1 エルヴィン・スミス

失う体温

あの日から私は、お前にとって都合のいい体温であるつもりだった。寂しさを紛らわす為の一時の熱。好きになってはいけない、お前の一挙一動に振り回されてはいけない、仮面を外してはいけない。

だが、お前の声が、顔が、指先が、あまりにも優しいものだから、どうやら俺は…大きな勘違いをしてしまったらしい。もしかしたら、愛してもらえるやもしれないと。だが、そんなものはまやかしだ。あの子の言った大切は、都合のいい仮面を被った私に対してだ。こんな、本来の目的を見失った馬鹿な私に対してではない。

ならば、この思いは心の奥深く、光の届かぬ場所へ沈めてしまえばいい。問題ない、明日には元どおりさ。何もない顔をして、笑おう。変わらぬ明日に、なって。なって行く筈さ。