1 エレン・イェーガー

雪豹のようなリヴァイさんへ

誰もが愛する人への言葉を残しているようなこの場所へ、オレが言葉を残しても良いのかどうか暫く悩みました。
もう終わってしまった関係ではありますけど、それでもあなたへの愛と感謝をどこかに残しておきたくて、ここをお借りします。

リヴァイさん。あなたと離れて暫く経ちますが、お元気ですか?
オレは元気でやってます。
夜もちゃんと眠れるし、毎日が充実してると感じられるようになりました。
…って、何だか母親に近状報告しているみたいだ。

オレはあなたと出逢った時、本当は物凄く精神的に不安定だったんです。
オレはそんな自分の弱さが許せなくて、強がったり無茶なことをしてました。
とてもじゃないけど、人を愛したり恋愛に現を抜かす余裕なんてなかった。
底なし沼みたいな場所で足掻いてて、ずっと抜け出せずにいました。
自分のことばかり考えてて、あなたのことだってちっとも大事にできなかった。
精神的に落ち着いて、この世界から抜け出した今、そう感じています。

あんなオレと付き合えたあなたは凄く我慢強くて、愛情深くて、そしてちょっとだけズルイ人です。
あなたがオレに対して言った慇懃無礼って言葉、覚えていますか。
あれ、実はちょっとだけ根に持ってます。
わざと嫉妬心を煽るようなことを言ったり、それ以外のちょっとズルイところにも気付いてました。
……でも、オレの方があなたのことを沢山傷付けて、それでいてなかなか手放せなかった。
あなたに言われた突き放すような言葉に傷付いても、あなたが本当にオレを求めていたなんてちっとも思ってなかったから、笑っていられた。
心が荒んでいて色んな人の優しさから逃げていたオレだけど、あなたの優しさには甘えられた。
天邪鬼だから全然本音が言えなくて、あなたを混乱させたりもした。
強がってオレから突き放した時、あなたは愛想尽かしてさっさといないくなっちまうと思ってました。
でもあなたは堪えて、全然趣味とか合わないのに、毎日傍にいてくれた。
心が冷え切ってても誰かを愛したかったオレに、愛されてくれた。
全然何も返せないくせに求めてばかりのクソ生意気なガキを、あなたは本当はどう思ってたんだろう。
オレはあなたの胸に顔を埋めながら、自己嫌悪と泣き言を噛み殺して生きていました。
上辺だけの優しさとか一過性の感情なんて欲しくなかった。
オレはあなたじゃないから、あなたのどの言葉が本音だったのかなんて知る術もなかったけど。
それでもあなたの言葉は誰の言葉よりも上手くオレの心臓に触れて、ささくれた心を納めてくれた。

最後のあなたの選択は、何も間違っていなかった。
オレは結構打たれ強くて、窮地に立たされた時ほど本当に欲しいものを掴み取る力があるみたいです。
欲しいものと充実感を得てただ前だけを見て歩いていけばいい今、無性にあなたに感謝の言葉を伝えたくなりました。

この世界には沢山の人がいるけど、他の誰でもないあなたに出逢えて、オレは救われました。
矛盾している感情を抱えながら手を伸ばしたオレを、受け入れてくれてありがとうございます。
あなたに怒られたり諭されることがとても幸せで、あなたの温かさは今でも覚えています。
オレは薄情な男のふりをしてあなたから離れたら、ひとりでこっそりあなたのことを思い出そうと思ってました。
でもオレがあなたに付けた傷がまだどこかに残っていたらと思うと、最後くらいあなたに本音を伝えないといけないと感じました。

嘘つきで強がりで怖がりだったオレの大事なリヴァイさんへ、心から感謝の言葉を綴ります。
…あなたのことが大好きでした。あなたがいたら他に誰もいらないくらい、あなたは色んなものをオレに与えてくれていました。
ねえ、リヴァイさん。……オレも少しはあなたに何かを与えることができたでしょうか。
寂しかったり苦しかったりした時、寒さや痛みを紛らわせてあげられていたでしょうか。

大好きなあなたの幸せをずっと願っています。
今まで本当にありがとうございました。