1 ジャン・キルシュタイン

お久し振りです。

まさか貴方にこうして手紙を書くなんて思いもしませんでした。
言葉遣いが普段と違うのは許してください。
こうでもしないと何時ものように喧嘩を売ってしまいそうになるのです。
取り繕った外面が綻んで綻んでどうしようもなくなるのです。

あなたは今、幸せですか。
何かが起きたら俺はいつも貴方の名を口にしてしまいます。
貴方に触れられた時の熱が忘れられずに切なくなります。
その癖、手紙は全て焼いてしまったから貴方の事を何一つ思い出せません。

今、愛している人がいます。
優しくてひたむきな人です。
守りたいと思っています。
だから、貴方にもしかしたら会えるかもなどという思いは断ち切らなくてはなりません。
だから、この手紙をしたためています。

俺はもう、爪先から頭の先まで彼のもので、
俺自身も彼の爪先から頭の先までのすべてを受け取ったのですから。

おそらく、貴方への思いは幻想なのでしょう。
たまたま貴方が一番印象に残っていて、別れも突然だったから都合の良い虚像と貴方を混ぜてしまっている。
ただ、俺は貴方のそばにいた時、とても情緒不安定で言っていることが支離滅裂だったからそれだけは謝らせてください。
ごめんなさい。
懐が深い貴方だからなんだそんな事と笑い飛ばすのでしょうけど。

俺は今、貴方のおかげで生きています。
そして、今とても幸せです。
それでは、さようなら。
どうぞお元気で。
2 ジャン・キルシュタイン
お久しぶりです。
また貴方に手紙を書くなんて思いもよりませんでした。
それでも、不安なことがあると如何しても筆をとってしまいます。
あなたにされたことへの仕返しでしょうか。
あの夏の日に受け取った手紙の内容は実はもう覚えていません。
ただただ、あなたを勝手だと思ったことは覚えています。
貴方を追い詰めたのは自分のくせに随分だ、と自分でも思います。

ただ、吐き出す場所が欲しいのだと思います。
貴方が都合が良かった。
だって今の彼を俺は失いたくないから。
…失う日付を先延ばしにしているだけなのかも
貴方のように、真っ直ぐにあけすけに何の打算もなく生きられたらよかった。
3 ジャン・キルシュタイン
愛してくれる人がいる
愛していた人がいた