期の奴等と興奮のまま酒を飲んだ記憶があります(その後の失態は暴露した通り)。
何の縁か貴方の傍で動ける様になり、人類最強の戦士の背中に立って戦える事が誇りになって、だからきっとあの張り紙を見付けた時衝動的に身体が動いたのは必然だった、の、かもしれない。曖昧になるのは今となっちゃ全てが後付けされた俺の俺による憶測だからです。
正直あの時はそんな大層な想いを抱えて逢いに行った訳じゃ無かった。制限時間のある気紛れの一つに仲間入りさせて貰えれば程度の、ほんの、小さなか細い縁だと思っていたので。だから今ある現状は俺の夢想の産物なんじゃ無いかと思える程現実味の無い幸せで、本音を露呈するならそれこそ恋愛童貞かよって程度には余裕が有りません。
(…何故か俺はあの人に軽い男だと認識されていた。何故だ。顔か、髭か、髪型か?中身とは考えたく無いので選択肢より除外)


あの一通から日々重なっていった手紙の数々は今机の引き出しの一つを着々と埋めていってます。
思い出を語るにはまだ未熟で、一言で片付けてしまうには未完成の想い。
例えばの話、同じ顔に囲まれた所で俺が選ぶのは貴方なんだって事を、どうしたら伝わるのか。
余所見なんざ考えも無く、ただ貴方の一挙手一投足を記憶に刻むのに夢中です。
直球の中に突然の変化球を打ってきたと思えばブーメランで突き刺さった言葉に案外照れ屋な顔を隠し切れない所とか、男前で格好良いのに可愛いなんて本当に俺を一体どうしたいんですか。


……とか、思い出してたら顔が見たくなってきた、欲求不満のガキか俺は。今日はあの人は本部だな、雨降らねェと良いけど…。そう言えば約束の日も近付いてるが無事にエスコート出来る気が全くしない、取り敢えずこの恋愛童貞も吃驚の挙動不審っぷりを何とかしねェと、ああクソ…当日までに用意する物、オレンジ、シナモン、ラム酒……。


えー…まァコレを書き終わる頃には約束の日は来てるんだろう。
例の言葉は紙に独りぶつけた所で練習にはなるかもしれないが虚しいので止めておく。想いと共に直接本人に。
……最初に予想していた通り、余裕が無いまま書き殴ったから到底見られるモンじゃ無くなった。元より秘密の手紙なんで、渡さずに此処に置いておこうと思う。

12.xx エルド・ジン
2 リヴァイ
温かい言葉で満たされたこの場所が俺に不似合いだってのは痛い程分かるが、可愛い部下が認めた手紙に落書きを残す位は許されんだろ。なあ、俺が見て見ぬ振りを貫ける様な出来た大人だとでも思ったか?

お前が屋外で裸踊りを曝したのは俺の所為だとでも言いたげな書き方だが…それは後々深く追及するとして。
出逢った日の事は鮮明に覚えている。気紛れに名前を呼んで、お前が応えた。たったそれだけの出来事が今日に至るまで、俺の心臓を揺さ振り続ける結果になろうとは考えもしなかった。

俺の右腕を担う男だ。兵士として優秀なのは周知の事実だが、飄々としている(軽いとも言う)様に見えて誠実なところや、根がクソ真面目なところは話をするようになってから初めて知った。
余裕綽々に見えて偶にガキみてえな事を言いやがるし、思考回路が全体的に古い。厭に強引な癖に最近じゃ少しずつ弱い部分が顔を出す様になった。新しい一面を知る度更に惹かれてるだなんて言ったらお前はまた、だらしねえツラして笑うんだろうか。
――もう一度言うが俺は“人間臭い”奴が好きだ。なあ、エルド。

実を言うと聖夜を過ごす約束にそこまでの期待を抱いちゃ居なかった。勘違いするんじゃねえぞ。年の功ってのは時に厄介なもので、単に期待を打ち砕かれる事にビビっただけだ。
もし叶うなら。お前の気が変わらなければ。そう自分に言い聞かせる事で保身を図った。

それなのにお前は俺の願いを当然のように叶えてくれた。いとも簡単に遣ってのけたが、誰にでも出来る事じゃあ無い。それは確り自覚しろ。

胸が詰まると伝えるべき感謝の言葉すら出て来ず、己の未熟さを知る。言いたい事は言葉が腐っちまう前に伝えなきゃならねえ、これは持論だ。もし俺が生き急いで可笑しな事を口走ったら、その時は笑って受け流せ。機転が利くお前にとっちゃ容易い事だろう。


…そろそろ収集が付かなくなって来たので退散する。書いては消し、を繰り返したので紙が大分汚れちまったが許せ。

最後になるが俺にとってはお前が隣に居るだけで充分過ぎる程に幸せだと言う事を、決して忘れるんじゃねえぞ。