1 リヴァイ

Dear....

俺達が重ねた日々は全てが燦然とした記憶であり、其れは脳髄にまで鮮やかな色を残す。美しいお前の言葉に俺は感情を高揚させてばかりだ。
エルヴィン...俺の愛しい旦那よ。
薬指で輝く指輪に口付けを落としながら...
さぁ、お前だけに言葉を贈ろうか。

偏愛、狂愛、...そして渇愛。
愛という柵に縛られお前という底無しの泥濘に落ちいく様は嘸、滑稽な物だろう。
兵士として屈強な精神を鍛えて来た筈だが、
お前の前では酷く脆い。
其の口許から紡がれる言葉に俺の心臓は高鳴りを見せ、一掴みでもされれば見事に潰されてしまいそうな程に...心も身体もお前に掌握されていると言っても過言では無ぇ。

お前しか見えない、
否、お前しか見たくない。
お前だけが居れば...其れで良い。
そう容易く思える程に、
其れほどにお前に溺れているんだ。


ー...兵士長とも在ろう者がこんな事言っていたらガキ共に笑われるな。
だが、俺は悔いの無い選択をする。
目に見える物だけを信じれば良い。
そうだろう?
ならば努めるべきは...お前の傍に居て、お前を愛し抜く事以外に無い。


エルヴィン。
お前と共に添い遂げよう。
命を賭してお前を守る。
例え世界を敵に回そうとも...
此の心臓はお前の物だ。


長らく続いた驟雨。
この雨に終止符を打ったのは、
紛れも無ぇ、お前だ。
暗闇の中、手探りで掴んだやっと出逢えた掛替えの無い光。
何物にも染まらない俺の...、
エルヴィン・スミスよ。


奇跡ともいえる出逢い、
これは偶然では無く必然だ。
心から愛する事を教えてくれたお前へ
溢れる言葉を此処に刻む。


愛している。
お前だけを愛し続ける事を此処に、
薬指の指輪に重ねて誓おう。


Feb. 14, 2014
2 エルヴィン・スミス
思えば、お前と出逢って早三ヶ月。
月日が経つのは早いものだと黄昏ながらも、共に経験したあらゆる事が今私の脳裏に鮮明に甦ってくる。

さて…執務の手を止め、愛しいお前へ宛てて言葉を贈ろうか。


普段から、私の為に何か出来る事は無いかと趣向を凝らし幸せを届けてくれるお前は何て愛らしいのだろう。
そんなお前を、時に私は手酷く扱ったりとしてきた訳だが見捨てること無くどんな時も健気に受け入れてくれたね。有り難う、そして御免よ。
私に初めて、愛を紡ぎ身体を捧げてくれたお前を私は何より大切にしなくてはならない。お前の薬指に光る、誓いは其の為に立てたもの。

バレンタイン、と言う甘い時間は恋人たちの為に有るものらしく。
此の素敵なイベントを、愛しい人と共に過ごす事が出来る幸せに今、私はうちひしがれている。
こうして君が私の隣に居て、私を慕い、愛を紡いでくれる。
此れ以上の幸せは無いと、断言しようではないか。そう、例えば君が傍で息をしてくれるだけで堪らなく幸福になるんだ。

普段君には伝えられない感謝を、此処に。


私の為に生きろ、リヴァイ。
その代わり、私もお前の為に生きよう、誓いに沿った、必然として。何よりも大切に想っているよ。
お前は人類の、そして私の中の大事な希望なのだから。


2.14 誓いの日に最愛のお前へ宛てて。
3 リヴァイ
三ヶ月という記念日を共に迎えた、
唯一の愛しいお前へ...。

立春は当に過ぎている中で漸く垣間見えた春の兆し....。
暖かな陽射しを受け、兵団裏の樹木に背を預けてお前との思い出を脳裏に蘇らせていた。
揃いの羽根ペンで今日も又、お前だけに言葉を贈ろう。


三ヶ月、という新たな節目。
日に日に増し行くお前への愛おしさは如何にも抑えられねぇ。
報告書を纏めている時も脳内には優雅に居座り続けるお前が居て...其の手を休めては溢れる程の想いを只管に堰き止めている。矢張り俺の心も脳髄も完全にお前に奪われているようだ。
オイ、.....如何してくれる。


月日が過ぎるのは余りにも早く、
お前とは一年以上の付き合いなんじゃねぇのかと錯覚してしまうが、未だ三ヶ月なんだな。
たった三ヶ月、と言えども俺達の過ごした日々は濃厚なものばかりで、毎夜逢瀬を重ねては更に愛おしさが募る。
お前へ愛の言葉を告げる事に忸怩たるものがあるが...まぁ、月に一度の事だ。


...愛しているぞ、俺のエルヴィン。
此れからも口煩くお前だけに愛を囁く事となるだろう...。
お前への目眩く想いは色褪せる事は無く、更に深くなり続けていく。
変わらずに俺を愛し続けてくれ。
俺もお前に心臓を、生涯を捧げよう。

愛しいエルヴィン....俺の旦那よ。
例え、煩いと口を塞がれても此の横溢する想いは簡単には止められない。
ならば...俺は其の手を外して溢れ出る言葉を告げよう。


俺はお前を...

エルヴィン・スミスを愛している、と。


薬指で輝く指輪へ口付けを...、
重ねて胸許で光る翡翠へ想いを馳せて。
4 エルヴィン・スミス
「お前さえ居なければ、苦しい思いをせずに済んだのに」


あの日の私は、恐らくこう続けていたのだろう。
お前さえ居なければ、こんな風に苦しまず、醜態を晒さず、私は私らしく居る事が出来たのに、と。
あの時は、お前から逃げたかったのかも知れない。其の純粋無垢な想いを一心にぶつけてくるお前を、ともすると私の手で殺めてしまいたかったのかも知れない。


お前と交わした遣り取りを見返し、時間を忘れてはまた重ねてみて。
ああ私は、心から此の人が好きなんだろうと再認識する良い切っ掛けとなったのは三ヶ月目を迎えたあの日。

何時も困らせ、傷付けてごめん。
お前の笑った顔が見たい筈なのに、私はお前を悩ませ、苦しめているだけなのかも知れない。私さえ居なければ、お前は笑って居られるのだろうかと、不意に思ってしまったりもするんだ。
だが此処でお前を手離しては、この先どうなってしまうと思う?

狡い私は、全く別の顔で別の者を抱くのだとお前は笑うのだろう。しかし、其れは既に私ではないんだよ。
だが私は、何処までも正直でありたいと思う。


お前さえ居なければ、居なければ。

──違う、そうじゃないんだよリヴァイ。
お前が居てくれるからこそ、誰かを一途に想う事の喜びや辛さ、そして何にも踏み込む事の出来ない、綺麗な心を深く深く知り得る事が出来た。
とても、怖い事だと思った。だが掛け替えの無い存在を信じ、抱き続ける強さを、お前が教えてくれたんだ。

此れからも、ずっと先まで。弱い私の傍に居てくれ。


気持ちは届いている?
愛しい、私の可愛い子。
3.14のこの日に、一足早い先月の礼を兼ねて。
5 リヴァイ
此れは俺の持論だが...
人間は生きるのが悉く下手だと思う。
人の言葉に流され己の本質を見出せぬ儘に生涯を終える。
決まったレールを走らされる...
其れではまるで、傀儡のようだ。

何れが正解かは誰にも分からない。
今の己にとって最善と思える選択をしなければ其れは後悔へと変わる。
"悔いを残すな"
多くの仲間の死を看取った俺の、生きる教訓の一つとして此の言葉を常々部下に叩き込んで来た。


そんな中、俺は己の選択を信じ...
とある野郎に心臓を身体を捧げた。
碩学で炯眼、そして非情、冷酷を併せ持つ...人間らしさは何処かに捨て置いちまった⋯団長、エルヴィン。
そう。俺の旦那、......お前だ。


団長であるお前と
右腕である俺...
愛し合う俺達の関係を知ったら豚野郎共はどう動くと思う?
そんな危ない橋を渡ってまで
お前の傍に居たいと願う俺は...
矢張り酷く滑稽なんだろうな。
だが其れで良い。
俺とお前は確固たる信頼で繋がっている。其れはこの四ヶ月の軌跡が物語っている事だ。


紅蓮の紅葉が執務室へ流れた季節。
あの赤を光に写しては美しい模様に目を輝かせたな。
だが、俺には数多の血潮に見えた。
戦地で命を賭して戦った仲間を映した...枯れ落ちる前の最期の抗いにも見えたんだ。

俺と共に過ごした季節は移り変わり...今宵、初めて春を共に迎えたな。
東洋の桜、と呼ばれる...薄紅色の五弁花。
内地の高級料亭での桜並木、
美しい夜桜...お前と共に眺められた事を嬉しく思う。
お前と共に育てた桜盆栽も無事に開花して、
お前と覗き込む時には...
満開の色を見せる事だろう。
四ヶ月...共に歩んでくれた事に感謝を。


お前が幾度か俺の首に手を掛けた時、
其の非情な眼差しを受けようとも...
息が詰まる事にも、何故かお前を愛する気持ちは変わらなかった。
其れ程に心酔していたからだろう。
お前に殺されるなら本望。
だが、其れは共に年老いてから頼もうか。...今は、仲間の想いを叶える事が先決なんでな。


エルヴィン、
お前の声は聴こえている。
...確りとこの心臓に届いている。
お前の心に生まれた不安に打ち勝ち、俺と歩みを共にしてくれている事...
"俺を選んだ"、この選択はお前にとって正解だったか?

あぁ...愚問か。
俺はその答えに恥じねぇ様に...お前に幸せを与え続けねばならん。
人を想う気持ち、お前を想う気持ちが俺を突き動かした。
俺達が過ごした日々は燦然とした思い出と成り、掛け替えの無い未来へと続いている。
運命に抗い、
人生を謳歌させ、
共に生き、共に朽ち果てるまで...。


お前が死ぬ時は
...俺も死ぬ時だ。

此の心臓が休まる時迄...
お前の傍を離れない。
終生の伴侶として永い道程を歩もう。


出逢えた奇跡に感謝を。
俺にとってお前と出逢えた事は
俺の人生の中で一番の正解、だ。
だから...繋いだ指先を離すなよ?
只管に...未来を、前を見ろ。
其の碧眼に浮かべた移り変わる景色を共に見ようじゃねぇか。
お前の背負う運命を共に背負う。
苦楽を共にする事も夫婦の責務だ。


巨人の居ない平和な世を夢見て...
人類が勝利を掴む、其の時まで...

お前に心臓を捧げる。


...愛している、エルヴィン。


お前の薬指に忠誠の口付けを。
重ねて俺の薬指へ永久の愛を誓う。
6 リヴァイ
内地の一角、
揃いの黒地の浴衣を着て...
行燈に照らされた桜並木を
カランコロンと下駄を鳴らして
二人でぶらりと歩む。

舞い落ちる花弁の狭間より見える月の美しさにお前を想い、ふと傍らを見遣ると柔和な笑みを浮かべるお前が居て。
月明かりに照らされた其の横顔に瞳を奪われ、人類最強の兵士と呼ばれた俺は...ただの一人の男と成り代わる。

今だけは...この平穏が続いてくれ、と
残酷な日常へ戻る前に、この男との幸せをもう少しだけ...と。
信仰心なんざ全く持ち合わせていない俺が、ほんの少しだけ、名前も知らねぇ何処かの神に願った。

さて、縁側に淀み薬指の指輪を月に照らして今宵もお前だけに言葉を贈ろう。隣で聞いてくれるか?
...なぁ、俺のエルヴィンよ。


お前と出逢ったのは半年前。
お前と恋に落ちて今日で五ヶ月目。
またこの日を迎えられた事に心からのおめでとうを。
それと共に深い、深い感謝を。


団長であるお前は忙しない日々を過ごしている事だろう。

お前の身体が心配だが、...お前はどんな困難も乗り越えられる、屈強な精神を持った男だと一番身近にいる俺はそう信じている。

だが、お前も一人の人間だ。
辛い時、弱音を吐きたくなったら俺へぶつけて来い。
何時も毅然たる態度のお前には些か難儀な事かもしれねぇが、人間らしさを偶には見せろ。
重い荷物は一人で抱えるもんじゃねぇ...折半して共に乗り越えるぞ。

人類の未来の為に進撃する俺達は一歩ずつだが...良い未来を掴めている筈だ。世界に変革をもたらす為に前を見続けるお前の背中を...俺が確りと守ってやるよ。だから少しは...俺を頼れ。


信頼から様々な情が入り混じり
何時の間にかお前を愛おしく想ってしまった俺は、傍から見れば矢張り狂っているのかもしれん。
愛やら恋やらに捕らわれるなんざ情けねぇ、と以前は思っていたんだが、な。
だが、此れは...お前だからこそ、
お前が居なければ俺は存在しなかっただろうとふと思いに耽るのも事実。


エルヴィン、
俺を見付けてくれて有難う。
お前に逢えて、
お前が俺の最愛で本当に良かった。


愛おしい唯一の旦那、
俺のエルヴィン。
言葉だけでは収まらない程の想いを
此処に刻む。


......愛している。


薬指で輝く指輪へ口付けを。
満月に愛おしいお前を重ねて。
7 リヴァイ
偶然、否、必然の出逢いを経て...
此処まで来た。
時に苦労を乗り越え、
溢れんばかりの幸せを重ねて。
なぁ...エルヴィン。
記念すべき日をまた迎えたな。


出逢いと同じ時間...、早朝に響いたクロとシロの声に瑞祥を予見し厳重に鍵を掛けていた引き出しを開けた。
取り出し広めの机上を見事に覆い尽くしたのは全て、お前との幸せに満ち溢れた軌跡の証。


その中の一つ、
お前と毎日交わしている恋文。
一文、一文に籠められるお前の想いに自然と目許が緩んじまう。


脳の無ぇ、喧嘩に明け暮れていたゴロツキがお前に文字を習い始めた。
始めは"Levi"を只管に書き殴っていた俺が今じゃあ、一丁前に行文を、更にむず痒い愛の言葉を扱い熟していやがる。...笑えるな。
相変わらず殴り書きみてぇな荒さが残る筆跡だが、お前に綴る言葉だけは自然と揃いの羽根ペンがよく動く。
書類関連は苦手なのは前と変わっていねぇが、此れだけは例外だ。


懐かしい思い出が蘇る。
幸せに心が震え、紙面を埋める文字列も若干読みにくいかもしれねぇが、この記念すべき日、想う儘に綴らせろ。

付き合う前、初めて内地へ外出した時に渡した互いの名が刻まれた翡翠のネックレス。
あの時に口付けを交わそうとしたが咳払いで誤魔化す、という事もあったな。あの頃の恥じらいは一体何処へ行っちまったんだろうか。

後にお前と月を眺めながら散歩に出て告白を受け、俺は嫌だと悪戯な言葉を返した。
俺を恋仲では無く妻にする勢いで来い、と。...あの後のお前の縋り具合が堪らなく愛おしかった。この頃には俺にも狡猾さが出て来ていたか?

そして忘れもしない、
お前の家で過ごした誕生日。
互いのイニシャルと12月1日の日付が確りと刻まれたエンゲージリング。
何時も薬指で輝く此れを眺めては自然と口唇へ寄せている俺が居る。
...新たな癖が増えたようだ。


新年会に、雪だるま、
バレンタインにホワイトデー。


出逢った頃から想う気持ちは強くなる一方で見事に俺の脳内を占領するお前。この愛おしさも横溢していくばかりで時に切なさに変わる。

リヴァイという存在はお前によって命を吹き込まれたと言っても過言では無い。お前が居るから俺は生きる。
其の事を忘れるな、エルヴィン。
そして辛い時は荷物を分け合おう。
今回のは夫婦としての絆が試された良い機会だったじゃねぇか。
お前と俺なら何も問題無い。
随分前にも伝えたぞ。
"俺はお前の全てを愛する"と、な。
お前が思っている以上に俺は頑固だ。
この信念は突き通す。
俺に愛され続ける覚悟を。


エルヴィン、
お前は俺の大切な、
世界で一人の旦那だ。
お前の膝上は変わらず俺の特等席。
お前の隣は俺だけの場所。
此れに異論は無ぇだろう?
お前は俺の手を繋ぎ続ける役目を全うしてくれ。


エルヴィン、深く...
深く愛しているぞ。

6ヶ月目の奇跡に多大なる感謝を。
そして、此れからもお前を愛し続ける事の誓いを重ねて指輪へ。
8 エルヴィン・スミス
お前と気持ちが通じてから、半年もの歳月が流れた訳だ。


同時に出逢って七ヶ月。
遠いあの日の奇跡的な出逢いがまさか、こんなに成長するとは恐らく互いに思っても無かった筈だ。──少なくとも、私は。

此の良き日に少し後ろを振り向いて、道程を辿りたいと思うよ。


初めて逢った日のお前は、やけに思慮深く物事を捉える割に
大人びているようで何処か幼い……そう、私が今まで触れる事の無かった特長を兼ね備えた男だった。
それが魅力だと気付いた頃には、既にお前を意識し初めて居た。
お前と交わし合う手紙が好きで、もっと文を交わし合えたらと思う一心──筆無精は何処へやら。
ペンを執ってはひたすらインクを消耗していた当時の生活をふと思い出す。

だがどんなに長く紙面へ想いを綴ろうと、実際の逢瀬に勝るものはない。そう思っているのは、私だけでは在るまい。


リヴァイ、覚えているか?
意思が強いと、お前へ伝えた言葉を其の儘鍵として、
初めてお前と内地へ連れ立ち出向いた夜。

そして満点の星空の元、正式な恋仲へと発展した六ヶ月前のあの日。

お前からの愛の言葉は、私の心を溶かす麻薬のようだ。
幾度も交わし合った手紙も、言葉も熱も身体も。

私を翻弄して止まない、否……この先も翻弄し続けると誓ってくれ。
大好きな、魅力溢れる私のリヴァイ。私の唯一。


薄れるばかりか日に日に増しゆく想いを、果たして上手く噛み砕きお前へ伝えられるだろうかと。受け入れて貰えるだろうかと何かと不安の伴う時期はもう卒業して。

喉から手が出る程に渇望し続けては、容易に手にすることの出来無かった絆を此処にきて、実感出来るに至った事を正直私自身驚いているし、未だ夢のようにも思えてならない訳なのだが。


傍らのお前は実は私よりずっと強いから、素直にこの素晴らしい事実を受け止め

"本当に良かった"と、笑ってくれるに違いない。


半年記念日に、掛け替えの無い恋人へと沢山の想いを込めて。
9 リヴァイ
日付を越える間際、懐から懐中時計を取り出して其の時を待つ。
一秒一秒、針が動く度に脈打つ心臓は莫大な希望と期待とほんの僅かな不安を乗せて軽やかな音と共に感情を高揚させていく。

針が重なった瞬間、天を仰ぎお前を彷彿させる月を捜すが、何時の間にか目前にはもっと綺麗な黄金色が居て。
其の柔和な笑みに釣られる様に無愛想な双眸は微かに緩んで兵団から共に帰路を目指す。
そう、......俺達の家族が待つ場所へ。


"半年から一歩進んで迎えた七ヶ月。
必然の出逢いから八ヶ月。"


また一つ言葉を手記に残そう。
揃いの羽根ペンを動かして...
指輪に口付ける癖をお前を見詰めながら見せ付けて。
そしたら...お前はどう反応するか。
そんな悪戯心に闇夜に紛れた口角が小さく吊り上がる。
何処までも愉しませて貰おうか、
......なぁ、エルヴィン?


そう言えば、
最近は共に出掛ける事が多く成った。
賑やかな場所で人混みに紛れてもお前は矢張り目を引く。
其れは俺が心底惚れ込んで居るからかもしれねぇが.......、違う。

お前は魅力溢れた男。

生き方が綺麗な男だ。


律儀で...だが酷く甘く、時に冷酷で。未だ隠されて居るであろう顔を全て見たいと好奇心が跳ねる。
愛を見下して居た俺を糸も簡単に覆し、溺れさせ...今でも俺は深い泥濘に捕らわれた儘だ。
抜け出そう何て気は毛頭無ぇ。
もっと、深く、と強請るばかりだ。


愛する事を覚えた野良猫はそこら辺のヤツよりも達が悪いかもな?
狡猾な手段に出るのが癖みてぇなもんだ。
従順で飼い慣らされた俺も、
敵意剥き出しで刃向かう俺も、
お前は俺の愉しみ方を熟知しているだろう?そして俺も、同様に愉しんで居るワケだ。


エルヴィン、
愛すべき俺の唯一。
此の先も共に...歩み続けよう。
そしてお前が嫌だと言う程に愛する。...愛しているぞ。


繋いだ指先に力を籠め
今宵も隣のお前を想う。
10 リヴァイ
なぁ、エルヴィン。
また新たな節目を迎えたな。
俺と共に歩み始めて8ヶ月だ。


出逢った頃からもうこんなにも月日が流れたのか…、と驚きと共に嬉しさが込み上げる。

お前と初めて迎えた暑い季節、
東洋文化にあやかって浴衣で夏祭りにでも出掛けてぇな。そして酒を片手に花火とやらを眺めたい…きっとお前と共に見る其れは格別に綺麗なんだろう。だが、その前に…按摩をしねぇとな。……お前の引き攣る顔が安易に想像出来るが遠慮は無用だ、と再度告げておく。


忙しなく動くお前へ何か言葉を告げる としたら…無理はするな、と在り来たりな言葉になっちまう。
お前が傍に居る事、ただ其れだけで…俺の生きる糧となっている。
お前は俺に無理をさせていると思っているかもしれねぇが其れは杞憂にすぎない。
俺達は容易に壊れる程の信頼関係は持ち合わせてはいない。そうだろう?
誰もが羨む程の確固たる信頼、絆を俺達は築いていると自負しているぞ。
お前へ溢れた言葉は全て嘘偽り無い、真実だ。


エルヴィン…、
お前以上は此の世界には居ない。
だからこそ、俺はお前の傍に居続けたい。
お前と生き、共に果てるまで。
出逢い、惹かれたあの日から一瞬も色褪せた事の無い想いを此処に。


…お前を心から愛している。


此れからも変わらず傍に、
隣に居続けてくれ。
お前の紡ぐ言葉を何時迄も聞いていたい…
其の声を。

俺の隣はお前しか務まらない。
否、お前しか受け入れない。
だから、俺の隣はずっと…
お前だけの場所だ。


愛しているぞ、此の先も…。


溢れる想いを籠めて
薬指の指輪へ口付けを。
11 リヴァイ
早いもので、九ヶ月目。
お前と出会ったあの寒い日からそんなに月日が経ったのか…と手帳を開いては懐かしさに目を細める。


普段は何食わぬ顔で任務に励み、
ガキ共を指揮している俺だが…この記念すべき日を迎えた時は、つい此処に足跡を残しちまう。


言っておくが、俺は普段こんなにマメな人間じゃねぇ。
だが、何故だか分からねぇが…俺はお前と生きている証を何処かに残してぇらしい。…まぁ所詮、自己満足と言うやつだ。
だが、此の溢れそうな想いを堰き止める事は出来ねぇからな。
お前に毎夜紡ぐ言葉だけじゃ足りねぇ。此処に残すのは俺の横溢しそうな想いと感謝の意、だ。

こんな俺から愛だの恋だの…愛おしいなんざ口にするのは気味悪いだろうが
…漸くお前に続き俺も人間らしくなって来たようだ。
もう戻れねぇ所まで来ちまった。
其れはお前もだろう、エルヴィン。


お前の声が、俺に触れる指先が…
お前の言葉を借りるなら…
堪らなく、愛おしい。
愛おしさを越えて切なさを感じ悲しみを覚える程に、な。


此れからも俺の隣を頼む。
此処まで溺れさせた責任は確り取ってもらうからな?…エルヴィン。


愛しているぞ…
俺の全てをお前に。


お前だけを想い…、
今宵も薬指で輝く指輪に口付けを。
12 エルヴィン・スミス
酷く感謝を覚えて止まない──九ヶ月、そして私とお前が出逢い十ヶ月の節目をこうして迎えられた事に。


肌寒さ感じる朝に出逢った美しいお前とひたすらに逢瀬を重ね、手紙を交し合っては甘い時間を過ごし
互いを未だ理解し得ぬ状態の儘、言わば済し崩しに近い形で恋仲へと移行した後も。募るばかりの想いに駆られて身体を繋げ、愛を確かめ。

そんな時期を思い返して関係性は変わったか、と己に問えば
より対等になれたのではと思うが、果たしてお前はどうだろうか。

以前、対等で無かったのと断言は避けるが
お前は何かと私に遠慮ばかりしていて。無理をさせた事も多々在ったろうに文句ひとつ口にせず、其れどころか変わらぬ忠誠と信頼の目を向けてくれた。
そんなお前に応えるべく、私も見合う男になろうと努力は惜しまなかったし、其れを苦痛に感じた事など一度だって無かった。

こんな風に誰かを想い、愛し抜きたいと心から思える相手に出逢えるなんて。
一度ならず二度までも、お前を手離そうとした愚かな男の傍から離れずたっぷりの情愛で包んでくれる心優しき私の唯一。


そんなお前を愛することに何を躊躇う事が在っただろう。
お前のように素直に、一心に恋人を愛せる勇気が私に在れば少なくとも傷付けるには至らなかった。総ての元凶は、私の捩れた心癖に在ると言って良い。


『共に新たな世界を見よう』


あの後、お前が私に投げ掛けた言葉は未だ記憶に新しい。
変わらずに向けられる想いに応えるだけの覚悟と、決心はもう充分に付いた。


こんなにも混沌とした世界に、お前と言う存在を見付けて。繋いだ手を離さずに居れたら、


ああ、どんなに良いだろう?

愛しい相手と見詰め合い、愛を紡ぎ合える今此の時に浴し、甘んじ、此の儘跪いて居られたなら。


──なぁ、リヴァイ。
幸せだよ。とても、とても。


今頃は喧騒の中、兵士長の任務を全うしているで在ろう恋人へ向け密やかなる愛を。加えて此れを、就寝の合図とさせてくれ。