短期募集

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1 三/日/月/宗/近
奥手
新月であった。見渡す限り黒色に塗り潰された芸の無い空だと言った俺に、酒杯を勧めながら微笑むその濡れた唇が実に旨そうだったので、思わず薫るような酒気ごと一口に含んでしまった。
切欠と言えばそれで事足りたようで、以来、酒のついでのように口や膚を吸い、抱擁し、手足を絡め合うような関係にまで至った。惚れているし、惚れられている自負こそ多分にあって疑いようもなく、回を重ねるごとに深くなる触れ合いにも気が付いていた。此方としても望むところではあったものの……口を吸って、髪に指を絡めて、腰を抱き寄せながら畳に組み敷くまではあっという間だ。今にも境界を踏み越えたくなる。
まざりあいたいと冀うあの纏わりつくような欲はこの身のどこから湧いて出るのだろう。分かりやすい発情に、灼熱を呑み込んだ腹が煮え滾る。掻き立てられるまま貪婪に食い荒らしそうになるこの粗野な感情が己の持ち物であるとは到底信じがたく、いつもどうにか理由をつけて身を離す。
お前はそれを奥手と評価したけれど、決してそうではない。ではどうなんだと問われたところで、納得させられるだけの理屈を返してやれないだろう。だから俺は、いい歳をして初心で奥手で可愛らしいかすみ草のように清純な恋仲として今日まで振る舞ってきたわけだが。
お前に手を出せないのは、もっと別の、深い事情がある。それはなんだと問う気があるのなら、その先は物語の中で少しずつ語らうこととしよう。

気になってくれたのなら捨宿にて不可行為を記入の上会いにおいで。出迎えるのは俺のみ、其方は太/刀を願いたい。それではな。

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