1 エレン・イェーガー

詩人になれなかった仔犬

…あなたのことを、待っていました。
ただいつも、疲れて帰って来るあなたを抱き締めてあげたくて。けれどいつからか見返りを求めている自分がいた。そんな自分に吐き気がした。
あなたが忙しくて疲れていて、それでもオレのことを大切にしてくれていること、わかっていたのに。
もっと言葉や態度で表して欲しかったなんて…どこまでも我儘ですみません。

あと一時間も無く約束の日付が変わりますね。もしそれがあなたの答えなら…良いんです。オレには受け入れるしか無い。本気で向き合うには色んな覚悟が必要だった、オレにはそれが…無理だった。

もしかしたら疲れて寝てしまっているのかも知れません。それならそれで良いんです。オレからは…明日どんな鳩が来ても、きちんと返せるかわかりません。だって今でもこんなに泣きそうなんです。きっとみっともなく縋り付いて泣き喚くでしょう。そんな真似はしたくない。
最後の人と決めたあなたに迷惑を掛けるくらいならオレはずっと一人で良いんです。お互い傷付け合って…いっぱい笑いましたね。幸せでしたよ。

あなたのおかげで沢山のことに気付けました。自分が孤独では無いことをこれからも胸に刻んで生きて行きます。

ただ…優しいあなたに選択を迫った自分は許せそうにありません。きっと胸を痛めたと思います。もしかしたら、この瞬間も…まだ迷わせているのでは無いかって。
ごめんなさい。いつまでも我儘な仔犬で。あなたはオレの…素敵な、魔法使いでした。

…リヴァイさん、今晩はオレ達を巡り合わせてくれた雨なんですよ。何て言うか、運命かなって。だから…もう少し、待たせてください。
2 エレン・イェーガー
…こんな日もありましたね。結局あれから日付変わっても鳩は来なくて、泣きながら眠った。それで朝、痛む頭を抱えて起きたら口数の少ないあなたなりの、きっと一生懸命に綴った手紙が置いてあった。伝えることを苦手とすることを知っていてオレはあなたに迫ったのに、現金なオレは嬉しくてまた泣いた。
あなたと交わした言葉を振り返っていて、ここに綴ったことを思い出したんです。だからまた、場所をお借りします。


どうしたら…気持ちは伝わったんでしょうかね。あなたから言葉は返って来てませんけど、オレはもう麻痺してるんです。自己防衛なのか、相変わらず都合の良い頭で我ながら…何とも言えない気持ちになります。

オレはちゃんと守れましたか、いつかあなたが言った「俺を振るならその時は手酷く振れ」って約束を。
きっと傷付けた、でもオレはその5倍傷付いていました…なんて。気持ちなんて推し量れるモノでは無いから、5倍も何もきっと無いんだといつからか思ってました。それにあなたが不器用だってことも知っていましたから。

もうあなたを愛していたくない。哀しい、苦しい、痛い、怖い。自分達の関係を何と呼ぶのか疑う日々…もう、疲れました。
オレが煩わしかったのならそれで良いですし、きちんと棄てて欲しかった。条件を提示していたのはあなたです。オレから命令に背くことがどれだけ苦しかったか…確かに色々ありましたよ、ありましたけど。だからこそ愛し合っている間だけでも、その時間を大切にしようとは思ってはくれなかったんでしょうか。

…きっと総て、オレの押し付けで独り善がりだった。

今のオレなら、あなたを失っても生きて行ける。あんまり身を削らない方が良いですよ、オレが言うのもあれですけど身体は大切にしてください。リヴァイさんは本当にオレのトラウマ抉りっぱなしなんですから。

あぁでも…何もかも、思い出せば思い出す程に辛いですね。幸せだった記憶が確かにあるだけに哀しい。本当に、ただ哀しいです。

恋人として、こんなに深く愛せたのがあなたで幸せでした。これは本心ですよ。結局どれだけあなたを悪く思ったって毎晩自分を責め続け、自己嫌悪の輪に陥り、それに堪えられなくなったのはオレです。
どうかもっと、こんなガキじゃない余裕のある方と巡り逢えて、あなたが深い愛情に包まれて幸せになれますように。


…そしてオレは壁の外へ行く。空が広い。世界もまだ何も知らない…何もかも美しいと思った。どこまでも残酷かも知れない、けれど負けないで闘いたい。その為に今は触れられたく無い。揺らいではいけない、強くいなきゃいけない。
オレにはどこまでも一人が似合うんでしょう。淋しさなんかこれっぽっちも無いんです。オレなら平気ですから…早く、命令をください。
3 エレン・イェーガー
わざわざ届けることも無いかと思って、色んな想いを綴った文は燃やしました。オレから離れるならせめて条件を守るべきだなって。

…こんな風に終わらせたい恋では無かったんです。リヴァイさんには本当に感謝してるのに、オレは何を返せたんだろう。ただ悪戯に傷付けただけな気がする。
今は穏やかに、あなたの隣に誰かがいることを願っています。オレはこれから総てにおいて何も出来ないから。決して気に病まないでください、どんな方でも構いません。あなたが一人で哀しんでいたら、辛い。

改めて今までありがとうございました。リヴァイさんはこの言葉が欲しかったんでしょうか?もうわかりませんが、オレもまた歩き出すので。

最後くらい格好良くいたい、仔犬なりの意地です。笑わないでくださいね。

雨が降る度にオレはあなたを思い出すでしょう。ありがとうございました、心の底から…愛していました。

どうかお元気で。
さようなら、オレだけの魔法使いだった人。