1 ジャン・キルシュタイン

無題。

悪い事ってのは腹立たしい位に重なるモンだよなァ、オイ。
一度は我を通しちまったが…何時迄も不規則な生活に追われてる野郎の手許に縛り付けンのもアイツにとってそろそろ負担なんじゃねェのかとも思い始める始末。言葉なんか有ってねえ様なモンだとしか捉えられねえ今、アイツが紡ぐ言葉の一つ一つが気ィ遣わせてンじゃねえのか、無理に恋人っつう枠に嵌めてるんじゃねえのかなんて柄でもねえ思考で埋め尽くされてるザマだ。……クソ、笑えよ。

なあ、俺がお前の所に居て良いのかよ。自由に動きたいんじゃねえのか、なあ。
2 アルミン・アルレルト
ジャン、君の声に刹那の間足を止める事を赦して欲しい。
理由は簡単だ、……少し心当たりが有って、ね。


君は代理の姿で、向けた言葉は僕の幼馴染み宛、かな。そして8の数字に心当たりは有るかい?


此れだけで良いんだ。
触れられたく無いかも知れない、けれど少しで良いんだ。僕の質問に答えてくれると嬉しいよ。
勿論人違いの可能性の方が高い、違えば速やかに此れは消そう。
3 ジャン・キルシュタイン
…こんなクソみてえな吐き溜めに反応が有るなんてな。アルミンよォ、つくづく思っちゃ居たが随分とイイ趣味してるよな、お前。

で、お前が挙げた鍵には悲しい…否、悔しいって言った方が妥当か。思い当たる節は有る。だが、彼奴か否かを判断する術が無けりゃ特に目に晒したかったって訳でもねえ。テメェの好意ばかりを重んじて、彼奴の本意に気付けてねえんじゃねえかって。と或るモンを見てふいにそんな考えが渦巻いた。

…ま、理由の如何にしろ、こう思い始めたならもう一編時間作って彼奴ときっちり話し合うべきなんだよな。ンな所で頭抱えてるのもアホ臭ェ。
アルミン、お前も似た様な馬鹿を抱えてるなら一編其奴の面取ッ捕まえて腹割って話し合えよ。…ああ、どうせ説得力に欠けるのは分かってるよ。何も言うな。分かってるって。
4 アルミン・アルレルト
先ずは反応に感謝を。有り難う、ジャン。…良い趣味?──やだなあ、余り褒めないでくれよ、照れるじゃないか。


と、狂言は扨て措き。
君が密やかに其の心中を吐露したかった事は判ってるんだ。だからこそ、声を掛けるか否か暫く悩んだ。…だけど若し君が僕の知る彼の人なら、放っては置けない。だって然うだろう?恋人なんだ。恋人の言葉は凡て拾いたい、例え其れが藍色に滲む文字でも。…知りたいんだ、教えて欲しいんだ、其の声が、文字が、燃える様な赤でも見上げた宵闇の様に黒くても。
気遣うのは当然だ、──大切な人だからね。だからって感情を丸めて投げる言葉に虚言は無いよ。
…と、此処迄綴りながら、君が僕の知る彼の人と断定するには驕りも甚だしいだろう。けれど、仮に然うで無くても君の大切な子は屹度同じ事を云うんじゃないかな。

君が走り書きした言葉の全貌は解らない。だからこそ、其の心を悩ませ話し合える相手が居るなら君の言う通り打つかるべきだ。良い事を言うじゃないか、ジャン。見直したよ。
僕の方は然うだな、…然うだね。彼の人が君と同じ様な事を密かに抱いて居るのなら。逢いに行くよ、屹度言い出せずに居るのかも知れない。否、此れこそ驕りかな。

最後に、君の悩み事が解消される事を、そして其の行く末に降る幸を、泡沫に触れた縁だけど祈らせてくれ。