1 ライナー・ブラウン

恋人にも、幼なじみにも、

なれなかったお前へ。

半月近く経ってもあの唐突な別れを受け入れられず、俺はいつかまたお前に会えるんじゃねえかと、そんな淡い期待を抱いている。
……ああ、分かってる。そんなのはただの夢まぼろしだ。
それでも、何かの間違いでひょっとしたら届くんじゃないかと、消えた宛先に手紙を書くのが未だに止められん。

お前に伝えたい言葉が沢山あった。
あんな風に別れの挨拶も言わせてくれずに消えちまった事への恨み言、こんな俺に付き合ってくれた事への感謝、言い足りなかった愛の言葉……。
俺はこうして今届かない手紙を書いているのも、死んでいくその言葉達をどうにかして生かしたいだけなのかもしれんな。

なあ、ベルトルト。
お前は俺にみっともない所を見せるのが嫌だと言ったが、本当にみっともなかったのは俺の方だ。
お前に自覚はなかったかもしれんが、実のところ支えられていたのは俺の方だった。
体ばかりの付き合いで何を、と思うかもしれん。それでも、俺はお前に甘えていたんだ。ひそかにお前を自分の支えにして、他の奴には決して見せられんような情けない面をお前だけには見せて、そこに安らぎを見出していた。

お前を振り回して傷付けた俺にこんな事を言う資格はないだろう。
だけどな。……いつかもう一度だけでも、顔を見せてくれよ。
宛先の無いこんな支離滅裂な手紙でも書かないとやってられん位、お前が欠けた穴はでかくて、寂しいんだよ。
ベルトルト、一人で泣いてないか。今、ちゃんと笑えてんのか?
まったく、自分を振った男の心配するなんざ未練がましいにも程があるよな。


跡形もなく消えちまうんなら、思い出も愛情もお前が全部持って行ってくれりゃ良かったのにな。
……愛してた。愛してたよ、ちくしょう。
2 ライナー・ブラウン
もういい加減に、お前からの手紙を全て燃やしちまおう。

俺は自分が思う以上にしつこい男だったらしい。ひとときの邂逅に心を引き摺られて、気持ちを捨てるタイミングを失っちまった。


じゃあな、俺が愛したお前。もう会う事はねえだろう。
捨て損ねた愛情は、この泉に沈めて行くさ。
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