1 ライナー・ブラウン

gift。

漸く睡魔が遠ざかった所で、お前への贈り物だ。
俺が此処に来てる事を知ったらごねるのか、喜ぶのか。
怒るって事はないと言い切れそうな辺り俺も大概終わってる。

此処に来て、色んな事を思い出した。
お前が愛しくて堪らなくなった。
こんなに好きだったんだな。自分で驚いてる。
此れを見つけた時に崩れるお前の顔が目に浮かぶ。其れはムカつくが。


好きだ。
明日はもう少し上手く甘えてやる。
2 ライナー・ブラウン
ここ一年程は多分思っていた以上に気が張り詰めた。
でも其れは戦士ならば当然の事だし、強いられて苦痛を覚える事でも無ければ喚かしく当たり散らす事でもない。当たり前の事と受け止めて修練を積むしかない。其の状況に適応していく他ない。
然し変わり過ぎた環境には色々磨り減っていたようだ。お前に対しても踏み込んじゃならん気がしたし、掛ける言葉も少し選ぶようになった。
だから久しく言えなかった我儘を吐き出した時は凄まじい自己嫌悪だった。
また、やった。やってしまった。
抑えてたつもりは無かったのに吐き出したら最後、そもそも其の我儘を携えてしまった時から嫌な予感はしていたんだが。

なのにお前は常と何も変わらずに当然のものとして俺の我儘を叶えてくれる。
そんなに甘やかして、碌な事などありゃしないのに。
けど向けられた言葉に一気に胸のつかえが取れた心地だった。嬉しくて、堪らなくて、お前への想いが吹き出すようだ。
やっぱり凄ぇ好きで、お前の聲が。辭が、何より安心する。
此処に居ても構わないんだと、
無駄に気負う必要も無いんだと、
はなっから解ってた事だってのに、何度でも言われないと。何時の間にか、じゃない。
始めから、
俺にはお前しか居ない。


思考が纏まり切らないってのは言い訳だ。
早く取り戻せるよう努力する。そしたら、其処でもう少しだけ真っ当な辭を残せたらいい。

(俺だけのもので、)
3 ライナー・ブラウン
今日は非番だったが、同期の奴らとの先約が在って彼奴は留守番。
随分淋しくさせちまったみたいだ。
出掛けに起きてねぇようだったから、ベッドから落ちているのだけ直してやってそのまま挨拶もせず出てったのがいけなかった。

詫びも兼ねて来てはみてるが、…喜ぶような事が思いつかない。
訊くが早い事は解っているが、要望をきくとなると大概げんなりするような事を課せられるのは目に見えている。
こないだ言った通り。俺で残すんじゃ無ければある程度ひけらかすのは苦じゃないが、俺の言葉でとなるとブレーキが掛かる。
お前だけが解ってれば好いことで。
お前だけが見ていれば好いこと。
そんな事を言えばまた不満気な顔になるのも知ってるんだがな。
お前とは長い長い付き合いだし。

俺もちゃんと覚えて、る。

でも随分素直になって来たとも思うだろ。
ちゃんとお前に凭れるようになったし、次のデート。とやらには手をちゃんと繋ぐつもりでいる。別に寒く無くなる時期だろうから、とか手袋の代わりに、じゃない。
お前と手。繋ぎたいからな。

……予定は未定。だけどな、
4 削除済
5 削除済
6 ライナー・ブラウン
多分。


指先、その仕草。
肌、喉、嚥下。
一番は深淵い色彩の。眼差しと、
今日は珍しい強い口調、だとか。
そうしたもの全て。
其れから。其れから、

睡るまでのあと少し、何れだけ見つけられるだろう。
7 ライナー・ブラウン
ちょっと任務が立て込んでいる。
同期の手紙も返したい、
座学の見直しや、図書室へも行きたい。
やりたい事は数あれど不意に誘われた言葉に意図無く乗ったらとんでもない事になった。

脳が沸騰するんじゃないか、と。
お前と居て、時間と、身体と、感情を共有してもう随分経つのに、こうした感覚が鮮烈なのには驚くばかりだ。
驚く、以上な騒ぎな訳だが。


お前だから、というのは勿論で。
お前でないと、とも思うのはすっかり刷り込まれた所為だ。

そうで無ければこんな風にはならない。

怖い、のと嬉しいのと。半々って所だな。
困った身体にしたもんだ。
8 ライナー・ブラウン
お前でないと駄目な事は百も承知してる。

頭でも身体でも、心でも理解してる。
理解は、してる。
それでも足元が揺らぐのは偏にお前を喪失う怖さにだ、そう思うならしようとしている事は真逆なんだが。
…死が間近になる話しをしたか。
お前が苦しそうに笑うと差し出すつもりの手に黒いものが纏わりつく。
お前が居なくなる予感がする。
一つも優しく無い俺は辛いお前を気遣う所か辛いお前突き離して気休めに縋ろうとする。
何も変わらないばかりかお前を一層苦しめるのを識っているのに。
此処に遺したのは戒めだ。
二度と莫迦な真似をしない為に。


帰ったら、甘やかす。
気を付けて帰って来い。
9 ライナー・ブラウン
たった数日だった、そんなに意識もして居なかった。
夜に為れば俺の元に帰還っては来るのだし、別段不便も無かった筈だった。

それでも起き抜けのお前が笑って、今日は傍に居られると言うのにはすっかり妙なスイッチが入った。
お前だけでいい、お前が傍に居てくれたら其れで十分。
お前が触れるのは俺だけでいいし、お前が映すのも俺だけでいい。
朝からそんな風に思うのは珍しいことだと自覚したが、どうなんだろうな。
今日は終日お前を想ってた。随分饒舌にもなった。

共に道を歩んでもう何年も経つ。
けどこの世界じゃ良くお前との距離感を見失いがちなってる。
俺はよく其れが不安で、変にお前を勘ぐっちまう。
ああ、俺への想いって事ではないと思う。多分。
お前がどうすれば喜ぶのか。とか、そうした類のことだ。
今までは矢鱈に剣を振っても其れで先に進めていたが、よくよく考えてみたらお前にその切っ先を向けていること自体どうなんだ。
其の剣自体俺に必要あるものか。他にも其処へ思い至る理由は幾つかあるが気付いた途端、お前を喪失う事が酷く恐ろしくなった。
お前はいつもそうだったんだろうか、なんて事も過ったりな。

らしくないのも承知してる、ほんの少しの距離の後に一日爛れたように過ごしたからかも知れん。
…少しだけ来月から始まる新生活を不安に思った。
いい意味でだぞ。…多分。


思っている以上にお前がすきなんだという話だ。

変に回りくどいのは性分。
お前が考えているような思いの丈じゃないかもしれない。
俺の宣言に期待して覗きに来たなら残念だったな。
夜のテンションではいけないという事ははっきりした、また何れ仕切り直しにくる。…恐らく。
10 ライナー・ブラウン
折角並んでた所引っぺがしちまって悪いな。

さて、もうすぐ2月も終わるな。
月始まってすぐに打ち明けた思いの丈、あん時は早く3月が迎えられないもんかと待ち焦がれたが…いざ3月を迎えると思うと俺の方の準備が全く出来てない事にそろそろ焦りを感じている。
座学の宿題宜しく、提出日前日のコニーみたいな状態だ。
お前からの贈り物や辭は律儀でお人よしな性格その儘、細やかで丁寧に包まれて毎度届くっていうのに…俺は粗野で気遣いが足りない。
体よく躱すのは得意な筈だがお前にだけ其れが活かされてないのは、偏にお前に甘え過ぎているからだろう。
迎える3番目の記念日にはちゃんと見合うような状態で居ないと。


楽しみにしてる、
お前が喜んでくれると好い。
11 ライナー・ブラウン
汚ぇ脅し文句を掲げられた時位怒っていいんだぞ。
理不尽だと責めてくれても、きっとお前になら構わないのに。

底のない泥濘みたいだと思う時がある。
お前は殊更優しくて、俺に傷を負わせるような事はしない。
しないが、白くて柔らかくて、あったかい其れは目覚めすら阻んでお前の臓腑に墜落ちるようだ。
気がつくと四肢はお前に捉われていて、呼吸は優しく留められてる。
お前の指先の動きひとつで俺はきっと呼吸を許されている。
お前しか見てはいけないんだと思い知らされる。

抗ってみせた所でお前のカタチに嵌っちまってるんだから。
12 ライナー・ブラウン
あの部屋を見た感想。
正直。怖いと思った。
前の時は彼処まで綿密じゃなかったからな、ちょっと甘く考えていたのかもしれん。
お前に部屋は任せると言ったのは俺だし、出来る限り詳細に嘘偽りなくと言ったのも俺だ。
だから能力は使わない事にしたのだし、…まあ今更後戻りをするつもりはない。
腹は括ったし覚悟は決めている。

一年、

だがあの部屋とお前からの手紙が届いた時何処かで安心したような、初めて御前の劣情を垣間見た時のような感覚を感じたのも確か。
ここ最近のお前を微温い、と思っては居ない。
ただ、あの鮮烈さに俺は確かに恋をして。
其の一端に心臓を捧げたんだ。


未だ綺麗な儘の二人のアイノス。
滑稽なまでに小綺麗で無臭な其処が一年後何に満たされるのか。
13 ライナー・ブラウン
────傅いて、手の甲に口付けを、なんて。あの時とは逆だな。


こうした関係になってから四年になる。
お前はいつも優しく俺を受け入れる。
拒絶なんて事は記憶に無い、ただひたすら底抜けに甘やかして尽きないのかと錯覚する程の愛情を向けてくれる。此の状況に逼迫して俺が正常に戻れるよう痛苦を求めれば其れそのように傷や痛みを与えてくれさえする。
優しい、と。そう思う。
お前にそう言えばそんな事は無いのだと苦く笑って逸らすが、この中途半端な俺を破棄ておく事なく其の隣を歩んでくれるのは偏に優しいお前だからこそと思ってる。
正直に言えば俺はもうお前が居ない事は考えられない。
だから少しだけ、
恐ろしいと思う事がある。
お前の優しさが枯渇してしまった時。
お前が何かの拍子に消えてしまった時。
とてもとても恐ろしいと思ってしまう。

けれどお前自体をきっと俺は変えられはしないだろうから、やるべき事は決まっている。
俺はお前を悲しませないように強く強く鋼になる。
そしてお前の騎士にさせてくれ。
お前が行く先を見失うことが有れば剣になって道を創る。
お前が何かに傷付けられてしまうなら盾になってお前を護る。
何時だって、必ず。
俺はお前の傍に在る。

────世界全てを敵に回しても、

お前に同じことは望まない、其れ位にはこの記念日を迎えるにあたって俺は強くなった。…と言い張らせてくれ。
多分弱い部分も、根幹だ。早々変えられやしないが、これは誓いだ。
強くなってお前の傍に居られるように。

あの辭を此処に遺すのは誓いを果たせたら。

もう一つの心臓へ。
必ずお前を、
14 ライナー・ブラウン
月記念日ってのを祝うのは久しぶりだな。
とはいえ俺はお前に比較べて何の用意もして無かったから、昼飯を済ませてから今慌てて此処に来ている訳だが。
もうこれだけの付き合いになると間を置かず何かしら記念すべきことがあって、毎度盛大に祝うような時間も減って来ちまったが…お前の便りを見て一番初めの蜜月を思い出した。
(いや、思い出した…というのは語弊があるな。埃を被っていた手帳を見つけて少し遡った)
…まぁ、懐かしさはあるが然して代わりない。相変わらずというよりあの頃に磨きをかけてお前をすきだし、凭れる時間は寧ろ増えた。
そういう意味ではかなり亦関係性は変化したんだと思う。が。
あの頃は傷が治る事に感けて随分手酷い事をしていた、其れは其れでお前を識る事も出来たし。
お前が指南してくれた事も含めそうした付き合いや遣り方も学んだ、好意として受け止める事も無論出来て、そんなお前も俺はすきだった。今も其れは変わらない。
(あー…過去形にしたが現在進行形だな、)
けど…、アレだ…。
最近は確実に俺より寝坊して酷い寝相で居たりするのを起こしたり、その傍らで朝食を用意する時間何かはどうしようもない程しあわせだと思う。
身体を繋ぐことも無論すきだし、あの頃同様に嗜虐に耽るのも至極楽しい。
けど、今日なんかは俺より早起きをしていて非番にも拘わらずこんな時間に珍しいという俺に、俺が起きてこなかったら二度寝しようと思ってた、なんていうほんの些細な時間に嬉しさで頭が熱くなる。
寝る前のキスだとか、甘えたように拗ねる所作だとか。他愛ない辭なんかは降り積もって腐る程交わしているのに。
其の度にお前がすきだと恋してる。
(──…おい、其処は嗤う所じゃない。)
お前が忙しくなったのも十分過ぎる位承知してる、お前は毎度我慢をする質だと俺を誤認してるが俺はそう耐える事が得意な方じゃないんだ。
ちゃんとお前が足りなくなれば欲しがりに行くし、ちくちくせっついて何かしろと実力行使する事もあるだろう。
いいこになって見えるのは相変わらずお前のフィルターが分厚い所為だぞ。
辭が、多分少しだけ。ほんの少し柔らかくなった所為でそう見えてんだろう。
だいすきなお前に対してだけの理不尽暴力なのは、多分きっと一生変わらんと思う。諦めろ。


全然記念日っぽくない便りを此処へ。
(好い一日の始まりを有難うな、)
15 ライナー・ブラウン
反省文と言う名の。

昼間は日向に居るから、日蔭の脆弱さを忘れる。
夜は陰湿で狡猾な中身が決壊し易い。
弱い辭をいくつもいくつも浮き上がらせて、どうにもならずに掻き混ぜては漂う異臭に怒号する。
剰え、そうなったのはお前の所為だと被害者面で罵声する。
我ながら酷い性格をしているなと思う。日向でそうしない分、お前には酷い有様しか見せてないように思う。
それでも傷だらけになって後を付いてくるのだからお前もお前だし。
最悪な事にそれで付いてくるお前に安心している自分が居ることにも気付いてる。
悪い。本当に。

自覚しているから、ほんの少しづつでも矯正されてりゃぁ好いんだが。
お前にはきっとそう見えては無いだろうな。
悪い所の自覚はしていても、矯正出来ている実感は余り…無い。
甘やかして貰ってる。
あんまり良い事はないぞ、と釘を刺すが手放させないのも多分俺なんだろうな。

あの日、お前の辭を拾えたことに感謝してる。
残念な事にお前が俺に堕落ちたことにも。

愛らしい花飾りが施された虎挟にお前がずっと捕まってくれりゃいいと思ってる。

ごめん。すきだ。砕けた骨ごと慈しむから、ずっとずっと此処に居ろ。
16 ベルトルト・フーバー
最近ようやく念願の日記帳を手に入れて、僕が綺麗に飾り付けて思い出を書きうつして、それから自己紹介を…って時に君が呟いた一言に吹き出しちゃった。
二人だけの、それから友達に見せるだけの日記帳だから、そこは焦らずゆっくりとやっていけたらと思ってるんだ。

僕が着せたがった下着を買ってきてくれて、それを着けて見せてくれる君が愛しくてたまらない。
あのバニーガールみたいな下着、とっても似合ってるよ。
…駄目だな、今日はなんだかピンク色な方向にしか思考が向かないや…きっと熱のせいだ。
(つまみ食いは怒られちゃうから、物陰に隠れてこっそり、いただきます)
17 ライナー・ブラウン
お前…一体俺の匣の中で何を言ってるんだ。
確かに此処の表題は贈り物で、お前を喜ばせる為にと思ったものだから強ち間違いではないんだが…いや。違うな。
間違ってる。ベルトルト、今はそのタイミングじゃない。風邪で熱です御免なさいと土下座された所でこのタイミングじゃない事は揺るがない。
記念日の出だしがこれか……慣れて来て調子に乗っているなら鳩尾にタックルをせねばならんが。


二人暮らし…と言うのか。それが始まって2度目の記念日。
俺が忙殺されていた事もあり今月は確り祝う事が出来なかった…何ならお前を一人寂しくしておいた所為で風邪をひかせる始末だ。其れを補うのに共に居る夜は甘やかしてお前が喜ぶことをと思って居たのに、ここ数日の疲れにか先に寝ちまうばかりで一層風邪を悪化させそうだな。
今夜は林檎を剥いて置いたから夕餉の後にでも食うと好い。うさぎにはしてないぞ。
俺にそんな器用さを求めるなよ?





閉塞的な空間で段々削られていくもどかしさだって、お前だと思うから────こんなにも充足たされてる。
18 ライナー・ブラウン
記念日は日付けの変わった瞬間に、確かに数日前からは考えていた。
お前が想ってくれてる分相応という訳にはいかんが俺も少なからず想っているとあれだけ渇望していた場所に一筆も残せない儘じゃ本当にお前を痛めつけているだけになってしまうから、たくさんの言い訳を溢しながらになっちまうが此処へ。

機嫌が悪い、なんてよくもまあいけしゃあしゃあと宣えたもんだ俺も。
お前との時間が上手く見繕えなくて、訓練での疲れを抱えて、原因は殆ど俺なのに理不尽な八つ当たりは毎度の事。俺がただ深呼吸してお前に優しくしてやるだけでいいのに。
それでもお前が待つ場所を離れなくなったのは進歩だろうと棚に上げようとしたら全く同じ事が先に文に綴られていて少しばかり照れた事はアニには内緒にしておけよ。

どうしてこう上手く優しくしてやれないんだろうな。お前でなけりゃ二言目には白い鳩だろう。
感謝してる、甘ったれても居る。
期待させて無駄に喜ばせちまうような宣言も控えなきゃな。
今、在ればいい。お前が。
お前がすきだ。
もし俺が誰よりお前を傷付けていても、多分同じくらいお前を想ってる。誰より。
お前だから、偏に。

断罪されるならお前のその手で。
19 ライナー・ブラウン
生活を共にして4回目の月記念日。
今月は少し…いや…お前にとったらかなり辛い思いをさせた。
反省はしてるが、今はお前を喜ばせる事で埋めようと思う。
いや、あの言葉は残さないんだが…期待の眼差しは向けてくれるなよ。

────そう。
凄惨な繋がりや痛みを伴うことばかりに耽っていた時に比べて今は至極穏やか。触れ合って、指を繋いで、何気ない話をしたり、二人の住まいに帰還って来るお前の為に試行錯誤した肉以外の料理を啄んでの近状報告。
流れる季節にそれらしい祭りに顔だしたり。
俺は欲深いから、お前との強い繋がりを求めちまうんだが…そうじゃない触れ合いみたいなのに、絶頂の高揚やらとは全く違う。全く違うがそれに匹敵する充足する感覚には堪らない程の幸福感を覚えた。
しあわせで、しあわせでお前に満たされて。お前が自慢で愛しくて堪らないと喚かしく声を大にして叫ぶ程に。
それを実感した一ヶ月だった。

偶には、悪くない。どうにも俺だと甘やかしきれないから本当に偶ににはなっちまうが。

それもお前はきっと先読みして理解ってるんだろう。
周りにはお前が俺の尻に敷かれてるように見えている、けれどお前から離れられずお前の手のひらに居るのはきっと俺なんだろうと思う。
そうして気付かない場所までお前に繋がれているのも、きっと悪くないんだ。

(可視える部分も、不可視な部分も。全部まるごとお前のもので。)
20 ベルトルト・フーバー
君の誕生日。

贈り物はさんざん悩んだ挙句、寝台列車のチケットにした。
お風呂に入るのが好きな君のために部屋に露天風呂が付いた宿を確保したし、本だって手に入れて、旅に詳しい友達に相談して旅行のプランも決めた。
結局僕が訓練の合間に働いたお金だけじゃ足りなくて、少しだけ兵団のお給料にも手をつけてしまったけれど…君との特別な日のためだもの、生活を切り詰めるのだって辛くない。

北へ向かう列車に乗って君と旅する様子を夢想する。
列車に乗る前にお弁当と飲み物を買って、夜は寝台列車の窓から輝く星空を見ながら他愛のない話でもしよう。
この壁の中を旅する機会なんてもう無いかもしれないから、目的地に着いたら色々なものを見て回ろう。

綺麗なものがたくさんあるといい。

沢山の思い出ができるといい。

二人だけの時間が過ごせるといい。

──この世界は残酷だけれど、君の隣で見る景色はいつでも綺麗だ。
21 ライナー・ブラウン
誕生日、というものを華々しく祝った記憶は余りない。
俺たちは多くのものを持っている訳でもないし、そうした祭り事を許される身分でもない。

けれどその日は皆平等に命が紡がれた大切な日で、その日から十数年その命を今まで紡げてるのは感謝している。そこからの繋がりにも。
俺にも数は決して多くないが大切な繋がりがある。
その中でもお前との繋がりは俺に必要不可欠で、無くてはならないものだ。

俺の誕生日、その日を迎えて彼奴は照れくさそうに。少しだけ不安そうに祝いの贈り物を俺にくれる。
俺が喜ぶか、気にいるか心配なんだろうと思う、お前から贈られるもので拒むべきものなどありはしないのに。
撫でて宥めるに笑えばお前が次の非番に少し遠出をしようという。勿論と応えて約束をする。
特別なものは嬉しくない訳じゃない、けどどんな眩しいものでもお前が傍らにあってこそだ。
俺が生まれた日、お前が傍にあれば俺はしあわせだし。その日にお前が在る事に感謝したい。

祝ってくれてありがとう。

(旅先で、お前が好きな揃いのものが見つかるといい、)
22 ライナー・ブラウン
二人暮らしを始めて5回目の月記念日。
ぁあ…そう。そういや大切な記念日の一つも迫ってるな。懐古する事もあるが、先ずは今日。だ。

この一ヶ月は、俺の誕生日があって、お前の大切さを痛感して、他愛ない毎日と向き合った。
正直あの辭は随分と根深くて、未だに…その…なんだ…結構お前に入り込むのを躊躇う。
おいおいどのツラ下げて何言ってくれてんだって話だが。そう、そうだな、…余り何かを我慢しているつもりは無かったんだが、お前がよく言う我慢して我慢して暴発するみたいな事象が何となく理解ってきた。我慢、なつもりは毛頭無かったんだが…あ。此れか。みたいなな。

俺はお前を好きだし、同じかそれ以上に愛してやりたいと思ってる。
嘘偽りは無い筈だが、気弱になったり惑う事(そういう意味でなく)があったり、訓練での疲労が募ったり、割と多様なタイミングで其れは訪れる。多分お前が欲しいんだ。
俺は随分と欲深で恥知らずで、子供っぽくて、大人げない。
あれだけの醜態を幾つも見せてるのに、未だに矜持を保って居たいんだ。
お前が欲しいと言えば済む事なのに。多分。
惟、お前が愛しいのも本当だし掻き抱きたい衝動に駆られるのも、妙な性癖を擦り付けるのも本当の事だ。
俺にあんまりに猶予がなくて、凭れる場所が限りなくお前になっているから酷い甘えが出る。甘え、なんていや可愛らしく聴こえんだろうが。実はもっとずっと醜悪で。
受け止めるに腕を拡げられていようが、手ぐすね引いて待たれていようが、意識して堕落ちるってのは上手くいかないもんだな。

あと7ヶ月。ちゃんと素直になれりゃいい。

(ほら。落ち着きゃこんなマトモで居られる。)
(いつもブレずにこう居られたらいいんだがな、)


(────…そういう返事が来るってのも理解ってる。)
23 ライナー・ブラウン
記念日が近くなって不安定になるのは俺だけじゃないと思ってる。この間自分でも言ったが…やっぱり大切な日だと思うからこそ。
だからとお前が記念日に対して淡白だとは思ってない…寧ろお前はいつだって真っ直ぐに、何一つ迷いもなく俺を大切と想ってくれていて…其れが生き甲斐というか…まぁそう言っても過言でない程に俺を好きで居てくれている。
有難いことだ。本当に。
俺が不安定になって自棄になっている時ですら全部見越してお前が俺を受け入れているという事実。
多分お前は俺より俺を理解していて。
付き合って共有してる時間や感情の多さは伊達じゃない。
────其処までじゃない、そうだったら俺がそもそも不安定にならないだろうとお前は苦笑して言うかもしれんが…俺が意識していない所も感情も、こころも多分お前は把握してる。…いや、「感じてる」という方が近いか。
これだけ密にお前と時間を分かち合ってるんだ、自然そうした感性、第六感みたいなものが発揮されても不思議じゃない。お前ほど洗練研磨されてはいないだろうが、俺に対するお前の思考や感情は俺が誰より理解してると自惚れていたりもするしな。
だからって大きな衝突の時に決まって「きらいだ」というのはいけないなと思うが。反省してる。安定してる時には何でもない事なんだがな。

付き合って丸四年。五年目を迎える今日。
お前が変わらず…いや、あの告白の日の何倍にも増して俺を好きで居てくれてる事に感謝を。
俺の手元にはあの日の記録は一切ないが、俺もあの日よりもっとずっとお前を好きでいるのは確かだ。
あの日よりずっとずっと色々な事を感じて、観て、想ってる。
ありがとう。


俺の傍で。俺の左側で手を繋いで。
誰よりお前を幸せにする。
すきだ、ベルトルト。
─────これからの真っ白な時間も、俺にください。

(もう一つの心臓へ、)
24 ライナー・ブラウン
大切な記念日。
そもそも記念日の概念はお前が括り付けたような気が……いや、そんな事もないな。祭り事は好きな質だ。俺も。
幸せそうに寝出したお前の傍らで月明かり頼りにもう一度筆を取る。あまりにお前の辭が嬉しくてと言う事と、お前にも発揮される負けず嫌い──と言えば聴こえは好い───から躍起になってな、半ば意地だ。
来年の今日にリベンジしたら好いとへらへらと笑んで崩れるお前に言われたが、もう一年後に俺の脳味噌が記憶えてるかが心配だしな。俺の物忘れの酷さ、識ってるだろ。
あと兎ってのは言葉の綾で…お前が隣に居ないのは考えられないって話だ。
(実質筋骨隆々の兎だとしても俺に喩えるな、)

お前が居ないのは寂しいし、お前がまた何処ぞ具合を悪くしてるのは見ていて辛い。
お前はお前のペースや訓練があるのもよく知ってるが出来得る限り早く帰って来て欲しいと勝手には思う。
お前が俺の知らない同期だのと仲良くやってんのは結構だが、俺との時間に其れを持ち込むのは物凄く妬く。お前が申し訳ない顔をして居ても、だ。
お前を抱くのは楽しいし好きだ、頭が沸騰する程興奮もする。だから、……だから?、俺も欲しいとそう思う。
お前だけに息を留めて欲しいと、そう。思う。
あの日にはきっと言えなかった事だ。
けどあの日よりずっと悪化して、腹の中に燻ってる。

我ながら真底意地穢い。

すきになればなる程に、最愛だっつうお前だけに其の全部を押し付けてる。それでも嫌うなと懇願してる。
そんな体たらくな俺を拒絶なんぞ一度もしないばかりか、これ以上ない程認めて、甘やかして、愛して、大切にして、必要としてくれている。全くの無償で挫ける事もなく。
女神だったのかお前、冗談じゃなく割りと本気で言ってる。
俺は本当にしあわせ者で、お前が無くてはならない。底抜けの優しさで俺を窒息させるつもりらしいが殆ど達成出来てるぞ。

お前が居ないと、立って居られない。お前の腕と、手と、脚と、身体と、こころと、深淵い深淵いその双眸で必要とされて愛されていないと忽ち戦士のこころが折れる。支え合う事ですら、お前が先ず必要なんだ。
────最期まで、責任。取るんだったな?
何方が付属品か理解りゃしない、脆弱なのはひけらかさないつもりだった。けど、折角の記念日だ。チープなメッキじゃ申し訳ないからな、本音をちゃんと置いておく。

お前がすきだ、あいしてる。
お前だけが、───脆弱な戦士の帰還る場所で在れ。

(リベンジとしては不成立だという気もしてる、)
25 ライナー・ブラウン
二人暮らしを始めて6回目の月記念日。

一年の半分ってのはやっぱり感慨深いし、この一ヶ月は色々な発見や刺激や自身を省みる事が多かった。
ひとつは友人のこと。
この記念日は二人の、ものじゃあるんだが何も二人きりでこの場所に立てた訳じゃない。
詳しくは別の手紙にでも書き記すつもりじゃあるが日々時間を燃やす中で、より一層お前を大切にする気持ちを育んだり、だとか。
多忙なお前を待つ合間、惰性に過ごすじゃなく一時一時を大切に謳歌しようと思えるようになった事、だとか。
自身をより高みへと研磨するという気概が生まれた、だとか。
お前と共に過ごす時間、その中で紡がれた大切な大切な縁があって今お前に向ける辭がある。今お前に出来る触れ方がある。
縁からの刺激や気付きを受けて記念日をこうして穏やかに迎えられるしあわせ。本当に有り難い事だ。

( こころから ありがとう、)

もうひとつは、まぁ…その大切な縁を省みて気付いたもんだが…長く長く時間を共有している俺たちだ、時折辭が足りないなんて事は少なくない。言わずに解る、感じる。阿吽の呼吸。そういえば聴こえは良いし実際其れに頼る事は必要だったり、嬉しく思う事もある。
けどこんな残酷な世界の中だ。縁起でも無い話だが何時どの瞬間が今生の別れになるとも知れない。
世の中喪失ってから気付くものの方が多い。
後悔の無いように、言うは易く行うは難し。慣れ合いに感ける事の多い俺には特に難しいものだ。
だから出来る限りに、この瞬間のお前に大切に、真摯に向き合いたい。いや、向き合う。
何度だって確認してくれて結構だが、ちゃんと覚悟は出来ている。

─────すきだ、

特別な6回目の記念日に、感謝とこころを記しておく。
26 ベルトルト・フーバー
なんでもない日おめでとう。
君があの日くれた言葉をここに。

一番乗りになれなくてごめんなさい。
君が一番欲しがってくれたのは僕の言葉だっていうのにね。

君への贈り物は君が欲しがっていた香りと、あとは僕の好きなものばかり。
僕は好きなものは共有したいから、綺麗だと思ったものや美味しいと思ったもの、なんでも君に見せたいし分け合いたいんだ。
お揃いだって沢山持っていたいし、君にも持たせたい。
喜んでもらえるといいな、なんて思いながら選んだ贈り物だけど、君の苦手なものも一つ…うん、ごめんなさい。でも美味しいから試してみてよ。
それから裏ルートで手に入れたリーブス商会謹製の紅茶ね、きっと君も好きな味だと思うから一緒に飲もう。

そろそろ君がくれた馬と小鳥の刺繍がついた防寒具が活躍する季節。
勿体無くて使えない、なんて言ったら君が頬を膨らますのは分かってるんだけど…そんな表情も可愛いからなぁ。
ふふ、呆れるくらい君が好きだ。
きっと、君が思うより僕からの愛はもっとずっと根深いものなんだよ。
君が思うようよりずっと暗くて歪な形の愛だとも思う。
それでも、君が僕の手を握って光のもとへ連れ出してくれるから、僕はぼくで居られる。
君が好き。君の過去も、これからの未来も、時々痛む胸も、君が僕に差し出してくれるものは全て大切な僕の宝物だ。
僕は君ほど気配り上手じゃないから、時々間違えてしまうけど、そういう時は君が叱ってくれ。

ライナー、君が好きだよ。
これからも僕の右側で、僕の手を握っていて。
27 ライナー・ブラウン
共に過ごして7回目の記念日。
胎動がする匣庭の装いは先日と変わらないままであるも、今月は特にたくさんの辭を交わす事が多い一ヶ月だったように思う。

長く居る分、察して感じる事が出来る。
長く居る分、踏み込み方が理解らない時がある。

ここの所、惚ける程悪の兵器と名高いお前に堕落ちている自覚はあるものの……何でもかんでも泥濘に嵌れば好いとは思わない。
お前は望むかも知れんが、矢張り俺は俺としてお前の中に堕落ちても成り形を保って居たいしいつでもお前を驚かせていたいんだ。
それに余りに距離を近くしてしまったから、……そうだな、恐怖はある。
こんな世界だ。己が命、いつ何時手放しても惜しくないと思って居た。
でも泥濘に融解けてしまえと甘く囁かれる毎に陶酔して、自分を見失いかける程にお前を想ってしまったから……お前を喪失う恐怖に所作一つとっても、気負う事が増えた。二の足を踏む。迷う。躊躇う。戦士としたら有るまじき失態だ。
更に残念なのはそうあっても、心地よいと思う自身がある事。

お前を想えていたら、それで。まぁいいもんか、とな。

困っている、少し。
惰性ではない、つもり。
路は先にしか続いていないなら、後悔だけはしないように。
お前に満たされたり、憤ったりする時間を只管に過ごそう。
28 Reiner Brown
三つの願い事。
どんな願いでも突拍子もないもん以外なら俺の連れ合いは叶えてくれるんだという。

ホントかよ。
と俺は呆れ交じり、半眼で。真面目そうに或いは至極気弱そうに俺を見据えてくる彼奴にお試し最初の願い事を告げてやる。
「寝るまで傍にいること」
記憶の中では今まで居なかった事がないから確認みたいなものだ。
任せて、と強気な返事。
それから彼奴からも一つ願掛けが提示される。
彼奴からの一つ目は然して苦の無いもの。
後悔が日々ないようにと自身を省みた結果、まぁ最低限はと意識しているものだ。
了承の旨を伝える。

二つ目の願い事をせがまれて、少し難易度が高いものを。
「サプライズで言葉を残すこと」
サプライズで、としたのは。自己防衛でもある。
彼奴の言葉は嬉しい。
けど俺がせびったらそりゃ効果半減みたいなもんで、せびってる俺もなんとも申し訳ない気分になる。
まぁ願掛けに託してる時点でどうだ。とは思うが。
とはいえ彼奴は表情変える事なく解ったと頷いた。
彼奴からの二つ目は一つ目の願掛けに付加するような願い事。此方としては二つ返事だ。
ただ彼奴にしてみたらこれが出来て居なかった一日があったから至極辛い記念日になった訳だが。
…まぁ記念日に関しては、正直余り反省はしてない。

三つ目。
少し悩む。
小姑みたいにねちっこい願掛けでもしてやろうかって所だが、男なら見栄くらい張らないでどうするってな。
あとは、────ああいう時まで、大切に想われたらしあわせだろうと思って。
「俺がなくなるまで傍にいること」
俺の言葉には彼奴の表情が情けなく崩れた。
先に言われた、と言わんばかりだ。


月記念日の一昨日、実は結構な喧嘩───というより俺が疲れていた事もあり、大変問題のある態度を取っていた。
簡単に言えば、寂しいってことだったんだと思う。要約すれば。
寂しい、思い通りにいかない。そういう自分本意な時は省みないといけない、後悔のないようにやり過ごさなくては、っつうのが最近意識「は、」していること。
なるだけ言葉を掛けて、伝える。
そうは思ってて、けど実際。すっぱり気持ちを分けるには俺は疲れていたし、余裕が無かった。彼奴も同様に俺に応える余力がなかった。
そういう日もある、ただそう思えば良かったんだが如何せんその日は駄目だった。
常よりもっと理不尽な、暴言を向けちまう────たった少しの「寂しい」が処理しきれない形相をする。
こういう時こそ言葉を増やすなりなんなりしなくちゃならんのに、彼奴の反応に一割も応えられなくなる。
悪い、とは何となく。
でも先行して冷たいものばかり。泣いてるだろうな、とは思った。実際泣いてた思う。
結局ちゃんとした解決をしないままに、顔を見せる彼奴に昨日の昼間漸く気持ちを乗せた言葉が出てくる。
そうは言っても随分と突拍子もない言葉だったが。
俺の言葉をずっと考えてだした結果がこの三つの願い事だったのだと思う。
そこで俺を惚れ直させる、という算段だったらしい。
けどそれは俺の三つ目の願いで出鼻挫かれた結果に終わったようだ。彼奴らしい。

恰好良さで張り合っても、答えは見えてるだろ。
嬉しいは嬉しいが。俺は単純だから畏まった言葉よかお前が降らせるつもりでいる俺への言葉ってので十分なんだ。
お前が我儘だっていう言葉は俺に取ったら何より愛しいものだ。
もっと、欲深くなってくれていい。
まだまだ全然、お前が足りないんだから。


一緒に暮らして八回目の記念日、
29 Reiner Brown
昨日は至極特別な日だった。
忘れていた訳でなく、充実した訓練(シゴキ、とも言う)やら何やらで目まぐるしく日々を過ごしていて漸く月明りを頼りにペンを取れた。
いい具合に身体が疲れていて明日も早朝から別働任務を与えられてる。睡魔は間近だ。
最近は特にこうしたことが多いので互いに寝顔を見る事が多い。
もう少し自重してかないと。

久々に握ったペン先を眺めてそういえば、と思い返す。
最初会った頃はにこりともする素振りがなくてどうにも人と距離を置いているようだったベルトルト、その頃は俺よりも小さくて随分と華奢だった。その頃から妙な遊びが好きだったり、変わったもんを集めていたよな。
(実は初めて宝物だと見せられたものに狼狽していたことは内緒だ)
俺はわりと初めからお前に好意を持ってたが、お前が俺に興味があるんだかないんだか分からなくて、出会ってから随分経ったある日にすきだ。と告白された時は心底驚いた覚えがある。
それでも故郷で時間を共にする内、徐々にお前の好意を感じられて俺もそれを向けていった。

お前と居る時間は至極楽しい、が。どうにものんびりで、意見や主張を俺に倣わせる癖のあるお前にやきもきすることも多く、口喧しく怒鳴ったりすることも少なくなかった。実際ごく最近もそうした事でお前を泣かせてるが、しあわせだし傍に居たいからこそだ。
こればかりは大きく改善出来無さそうだとはこの長い年月を見れば薄々感じて居るのだろうが其れも込みで(まぁ、密かに全勝狙いではあるが)これからも隣に居て、俺の左側で心臓を守って貰えたらと思う。
どんな世界でも、どんな未来でも。
其処に居るのがお前なら、俺は笑っていられるしお前にそう居て貰うから。

暗さに少しばかり字は乱雑。
ただ気持ちは込めてある。四角く折って箱に詰める───それはお前の枕元に。
(いつだってお前の隣で、お前の一番近くで、お前へ為に言葉を紡ごう。)
(20151115、)
30 ライナー・ブラウン
9回目の記念日。

この一ヶ月、お互い体調だったり気持ちに余裕が無かった気がする。
俺はまた大分感情を零した。
それでもまだ、体力が回復しきらなかったり。変化に気持ちが追い付かないままでいる部分は多い。
普遍的なのはお前が帰還る場所で、待って居てくれること。
慣れた、というと言い方が違うかもしれない。
信頼も随分前からしていた筈だ、でもこの世界で漸くと息を吐けたような。
お前に凭れてもいいんだと自分でも思えるようになってきた、そんなような感覚。
これ以上何で凭れて担わせるつもりだと自分で可笑しくもなるが、年の終わりに振り返りも兼ねて。

お前がこれほどまで傍に居てくれて、好きだ好きだと愛して貰って。俺はとてもしあわせものだ。
ありがとう。


そうそう。それから。


胎動のする部屋にどこかが癒着しだしている。
まだ認識はしていない。でも確かに。
こころが頽れ始めてる。
31 ライナー・ブラウン
お前の隣に居る、と決めた日から俺の方から手を離そうとしたことは無い。
喧嘩別れしそうになった時も俺は必死でお前を繋ぎとめることしか考えなかった。
あの時は、なぜだろうか、この手を離したらずっと後悔するような気がしたんだ。

それから何千日も、隣で過ごすうちに分かってきたお前のこと。
未だ良く分からない部分だってもちろんあるし、時々忘れてしまって怒られることもあるけれど、それでもいいと思ってる。
全てを知ってしまうなんて、きっとつまらないだろう。
お前のすべてを預けてほしいとは思うが、それはきっとお前の考えの一つ一つを逐一報告させるようなこととは違う。
お前がお前らしく、俺の隣で、笑ったり怒ったりしながら自然体で過ごしてくれること。
それが今の俺の一番の望みだ。

お前の隣で、お前の背中を守って。
誰よりもお前を愛している。
お前が好きだ、ベルトルト。

過去のお前は変えられない。
現在のお前は俺のものだ。
未来のお前も、きっと俺のものにしてみせる。
32 削除済
33 ライナー・ブラウン
10回目の特別な記念日。
今日は随分深淵い場所にいる。

数え始めた春先には約束の一年は随分先の事なんだろうなんて思って居たがもう10回か…ここ暫く月記念日的なものが無かったから矢鱈に早く感じるのかも知れんが…兎も角終わり…というか、区切りが見えると一層早く感じるものだ。
この一ヶ月は正直俺が時間配分を上手く出来ていないお陰で進みがのんびりというか…そうだな、年を跨ぐという事もあって無駄に気持ちが急いていた気がする。
優先順位を付けられないまま何かで自分を追い込んだり、目先の楽しみに感けて他を蔑ろにするのは俺の悪い癖のひとつだな。
これも直ぐに改善出来んばかりか加速する一方な気もするが…ああ。だからと言って急に墜ちたのはそれが原因じゃない。
この数か月は随分と気持ちを保ってきただろ。
ただ鎧が無敵ではないことは十二分に理解もしている筈だ。
頃合い、にしては聊か性急かとも遣り取りの中では思ったかもしれない。
見苦しい事も多いだろうから補足は二人だけのあの場所でする。少し、時間は掛かるだろうがな。

癒着した場所が堕ち切る、のもきっとあと少し。


(ものすごく楽しみで ものすごく怖ろしい、)
34 ライナー・ブラウン
11回目。
珍しく遅れたのは完全に俺の所為。
訓練が立て込んで記念日より優先しなきゃいかん事態が起こっちまったからな。お前に八つ当たりする余力も体力も欠いて、なんてことは早々ないから来月の特別な記念日は安心してくれ。


ただそんな時でも何の不安もなくお前の背中を感じて。それを嬉しいと思っていた。
俺が、恐らくどんな状態であれお前はちゃんと在るべき所で待って居る。
俺が必要とすればいつでも手を差し伸べてくれるし、もはや恒例の筵状態であれば静かに傍で佇んでくれるんだろう。
勿論俺が嬉しい時や楽しい時は自分の事のように手を取って喜んでくれる。
歳月を重ねるごとにそれは強固で、かつ何気ないものに変わっていって る。空気や水のようだ、とこの関係を譬えることも多いんだと思う。多分間違ってはいない。必要不可欠、という意味では。
ただ、幾度も重ね描いて磨かれるなんて感覚もあったりする。それは日々精進しなけりゃ得られない経験値、みたいなものにも似てる。違う側面や刺激がある、紡ぎ続けて初めて巡る彩がある。向ける感情も縁を深めて複雑になって、現す手段は今でこそこんなものだが錬成さえしてゆけばきっと星の数だ。
似てるようで異なる彩。表情。こころ、────そういうものにこの先お前と過ごす時間、幾度もまた出会えるんだと思うと楽しみでならない。
漠然とお前といることをしあわせだと思ってた、出会って来た過去も思い出深いし、融解け落ちる程優しくある今現在もしあわせ。 これからも、多分しあわせ…けど、具体的には未来に関しては不安の方が多分多くて。俺はよく、それを引き合いにお前を困らせてきたし、お前自身も保障の無い所までを約束するのを苦手としてた。
無論不安が全くなくなった訳じゃないが、ここ数日。本当にお前の存在の安定さにこの先を楽しみにする気概が突然沸いたんだ。
本当に背中を任せるってのは、恐らくこんな感じなんだろう、と。
否、お前はもうずっと前からこの感覚で居たから俺の傍らを淀みなく歩いてんだろうけどな。
特別な記念日を据えたのは間違いじゃなかった。お陰でこの一年、色々なことを省みて、とても濃縮されていた気がする。
お前を一層すきになったし、お前を感じることができた。ありがとう。


別に終わりが来る訳でもないが、特別。まであと一ヶ月切った。
輝かんばかりの結末じゃなかろうが、また新たにお前の彩が見られるのを楽しみに。俺も、勿論な。


(新たな季節が、お前にみせられますよう)
35 ライナー・ブラウン
3月11日、

12回目の月記念日。
一年、思い返すとあっという間だった。
結婚式ってのを何だかやりたかったようだったが、ここ一ヶ月俺の諸々が抜群に悪くてお前には辛く当たってばかりだったな。
記念日当日はとても祝福ムードとは懸け離れていて寧ろ婚約破棄だな、なんて言い放ってた。それでも変わらず俺の傍らに居る健気さに今日は改めて有難いなと思った次第。
─────今日は約束の日から一ヶ月越え、13回目の月記念日。

4月11日。

どんなに辛辣で、苛烈な感情でも俺だけだと全てを捧げてくれるお前に俺が与えられるものは多分多くない。
そうだな……飯と菓子を作ってやる位か。
本当にそれだけだ。子供のように剥き出しの感覚で何度反省したって碌な成長は見られないが、出来得る限りには大切に。お前と続く末永い時間を過ごしたいと思ってる。
結婚式にしろ、堕落にしろまだまだ先な気がするが俺のたった一つの心臓はお前の所に預けておく。
36 ライナー・ブラウン
この一ヶ月はまた特にお前を不安にさせたな。
上手く都合の付かない時間にはっきりとその寂しさを伝えてくれたり、不満を零してくれたのには申し訳なさと…不謹慎ながら少し安堵を覚えた。
俺が余りに奔放な所為で、俺が倣わせている所為で。
意見するのを控えているようにも見えるから。そう仕向けるのは俺なのに何をと笑われそうだな。
─────なぁ?
お前が俺の感情が理解るように、俺もお前が何かを堪えたり誤魔化して強く在ろうとするのは何となく理解るんだ。
それを万全で受け入れる程の余力が俺にない事も事実だが……もっと吐露していいし、構えとはっきり言ってくれていい。
もっとお前にやさしくしないとな。
頭じゃ理解っているんだがな。
お前の体温と、お前の辭と、お前の聲じゃなきゃ俺は此処には居られないんだから。

記念日に不穏になる暇も体力も欠いてるが、遅れても、微力でもお前に尽くしたいと思う。


愛しさが募るのに上手く伝えられない。


(早く     を緊縛って欲しい)
37 ライナー・ブラウン
14回目の記念日、か。
随分長らく此処に来られて居なかった、顔馴染みの奴らも相変わらずみたいだが…まぁその辺は手記にでも。
伝えておいた通り今日の記念日は先に残させて貰う。

この一ヶ月は寂しい、を口にする暇すらなく色々な事に追われた感じだった。
疲労感もあるが充実感の方が強く、前より時間は取り難いが帰ればお前が待って居るし、夜狭い寝台を共にするのは変わらず毎日の事。
最近はお前を見送ってばかりいるな。そういえば。
だらしがない、もっと言葉を掛けろ、自分を想ってくれと罵ればいいのにとふと思うがそうしないのが多分お前だし適宜必要な体温は求めてる。
俺の時間や空間に緩急つけて、彩り豊かな刺激を齎してくれてる。
良い意味で空気のような存在だなと思う、本当に居心地がよく、肌触りがいい。
時に張り詰め刺すようなそれも、俺には必要だし。思考が留まるほどの熱と息苦しさも必要不可欠なものだと思う。

俺の大切な、俺の片割れだ。
本当に日常的なお前の存在に感謝してる。
毎日の何気ない言葉を降らせてくれて、変わらず俺を想ってくれて、俺の為に沢山の時間を共有してくれてありがとう。

先に眠るお前の傍らへ、僅かばかりのおくりものを。
38 ライナー・ブラウン
15回目、だな。
ここに来て数えそびれてる。お前もちゃんと気付けよ。
39 ライナー・ブラウン
16回目の7月11日、17回目の8月11日。
完全に俺だけの都合で此処に来る足が遠退いてた。
お前にも寂しい思いを強いていたと思う。
それでも帰還り着くと変わらず…っつうと厳密には語弊があるが、お前が待って居て抱きしめてくれるのは有難い事。
この当たり前が崩れずに在って、俺が今日も幸せで励めるのは偏にお前の存在が俺を支えて想ってくれているから。
8月13日、特別な記念日。
俺とお前が正式にお付き合いを初めて付き合って丸5年。6年目を迎える今日。
最近じゃ喧嘩すら殆どご無沙汰になっちまったが、奔放である俺を変わらずと大切に想ってくれてどうもありがとう。
俺の時間や体調、余裕を思い遣ってくれてありがとう。
本当に、息をするよう存在と感情が当たり前過ぎてお前が傍に居ないことなんて想像すらできない。
とてもとても大切な存在だ。
明日からもやっぱり傍に在って欲しいし、俺からもお前を深く想わせて欲しい。
あの日に比べたら、色々な変化はあってもお前の傍らが変わらずと安息の場所で。
胸が詰まるほど愛おしいものだと思ってる。

俺のもうひとつの心臓へ、
今日も明日も、ずっと先の未来でも。お前を心からあいしてる。
40 ライナー・ブラウン
5年目の俺から6年目のお前へ。

一枚借りるぞ。
正直なところ、ここ1年は特に寂しくさせてると思う。
我慢が苦手なお前に随分我慢させてるとも思う。
俺は時間の使い方が下手くそで、忙しいとそれにかかりきりになる癖があるからな。
お前はお前で忙しそうにしてるのに、俺のために時間を作ってくれて、疲れた俺を労わってくれるから、それに甘えてるってのもあるが…すまん。
思えば出会った頃は目を離したら逃げられるんじゃないかと思って、お前の前では上手く眠れなかったんだが、今ではお前のぬくもりが無いと眠れない始末だ。
良いことなのか悪いことなのかは分からんが、まあ、それぐらいお前の隣は俺にとっては心地いい。
ただ、今でも目を離したら逃げられるんじゃないかって思うことはあるし、正直それくらいの危機感が必要なのかもしれん。
…なんだか反省文みたいになっちまってるが、6年目のお前の隣に立つ俺が心地よい中にも緊張感を持ったカッコいい俺であれますようにという思いを込めて書きつけておく。

あとは、そうだな…6年目の抱負。
お前を甘やかすこと、とする。
昔からそうだが、お前は無意識に頑張り屋さんの節があるからな。
俺のそばでは甘えてもらえるように、下心込みで6年目は頑張ろう。

それからこの5年間、常々思ってたことがあったんだが…
……こういう機会でも無いと書けないからな。
ええと…俺はお前が一番だ。何かって、そりゃ言わなくても分かるだろ。
──来年も再来年も、二人で寄り添っていられますように。
41 ライナー・ブラウン
18回目の記念日。

随分とゆっくりした時間が流れてる。
そういや俺がこの世界に来たことを夏の終わりとぼんやり思い出す。
お前に此処に居る事を話してなかった、話したら少し関係が変わるだろうと臆していた。随分悶々としてたもんだがそれでも俺が零した言葉にお前がなんだそんなことかと腕を拡げて笑ったのを覚えてる。
ま・後々色々ともめることもあったが…なぁ。俺と居て楽しいか。
長い時間を過ごしてる、麻痺してるものもきっと数多い。言葉を尽くせずにいることや、蔑ろにするものも。
そんな中でも俺の数少ないことば一つ一つを大切に想ってくれる。
偶に申し訳なく思うんだ、こんな俺でもな。
お前が偶に眩しくて、お前はいつも俺をひなたに置いてくれるが実はそうじゃない。
俺はずっと陰湿で、お前が思ってる以上に脆弱だ。本当に。お前が俺の居場所をくれてる。
だから割と今は不安なんだぞ、自業自得なんだけどな。
もっと言葉を交わさないと。俺を伝えられないから。

こんなにも支えて貰って居て、こんなにも愛して許容してもらって、それでも足りないと縋ってる。
久々に痛めつけてくれ。
俺がちゃんとお前の心臓であるように。
42 ライナー・ブラウン
此処に来る頻度も随分減っちまった。
お互い何かと忙しくして月記念日を祝う時間はなくなったが、俺たちの関係が変わったこの日は忘れてはいない。と宣言も兼ねて。
あの日のことは昨日のことみたいに覚えてる。本当に。
今じゃ考えられないほど上っ面な関係に手が差し出されて、色んな話をするようになって、今じゃ…お前はほぼほぼ酸素みたいに居るのが当たり前になってる。
楽しいこと、つらいこと、哀しいこと、嬉しいこと。山ほどの話や世界を見て、背中越しのお前の体温に安心してる。
本当にいつもありがとうな。
これからも変わらず俺のもう一つの心臓で在れ。

愛してる。
43 ライナー・ブラウン
約束を随分違えちまったから不安な思いや、焦燥。少なからずひやっとするような寂しさとか…もしかしたら珍しく憤りを感じたかも知れない。
それか、少しだけ諦めとか興味が削がれるような…そんな気持ち。

俺を想ってはくれるだろうって自惚れにも似た感覚があるのは否めないから、胡坐をかいちゃならねぇなとは思ってる。
…こういう反省が永続的じゃないのもお前には見透かされてるんだろうけどな。ごめん。
それでも俺はお前の傍にあるよ。
あの日からずっとそうしてるだろ、これから先もなんでもない日を祝わせてくれ。
譬え、少しくらい関係性に変化が出ても。

毎年この日は不穏なことか謝罪を積んでる気がするがちゃんと心は傍らに。

いつもお前を想ってる。


なんでもない日、おめでとう。