1 リヴァイ

嫌な想像を

成る可くしないように、なんて手紙には強気に書いたがな。
本当は昨日からして居た。ずっとだ。
一昨日辺りのあの手紙でお前を困らせちまったんじゃねえかと、…そればかり考える。良い年して情けねえ。色恋にこうも振り回されるとは。

お前のベッドに潜り込んで眠るのが何より安心出来た。気を許せた。朝方、疲れ切って戻ってくるお前を出迎えるのが俺の役目だった。
今夜もてめえの部屋に居座るが、……もしお前がこのまま帰らなかったら。俺はどうすりゃ良い。
俺の所為でお前の気を萎えさせちまったのなら……せめて走り書きを。扉の隙間に挟め。そうでなければ俺はいつまでもお前を愛したままあの狭い籠の中だ。

どうせなら壊されちまえば良かった。二度と飛べないくらいに。
なぁ、―――エルヴィン。
それともあの夜、てめえの手を引いて、地獄へ道連れにしちまえば良かったか…?

考え過ぎかも知れんが。久しく抱かなかった感情が胸の内側を満たしてやがる。
お前が無事なら、いつもと変わらねえ日々に戻るなら、それが何よりの望みだ。

愛してると囁くお前の声が、まだ鮮やかに耳に残ってる。
2 リヴァイ
気が済んだら、此処に走り書きした言葉は全て消す。お前に見つかって困らせる前に。だから今だけは。吐き出させろ。

眠れねえからと言って寝酒をするなと怒られたのは記憶に新しいが、今夜はお前に隠れて一人で寝酒だ。安い林檎酒が手に入ったんでな。相変わらず寝付きの悪いこの体質は変わらんらしい。目の下の隈が消えねえのは多分こいつの所為だ。まあ身体には何の支障も無いから気にしてねえが。せめて少しでも酔えたなら、全てを忘れて微睡みに溺れて居られたんだろう。

普段なら、たかが一日二日で此処まで悩んだりはしない。しかし今回は妙にタイミングが悪い途切れ方だったからな、……いや、信じて待ち続けるが。
お前が帰還してくれりゃそれで良い。それだけで十分だ。お帰り、と言ってやれたら。キスの一つくらい…してやらない事もねえぞ。背伸びをしても唇に届かねえのが腹立たしくてしょうがねえが。

今も何処かで指揮を執って戦ってるなら、幾らでも待つ。慌てて馬を走らせようなんて事は考えるな。休息はしっかり取れ。

……何が書きてんだか解らねえな。まぁ良い。直接お前に手紙を送ろうと書き綴ったのを破った代わりに、此処へ残す。

眠って居る間、真っ白な手紙を持った鳩が来ねえように……窓は閉めておく。
部屋の扉の鍵ならお前が持ってるだろう。
3 リヴァイ
お前が部屋に戻らなくなってから、約一月。
先月は出逢った記念の日にお前から銀の指環を贈られ、随分と内心浮かれたものだ。今となっては懐かしい話だが。

…なぁ、エルヴィン。お前はきっと、もう俺の事等忘れて居るだろう。今頃どうしてやがるのか何一つ事情も解らねえが、結果的に、多忙を極めるお前の足枷にしか成れなかったように思う。
だがな。俺はお前に束の間の夢を見た。俺の手には余る程、幸福な夢をだ。悲しませる様な去り方はしないと、てめえがそう言ったから、…未だにお前を忘れる事も出来ずに部屋で独り立ち尽くして居る。は、馬鹿な奴だと笑うか?
何にせよ俺はお前を恨む気持ちは一切ねえ、ただ無事と幸福を願うだけだ。未だこの世界の何処かに居るのなら、今度こそ最後の恋人とやらに成り得る様な奴を作って幸せに過ごせ。俺はお前の想い描いた理想とは違って居た、要はそれだけの事だろう。実際俺は優しい訳じゃねえ、独占欲の強い厄介な人間だ。その事が露呈する前に離れて良かったのかも知れん、お前の頭を悩ませる前に。

お前の事が本当に好きだった、エルヴィン。いや、…―――今も未だ。

薬指に嵌めたままの指環は貰って行く。その位は赦せ。ひと時でもお前と愛し合えた事に、後悔は無い。