1 リヴァイ

俺の旦那へ

本来なら付き合い出した当初や結婚した辺りから書き綴るべきだったのだろう。生来の筆無精。最初の頃作った日記は表紙を作って満足したまま放置してしまってる。そんな俺が今回お前のために…いや、本当は俺自身の為なのかもしれないな。
お前と出会って九ヶ月のこの日を祝して言葉を残そうと思う。

出逢った当時、俺は失恋したばかりだった。慰めてくれるなら誰でも良かった。一人ぼっちは嫌だったんだよ。一夜限りの仲、そのつもりだったがお前ともっと話していたいと思って引き止めたことを憶えているだろうか。お前は躊躇いがちに俺の手を取ってくれた…あの日のことは今もはっきり憶えてる。

付き合いだしてからは色々あった。並々ならぬ関係だったからお互いどうしようもなくなって喧嘩したり落ち込んだり随分と慌ただしい日々だったと今は懐かしい気持ちだ。

今まで恋人と喧嘩、なんて未経験だった俺は本当はすごく焦っていたんだぞ。嫌われちまっただろうか、とか余計なことばかり考えて不安になって。結局仲直りはするんだが引きずって今でもよくネガティブ禁止と頬を抓られちまう。


結婚したのは時期尚早だったかも、と言われて気まずくなったこともあったな。お前が今もそう考えているかはわからないが…結婚して三ヶ月にもなる。俺はお前と結婚出来て良かったと思ってる。

俺は俺自身に自信を持てなくて常に不安と焦燥感を持っている。お前を試すようなことを時々言ったり落ち込んでいるのをあからさまに主張したり…面倒くさいやつの自覚はある。それでも根気よく今まで付き合ってくれたことには感謝してもしたりねぇ。

出会ったのは真夏だったが秋、冬を越えて今は春。お前と出会った季節がやってくる。
七月の今日、お前と過ごして一年になる日を控えて改めて伝えておこう。


お前と出逢えてよかった。
お前の恋人で、嫁であれて良かった。
ありがとう。大好きだ。
今も昔もこれからも。

お前が俺のことを考えてくれているのはよくわかっている。だからこそ、俺はお前を好きになった。だからこそ離れたくはねぇんだ。
お互いの距離感にまだ戸惑ったり悩んだりはするがお前が許してくれる範囲で俺はお前に触れていきたいと思う。


最後に、俺の大好きな旦那へ。
エレン、大好きだ。愛してる。
また来月まで宜しくな。そしてまた再来月を宜しく出来るように願っているぞ。
2 リヴァイ
本来なら昨日記すべきものだったが、不甲斐ないばかりに今日が終わる直前になっちまったな。
昨日で10ヶ月目だ。
昨日という日を迎えるまでに色々なことがあったな。
記念日の直後に別れたり、また引っ付いたり。正直別れてまた引っ付くなんて思いもしなかった。それだけ俺が執念深かったってことだろう。

一度ダチになってお前と触れあうことすら出来ないもどかしい日々が続いて、やっぱりお前じゃなきゃ駄目だと実感した。
俺の姿を捨て違う姿を身に纏ってならまたお前の愛情を手にすることが出来るかもしれないと愚かにもそんなことまで思ったほどに必死だった。

結局、互いに傷付け合うのが怖かっただけで肝心な感情は何も変わっていなかった。それを互いに認識するまで二週間必要だったな。


別れてたったの二週間でまた引っ付いた俺達だが、相変わらずの日々。変わったことと言えば互いに以前より遠慮がなくなったと言うことだ。
スキンシップの度合いとか、離れていた分を補うようにじゃれまくったな。


再び引っ付いてからまた二週間、こっちが本来の記念日だ。
どっちを記念日にする、と話したこともあったな。記念日が多い方がいいと、この記念日ともう一方の記念日を持つようになった。あっちはまた来月か、大した祝いをすることは恐らくないがまた共にいれることを願っている。


お互いに沸点が低いし、険悪になると言い合いになって二人で自己嫌悪に陥って謝って元に戻って…今日ここにいたるまでずっとそんな不安定な状態だったな。一年記念日を目の前に、もう少し落ち着いた関係を目指すことにしたい。


と、考えていた矢先に喧嘩みたいなことをしている。
俺達は多分救いようのないバカだ。だがバカなりに少しずつ前に進んでると思う。
今日は厳しいことばかり言ってすまなかったな、エレン。


明日からはまたいつも通りの俺達でありますように。
3 リヴァイ
記念日、なんてのは幻だったんだと気付くのに、気付かされるまで一年という歳月が過ぎていた。長かったような、短かったような…色々なことがあったな。一回別れて引っ付いてギクシャクして、もとに戻ったと思っていたのは俺だけ。
気付かないフリをしていたのは確かにそうかもしれねぇ。俺は弱くて情けない人間だから、自分を騙してでも誰かの傍らにいたかった。

俺が【俺】を保っていることが出来れば、誰も悲しい思いはしなかっただろう。自分を追い詰めることもなければお前を不愉快にさせることもなかったんだろう。

最初からなかった俺たちの記念日、その前日にここに記せて良かった。誤った俺の認識を訂正出来て良かった。
俺の記念日はないが、明日が、誰かの素晴らしい記念日となればいい。今はそう願う。

(終)