1 クリスタ・レンズ

涙の瓶

一粒めの涙は、憎しみの涙だった。世界は自分を理解をしてくれないと他者を憎む、そんな涙。ねえ、今は___に良き理解者はいるのかな。
二粒めの涙は、己の非力さを嘆く思いやりの涙だった。非を全て自分に求める、優しさを通り越したあの人の今日を知るすべは私にはない。
三粒めの涙は、亡くした痛みの涙だった。私に出来ることは何もなくて、ただ瓶に溜まる水音を聞いていた。私も悲しい筈なのに、涙は零れなかった。
四粒めは、驚きによる涙だった。愛する人に裏切られた事を理解しきれず、頭が混乱して落ちた涙。聡明な貴女の傍に今は、心優しき人がいることを願ってる。
五粒めの涙は、疲労によるものだった。人並みに生きる事が、どれほど大変か静かに流れる液体が私に教えてくれた。突然途絶えた手紙は今も、私の胸の中に。

くる日も、来る日も、年齢や性別を問わず、沢山の人の涙を集め続けた。…理由は、わからない。誰かに感謝されることで、意味のない自尊心を満足させたかったからなのか、泣ける皆が只々羨ましかったのか。…今日も瓶の中に溜めた液体は、キラキラ輝いている。だけど、私の目から涙は落ちない。たったそれだけ、されどそれだけ。