1 ユミル

Boite a bijoux

ヒストリアへ宛てる。


宝石箱の中身を覚えているか?
紫陽花、桜の蕾、革紐付きの鍵、大輪の薔薇の花束、淡いアクアグリーンの髪留め、等身大の抱き枕なんかもあったな。


もう三年前の話さ。

私も全てを覚えているわけじゃない。女々しいからなぁ、お前の手紙や日記の一部を勝手に破りとって手元に隠してた。それをつい最近見つけて、そのついでにふらりと立ち寄ってみたんだ。

こうして言葉を残すのもただの気分。
お前の目に留まることは万にひとつもねぇだろうと思ってるから、思い出語りに多少の捏造を加えたって誰も気付かないだろうな。

ただ伝えたかった。

あの頃の私ときたら傲慢で、エゴイストもいいところだったろ。そんな私を惜しみ無く愛してくれてありがとう。お前は私が最初で最後だと言ったが、私も同じだ。お前ほどの女には後にも先にもいない。お前みたいに生真面目で重苦しいやっかいな女、そうそういて堪るかってんだ。

離れ際に苦しめちまったが、その時まで私と共にいてくれたことに感謝してる。ヒストリアは素直で不器用なだけの、本当にいい女だよ。
2 クリスタ・レンズ
あなたの紡ぐヒストリアが私の中で唯一の私。…懐かしいな。思い出のものを紙に書いて入れた硝子の瓶、だよね。覚えてる…いいや、並べてくれてたものを辿って思い出した。

もう三年になるんだね。私も懐古してふらりと立ち寄ったの。万にひとつで見つけちゃった。そんなに前じゃないみたいだし、すぐに分かった。驚いたよ。いつかまた足を運んだら見つけてくれるかな。

あの頃の私は未熟で不器用で…そうね、やっかいだったと思う。いつか言ってくれた通り一生懸命ではあったよ。最初で最後ね。あなたのことはあの頃も今も傲慢だとかエゴイストって思わないけど。…ユミルも不器用よね、ふふ。

マリーゴールド、混沌とした色合いのミサンガ、ルピナス数本の束……埃を被ってしまった手紙の箱を開けてみたの。思い出の輪郭は殆どぼやけてしまってたけど。桜が蕾を付けていたり、白詰草の葉を見たり、特に白い紫陽花を見つけると毎年あなたが過ぎるんだよ。だからね、救われた。本当に…言葉を残してくれてありがとう…。嬉しかった。別れ際のことも含めて、全部が宝物だった。そう、胸を張れる。

またふと思い出してくれたときはあなたの心にも温かいものがいっぱいに満たしてくれたらって筆を取ったの。
伝えたいこと、私もあるよ。その時まで見守ってくれてありがとう。推敲して言葉を選んでくれるあなただから私の無鉄砲さに苦労したでしょ。愛してくれて…思い出を大切にしてくれてありがとう。そんなユミルと過ごせて幸せだった。

お姉さんで、不器用で優しいだけのユミルもいい女よ。あなたが幸せでありますように。