男娼の

かなり前になるけれど、ある見世に居た奴を探している。
暫く足が遠退いていたんだけど、久し振りに見世を探したら場所が分からなくなってしまって。
色々歩き回ったけど手掛かりも全くない。もしかしたら、もう閉店してしまったのかもしれないね。


かなり曖昧になっているんだけど、鍵を幾つか。

・冬でも素足で出歩いていた
・マフラーを貸した事がある
・珍しく綺麗に着飾った事があって、俺は「いつもの方がいい」と言って困らせた
・部屋から見える桜を見た記憶がある
・見た目は黒髪、華奢な身体付きで色白だった。


どうかな?
この世界にもう居ないかもしれない。
けれど久し振りに会った時、訊きたい事があると言っていたのを今でも覚えていて。
その内容は思い当たるし、お前も答えを分かっていると思う。
それでも気掛かりのままただ月日だけが流れてしまって今でも思い出す。


俺も以前とは変わってしまったと自覚しているけれど。
それでも良いなら昔話でも、またしないか?
これからの季節なら紅葉を肴に旨い日本酒が呑めそうだよ。
2
心当たりがあったのでメールしました。事故防止のためこちらにも書き込んでおきます。
まずは書き込みありがとう。
メールが届かないようなんだ。こちらの確認不足で申し訳ない。
これを見たらこちらから連絡を貰えると嬉しい。

ただ、もしかしたら貴方の探している人は俺じゃないかもしれない。その名前が頭文字だとしたら当てはまらないから。


こちらもよくよく考えてみたら俺の事に殆ど触れていなかったね。
もう少し詳しく書いておく。

・俺の苗字はササキ
・一度見世を去っている
・お前は俺を見送ってくれた
・乱暴に抱いてしまった事がある


どうだろうか。
良かったらまた連絡をくれないか。今度こそ届くと良いんだが…。
4
貴方が俺の名前に心当たりがないのでしたら、残念ながら俺は貴方の探している方ではないようです。

ただ、鍵を拝見する限り、貴方にお会いしたことはあるようです。とても優しくしてくださった貴方の探し人が、早く見つかるよう祈っています。
ああ、ごめん。
会った事があると言われて気が付いた。
確かに会った事があるね。素足で歩くのは同じだった。ただマフラーではなく足袋をプレゼントした気がするよ。
オーナーが変わって見世が再開した時には居なかったよね。気にかけていたんだ、説得力は無いかもしれないけれど。

懐かしいね。まだ同じ世界に居た事を嬉しく思うよ。
昔話に花を咲かせたい所だけれど…流石に安易な気持ちでは申し訳ないからね。

またいずれ何処かで会えるだろうか。その時を楽しみにしてる。連絡をくれて本当に嬉しかったよ、ありがとう。
貴方も元気で。