1 リヴァイ
猪に宛てる。
別に態々こんなところへ記すようなモンでもねぇが、…偶にはこう言うのも、お前は喜ぶんだろう。
期待してそわそわしてる癖に何でもない振りをしている筈の、俺の猪に宛てて。
最初は唯の興味本意。
嫌いだと喚くお前はあの空間では特異だった。
率直なヤツは嫌いじゃない。それに、そう声高に文句を言い募るお前なら面倒事に巻き込まれることもないだろうと反論を紡ぐことにしたのは、一年前の丁度この日。
嫌いだと思われている筈が、妙に懐いて来ると思うようになるまでに大した時間は掛からなかった。
今思えばある意味詐欺のような展開だが、不思議と嫌な気分になったことはない。
それこそ、俺の不躾な発言にめげることなく、何度もぶつかって来たお前の根性と忍耐力と粘着質は見上げたモンだ。
技巧を凝らした手紙も、今となっちゃ懐かしく思える。
幾つか伝えるとするのなら、締まりのない顔は何とかしろ。壁に穴を開けるな。モップになった後は風呂に入ってから近付け。
それと、…――自分の言葉には、最後まで責任を持て。
この意味は、お前なら分かる筈だ。
恐らくお前は、直ぐにこれに気付くことだろう。なぁ、エレン。
今日この日、互いが在ることに賛辞と、謝辞を。
今日も、月は輝いている。
期待してそわそわしてる癖に何でもない振りをしている筈の、俺の猪に宛てて。
最初は唯の興味本意。
嫌いだと喚くお前はあの空間では特異だった。
率直なヤツは嫌いじゃない。それに、そう声高に文句を言い募るお前なら面倒事に巻き込まれることもないだろうと反論を紡ぐことにしたのは、一年前の丁度この日。
嫌いだと思われている筈が、妙に懐いて来ると思うようになるまでに大した時間は掛からなかった。
今思えばある意味詐欺のような展開だが、不思議と嫌な気分になったことはない。
それこそ、俺の不躾な発言にめげることなく、何度もぶつかって来たお前の根性と忍耐力と粘着質は見上げたモンだ。
技巧を凝らした手紙も、今となっちゃ懐かしく思える。
幾つか伝えるとするのなら、締まりのない顔は何とかしろ。壁に穴を開けるな。モップになった後は風呂に入ってから近付け。
それと、…――自分の言葉には、最後まで責任を持て。
この意味は、お前なら分かる筈だ。
恐らくお前は、直ぐにこれに気付くことだろう。なぁ、エレン。
今日この日、互いが在ることに賛辞と、謝辞を。
今日も、月は輝いている。
2 リヴァイ
改めて見てみれば、この場所に一枚の手紙を記してから、もう一年が経つ。
その間、お前と全く言葉を交わさずに過ぎた日なんざなかったな。飽きずに、懲りずに、自分の発言を体現してみせるお前は今日も俺の目の前にいる。
一年の間、互いに乗り越えるべき事象は数あった。
まだ春が訪れる前の大きな変化のとき、まともに説明しない俺の呼び掛けに、お前は嫌な顔一つせずに応えてくれた。…文句も言わず、受け止めてもらえたことに、感謝している。
俺は、何かを――…特に、自分の感情を説明するのが苦手だ。それでも、喩えばその大きな変化が起こったようなとき。
お前の顔が見たいと、そう思う。…だが、そんなときに何をどう告げてお前を呼べばいいのかが分からねぇ。だからこそ…ただ名前を呼ぶことしか出来ねぇ俺に、お前が応えてくれることが、有り難いと思う。
俺は、こう見えて物持ちはいい方だ。
気に入って使い始めれば、いつまでも手許に置いておく。今のところ、有用な湯たんぽを新調する予定はない。
お前がその熱を失うまで、精々俺に酷使されろ。
――…ありがとう、エレン。
その間、お前と全く言葉を交わさずに過ぎた日なんざなかったな。飽きずに、懲りずに、自分の発言を体現してみせるお前は今日も俺の目の前にいる。
一年の間、互いに乗り越えるべき事象は数あった。
まだ春が訪れる前の大きな変化のとき、まともに説明しない俺の呼び掛けに、お前は嫌な顔一つせずに応えてくれた。…文句も言わず、受け止めてもらえたことに、感謝している。
俺は、何かを――…特に、自分の感情を説明するのが苦手だ。それでも、喩えばその大きな変化が起こったようなとき。
お前の顔が見たいと、そう思う。…だが、そんなときに何をどう告げてお前を呼べばいいのかが分からねぇ。だからこそ…ただ名前を呼ぶことしか出来ねぇ俺に、お前が応えてくれることが、有り難いと思う。
俺は、こう見えて物持ちはいい方だ。
気に入って使い始めれば、いつまでも手許に置いておく。今のところ、有用な湯たんぽを新調する予定はない。
お前がその熱を失うまで、精々俺に酷使されろ。
――…ありがとう、エレン。
3 リヴァイ
改めて恋文、と言われると何を書けばいいか悩むが…。
お前の我が侭が許される日を振り替えた日の翌日、お前は凄ぇな、と、言ったのを覚えてるか。
あまり言葉が上手くねぇ身勝手な要望になるような言動に対しても、ともすれば俺自身ですら意識出来ていない言葉の裏側ってのを汲んで、受け入れてくれる。馬鹿が付くほどとんでもなくお人好しで気遣い屋で優しいお前の器のデカさを、改めて思い知った。
そんなお前を蔑ろにして来た奴等は一体何を見ていたのか理解出来ねぇ。勿体ないことをしたモンだと思う、同情はしねぇがな。様ァ見ろ、とは思うが。お蔭で、俺はお前を手に入れた。
…巨人の項を削ぐ為の行動なら幾らでも考え及ぶが、こう言うことは上手く思い付かん。どこまでが許されるのか計りかねるし、よかれと思ったことが逆の効果を生み出すことも多々ある。
だから、エレン。
いつも、いつでも、お前は俺に伝え続けろ。
すぐにぐすぐすしちまう猪に、俺が何を出来るのか、どうすればにやけ面を晒すのか。
きが済むまで満足して、要らなくなるまで、な。
――…また上手く行かなかった。……悪い。
お前の我が侭が許される日を振り替えた日の翌日、お前は凄ぇな、と、言ったのを覚えてるか。
あまり言葉が上手くねぇ身勝手な要望になるような言動に対しても、ともすれば俺自身ですら意識出来ていない言葉の裏側ってのを汲んで、受け入れてくれる。馬鹿が付くほどとんでもなくお人好しで気遣い屋で優しいお前の器のデカさを、改めて思い知った。
そんなお前を蔑ろにして来た奴等は一体何を見ていたのか理解出来ねぇ。勿体ないことをしたモンだと思う、同情はしねぇがな。様ァ見ろ、とは思うが。お蔭で、俺はお前を手に入れた。
…巨人の項を削ぐ為の行動なら幾らでも考え及ぶが、こう言うことは上手く思い付かん。どこまでが許されるのか計りかねるし、よかれと思ったことが逆の効果を生み出すことも多々ある。
だから、エレン。
いつも、いつでも、お前は俺に伝え続けろ。
すぐにぐすぐすしちまう猪に、俺が何を出来るのか、どうすればにやけ面を晒すのか。
きが済むまで満足して、要らなくなるまで、な。
――…また上手く行かなかった。……悪い。
4 リヴァイ
この場所に手紙を残すのは四枚目、か。
一年ってのは結構早い。
お前が色々あったり、俺がしばらく居なかったり、不貞腐れたお前を説き伏せたり、傍から見りゃ痴話喧嘩だと言われてもおかしくないようなやり取りもあったが…それも結局、長続きしないってのが実は凄ぇことなんだろうと思う。
何だかんだとお前は俺から離れたりしねぇし、その日の擦れ違いはその日の内に、ちゃんと話して解決出来るってのは、凄ぇことだと思う。
自分の為にしか生きないと明言している俺を、それがいいと受け入れるお前は、とんでもなく心も懐もデカいヤツだ。
今までお前が受けて来た傷の分、俺がお前を甘やかして、傷痕まで愛でてやりたいと思う。
そうしていつの間にかその傷の影も形もなくなったら、過去も含めて俺のモンになるんじゃねぇか、エレン。
…まぁ、お前は、もう既に俺のモンになっているし過去も忘れかけていると言うんだろうが。
俺は元々、欲張りでな。
………また一年、俺と共に居ろ。
一年ってのは結構早い。
お前が色々あったり、俺がしばらく居なかったり、不貞腐れたお前を説き伏せたり、傍から見りゃ痴話喧嘩だと言われてもおかしくないようなやり取りもあったが…それも結局、長続きしないってのが実は凄ぇことなんだろうと思う。
何だかんだとお前は俺から離れたりしねぇし、その日の擦れ違いはその日の内に、ちゃんと話して解決出来るってのは、凄ぇことだと思う。
自分の為にしか生きないと明言している俺を、それがいいと受け入れるお前は、とんでもなく心も懐もデカいヤツだ。
今までお前が受けて来た傷の分、俺がお前を甘やかして、傷痕まで愛でてやりたいと思う。
そうしていつの間にかその傷の影も形もなくなったら、過去も含めて俺のモンになるんじゃねぇか、エレン。
…まぁ、お前は、もう既に俺のモンになっているし過去も忘れかけていると言うんだろうが。
俺は元々、欲張りでな。
………また一年、俺と共に居ろ。
5 リヴァイ
流石のお前も、今、ここに手紙が書かれることは予想してないだろう。
随分と時間が経っちまったが…ひと月、頑張ったご褒美だ。
エレン。
俺は、お前が好きだ。
俺が好きだと飽きもせずに毎日のように言い続ける馬鹿正直さ。
空気を読みすぎなんじゃねぇかってほどに俺の言葉の裏側を読む優しさ。
欲望や感情を隠すことなくストレートにぶつけて来る素直さ。
一度口にした発言を違えることなく誰よりも俺の傍に居る誠実さ。
お前が触れて来る手も。
俺の名を呼ぶ声も。
俺より高い体温も。
落ち着く匂いも。
絶対なんて言えねぇ。
ずっとなんて保証出来ねぇ。
それでも。
俺はお前の傍に居たいと思うし、お前に居て欲しいと思う。
お前が、お前の宣言を全う出来る日まで。
俺は、見届ける。
だから……ちゃんと、さいごまで責任を取れ、エレン。
随分と時間が経っちまったが…ひと月、頑張ったご褒美だ。
エレン。
俺は、お前が好きだ。
俺が好きだと飽きもせずに毎日のように言い続ける馬鹿正直さ。
空気を読みすぎなんじゃねぇかってほどに俺の言葉の裏側を読む優しさ。
欲望や感情を隠すことなくストレートにぶつけて来る素直さ。
一度口にした発言を違えることなく誰よりも俺の傍に居る誠実さ。
お前が触れて来る手も。
俺の名を呼ぶ声も。
俺より高い体温も。
落ち着く匂いも。
絶対なんて言えねぇ。
ずっとなんて保証出来ねぇ。
それでも。
俺はお前の傍に居たいと思うし、お前に居て欲しいと思う。
お前が、お前の宣言を全う出来る日まで。
俺は、見届ける。
だから……ちゃんと、さいごまで責任を取れ、エレン。
6 リヴァイ
今年もこの日が来た。
…一年前の今日は、まさかこんな状況になるなんて想像もしていなかった。
俺の居場所も、時間のズレも、お前には色々と我慢をさせる結果につながっていると言うのは、よく理解している。
…だが、言うとすればそれは俺も同じだ。
そんな状況でも、お前が変わらず俺の傍に居てくれることは…有り難い、ことだと思ってる。
何処へ行っても、置いていくつもりはねぇがな。
精々、俺に連れ回されて振り回されろ。
それが、お前の責任だろう。
…一年前の今日は、まさかこんな状況になるなんて想像もしていなかった。
俺の居場所も、時間のズレも、お前には色々と我慢をさせる結果につながっていると言うのは、よく理解している。
…だが、言うとすればそれは俺も同じだ。
そんな状況でも、お前が変わらず俺の傍に居てくれることは…有り難い、ことだと思ってる。
何処へ行っても、置いていくつもりはねぇがな。
精々、俺に連れ回されて振り回されろ。
それが、お前の責任だろう。