1 クリスタ・レンズ

悲しみ

ねえユミル、この世界にはどんなにどんなに愛していても、乗り越えられない壁のようなものがあって。
きっと、あの人にとっては、“それ”がそうだと思うんだ。

すごくすごく、大切にしてくれる。
すごくすごく、愛してくれる。
すごくすごく、可愛がってくれる。
いとしくて、可愛くて、格好よくて、私なんかには、もったいないくらいに素敵なあの人は私の自慢の恋人。
でも、ね。昔、確かに約束されていたものは、あの人は絶対に与えてくれないの。私がなにをしても。どんなにいい子に振舞っても。…違うかな?そうでしょう?

仕方ないよね。愛されてるんだもの、我慢しなくちゃ。
ああ、でも……
白いドレスと可愛い子ども。
大好きなひととの、あたたかい家庭が、欲しかったな。

だから、ね。悪い子のヒストリアは、夜眠らないの。
ねえ知ってる?ユミル。悪魔の誘惑は多いんだよ。
みんなで笑いあう家庭は作れなくても、ちょっとした契約さえすれば、ドレスは着せてもらえるって知ったんだ。
そうしなくちゃ。だってそうしなくちゃ、なんの落ち度もないあの人を憎んじゃう。
でも、欲しいの。どうしても欲しいの。
わがままなんだ、私は。

嘘つきね。
本当に本当に欲しいのは、あの人だけなのに。

私は代理。誰も誰も、関係ないの。誰も誰も、気づかないでね。