18 無名さん
(何処か遠くから蝉の声が聞こえてきそうな気さえする昼下がり、湿気た暑さに僅かに眉根を寄せ、ぱたぱたと緩慢な動作を見せる右手は何とか微風を起こそうと足掻いている様子。左手に掴んだ紙パックから伸びるストローを咥えてベンチに腰掛ければ人気のない中庭に広がるのは重い沈黙でしかなく、気紛れに屋外へ足を向けたことへの後悔が早くも胸を過ぎる。椅子の背に体を完全に凭せ掛けた姿は他人の目には些かみっともなく映るだろうが、人気のなさに油断した思考では背筋に力を入れる気にはなれずに結局そのままの姿勢でゆるりと首を反らし。真上の青空を眺めながら発した誰に向けるでもない言葉を耳にしたのは花壇の花々のみか、仮に誰かがいたとしてもぼんやりとした様子を見るに余程近付かない限りその誰かの存在に気付くことはないだろう/↑)……暑すぎです、溶けそう…。
19 無名さん
(まだ真夏日とは言えないのかも知れないが太陽が昇れば日光は容赦なく降り注がれ気温は上昇し、時季独特の湿度の高さは空気を蒸して風が止まると熱気となって身を包もうとするだろう。短い生を謳歌するべく声を張り上げる蝉すら煩わしくさせる些か明る過ぎる中庭を避け、短くも影が伸びる校舎の陰で昼食を済ませた時点では陽射しの直撃を受けていなかったため酷い暑さを感じることは避けられたものの、ランチバッグを持ち一度太陽の下に身を置いては忽ちじわりと汗が滲み、足早に中庭を突っ切ろうとしたところベンチに人影が。遠目に何処の誰かも分からなかった相手がクラスメイトであると知ったのは歩を進め随分距離を縮めてからで、不意に耳に届いた言葉を拾い上げるとベンチの傍らで足を止め唇を開き/↑)あんたが溶けたら困るよ、鹿野。
20 無名さん
あら、…もし溶けてしまった時は冷凍庫で冷やし固めてくれると助かります、玲さん。(熱気に包まれ僅かに歪む思考を涼やかに貫いたのは鼓膜を揺らした誰かの声、気の抜けた姿勢は変えぬままに上空を彷徨っていた視線をゆるりと声の方向に逸らせば視界は確かにクラスメイトの姿を捉え。この場に己以外の人が居ないと思い込んでいたからか不意を突かれたように間の抜けた音が溢れ落ちるも、困ると呟く相手の声に一呼吸置いて笑んだ口元が緩やかに紡いだのは冗談めかした世迷言。依然反らしたままの首が鈍い痛みを訴え始めたのを受け、軽く一言呟くと共に背凭れから体を離して背筋を伸ばし。傍に立つ相手の方へと向き直れば空いた片手で隣の空間を示し、手振りで着席を勧めようか。改めて相手へ向けた視線は手元に下げられたランチバッグを掠め、柔らかな語調で何の気なしの問い掛けを)…なんて、ね。こんな所で会うなんて奇遇ですね、お昼ご飯ですか?
21 無名さん
何アイスみたいなこと言ってるのよ。…そう、昼御飯食べ終えて戻ろうとしたらあんたが溶けかけてたというわけ。(初夏の草木の色は青々と瑞々しさに溢れ陽光に照らされた緑の鮮やかさを視界の端に捉えつつ見下ろしたクラスメイトの視線が青空から地上の自分へと着陸した事に双眸を細め焦点を合わせ、掴んだままの荷物が大きく揺れることを気にも止めず腕組みしては相手の言葉に冗句のつもりのそれを返して。組んだ腕を解くと空の弁当箱とペットボトル、まだ冷凍の役割を果たしている保冷剤が小さな音を立てるランチバッグを片手で持ち上げ軽く肩を竦めて見せ、休み時間にまだ余裕があるとの判断から勧めに甘え相手の隣に腰を下ろし、荷物は傍らへ。此処が浜辺で相手が水着ギャルならいざ知らず、学園の中庭で降注ぐ日光に晒されていたクラスメイトの行動理由の見当が付かず問い掛けるも手と視線は荷物へと下ろし、半分溶けてはいるもがまだ冷気を放つ市販の保冷剤を取り出せば差し出して)こんな所でと言うなら鹿野こそ、なんでわざわざこんな暑い所で溶けかけアイスになってたの。…使う?
花を見ながら一休みって、優雅な感じでいいなって思ったんです…実際は優雅どころか溶けかけアイスだったんですけど。(投げ掛けられた問いへの答えを紡ぐ口には浅慮な発想だと自覚している故の気まずさを覆い隠すようにと手のひらが被さるも、一拍間を置いて言葉を続けるその声には可笑しげに笑みの色がちらりちらりと見え隠れ。差し出された保冷剤にはゆっくりと瞬きを一つ、驚きに背を押されて喉から飛び出した言葉はほろりと口元から零れ落ちるもそれが示す僅かな逡巡は照りつける夏の陽射しに呆気なく溶け去って。熱の篭った手に触れる保冷剤は流石に些か柔らかさを帯びた形状と化しているもののその目的を果たすに相応しい冷たさが柔さと相俟って心地良く、逃げ場を見つけた熱が抜け出て行く感覚に唇からは恍惚ともとれる溜息が一つ。締まりない笑みを型作る唇が気負いなく落とした一言は拙く響くも感謝の意が十二分に込められたもので)え、いいんですか?…ありがとうございます、お借りしますね。玲さん優しい。
綺麗に咲いてるし愛でたくなる気持ちも分かるけどね。…溶けかけアイスを放って置いたら本当に溶けちゃいそうだと思っただけ、優しくないわよ。(直ぐ近くには辺りの緑に負けないくらい溌剌と鮮やかな色で咲き誇る花々が並ぶ花壇があり、この場に留まりたくさせる魅力あるそれを見下ろせば目許から僅かに力を抜き相手の行動に一定の理解を示す言葉を漏らして。掌に冷たさを染み渡らせる保冷剤が渡って行くと伸ばしていた手は膝上に落下させ、冷やすという役割を果たし有効に活用されている凍った塊と相手の様子を眺め双眼を細めるも告げられた言葉に目を丸くし、少々居心地悪そうに視線を逸らしては緩やかに首を横に振り返す声を静かに響かせよう。ベンチの背凭れに背中を預け顔を上向かせると会話の最中も変わり無く降り注いでいる光が目には痛く、片手で廂を作り直射を避けつつ果てしなく続く空の青さを瞳に映して吐息を漏らすかのような力が抜けた呟きを)…暑さは頂けないけど、夏の空は好きだな。
…ふふ、玲さんがそう言うのなら優しくないのかもしれません、ね。(受け取った保冷剤を両手で包み込むその表情は柔らかく緩むも、逸らされた視線を受け笑みに悪戯な色を滲ませつつ嘯いた言葉は些か態とらしく響くだろうか。相手が評してくれた通り夏の陽射しを活力にすくすくと成長中の花々を見遣る目元は柔らかく和み、口元からは呼気に紛れて音を消した笑い声が密やかに漏らされる。相手の言葉に倣うようやおら視線を上へと向ければ空の色は絵の具を溶かした色水を一面に張ったよりも尚鮮やかに透き通り、その青を遥か上より透かして眩しく降り注ぐ陽射しに目は自然と細まって。空を見上げたままに呟いた言葉は相手の意見への賛同と自然の持つ美しい色合いへの賛辞を表すも、ふと視界を悠々と横切った一羽の鳥影に意識をひかれて漏らした独白には地上の暑さからの現実逃避願望を溶かしたなんとも俗っぽい理由が付け足され)抜けるような青空って表現がぴったりですよね。鳥になって飛べたら気持ち良さそう…上空の方が気温が低いって言いますし。
(照れ隠しの下手な誤魔化しは通用しなかったのだろうか、柔らかくも悪戯な笑みが隣にある事を視界の片隅に確認しそのうえ鼓膜を揺らす相手の声音の変化に気付けば一呼吸の合間両目を瞑り、決まりの悪さに口をへの字に歪めて素知らぬ振りを決め込んで。青い光が散乱する天空は夏空に相応しく光度の強い鮮やかな色合いがあり、明るく輝く美しさに溜息を漏らしては五本指の隙間から差し込む陽光に目蓋を半ばまで伏せて。廂にしていた手を下ろし再び開いた左右の目でゆっくりと見上げた空には翼を広げ悠々と風に乗る鳥が羽ばたき、その光景は青に映えて清々しく意識を奪われかけたが相手の言葉を聞くと片眉上げて視線を向け、笑みとして認めるには難しい程の微小な変化ながらも唇の端を持ち上げ双眸は和やかに細めた面持ちにて)本当にね…こんなに澄んだ青が頭上にあるって考えると、気持ちが晴れやかになるわ。あんた…自由に空を飛びたいとかそういう可愛らしい理由じゃなくて、ただ単に暑さをどうにかしたいだけなんじゃないの。
花を見ながら一休みって、優雅な感じでいいなって思ったんです…実際は優雅どころか溶けかけアイスだったんですけど。(投げ掛けられた問いへの答えを紡ぐ口には浅慮な発想だと自覚している故の気まずさを覆い隠すようにと手のひらが被さるも、一拍間を置いて言葉を続けるその声には可笑しげに笑みの色がちらりちらりと見え隠れ。差し出された保冷剤にはゆっくりと瞬きを一つ、驚きに背を押されて喉から飛び出した言葉はほろりと口元から零れ落ちるもそれが示す僅かな逡巡は照りつける夏の陽射しに呆気なく溶け去って。熱の篭った手に触れる保冷剤は流石に些か柔らかさを帯びた形状と化しているもののその目的を果たすに相応しい冷たさが柔さと相俟って心地良く、逃げ場を見つけた熱が抜け出て行く感覚に唇からは恍惚ともとれる溜息が一つ。締まりない笑みを型作る唇が気負いなく落とした一言は拙く響くも感謝の意が十二分に込められたもので)え、いいんですか?…ありがとうございます、お借りしますね。玲さん優しい。
綺麗に咲いてるし愛でたくなる気持ちも分かるけどね。…溶けかけアイスを放って置いたら本当に溶けちゃいそうだと思っただけ、優しくないわよ。(直ぐ近くには辺りの緑に負けないくらい溌剌と鮮やかな色で咲き誇る花々が並ぶ花壇があり、この場に留まりたくさせる魅力あるそれを見下ろせば目許から僅かに力を抜き相手の行動に一定の理解を示す言葉を漏らして。掌に冷たさを染み渡らせる保冷剤が渡って行くと伸ばしていた手は膝上に落下させ、冷やすという役割を果たし有効に活用されている凍った塊と相手の様子を眺め双眼を細めるも告げられた言葉に目を丸くし、少々居心地悪そうに視線を逸らしては緩やかに首を横に振り返す声を静かに響かせよう。ベンチの背凭れに背中を預け顔を上向かせると会話の最中も変わり無く降り注いでいる光が目には痛く、片手で廂を作り直射を避けつつ果てしなく続く空の青さを瞳に映して吐息を漏らすかのような力が抜けた呟きを)…暑さは頂けないけど、夏の空は好きだな。
…ふふ、玲さんがそう言うのなら優しくないのかもしれません、ね。(受け取った保冷剤を両手で包み込むその表情は柔らかく緩むも、逸らされた視線を受け笑みに悪戯な色を滲ませつつ嘯いた言葉は些か態とらしく響くだろうか。相手が評してくれた通り夏の陽射しを活力にすくすくと成長中の花々を見遣る目元は柔らかく和み、口元からは呼気に紛れて音を消した笑い声が密やかに漏らされる。相手の言葉に倣うようやおら視線を上へと向ければ空の色は絵の具を溶かした色水を一面に張ったよりも尚鮮やかに透き通り、その青を遥か上より透かして眩しく降り注ぐ陽射しに目は自然と細まって。空を見上げたままに呟いた言葉は相手の意見への賛同と自然の持つ美しい色合いへの賛辞を表すも、ふと視界を悠々と横切った一羽の鳥影に意識をひかれて漏らした独白には地上の暑さからの現実逃避願望を溶かしたなんとも俗っぽい理由が付け足され)抜けるような青空って表現がぴったりですよね。鳥になって飛べたら気持ち良さそう…上空の方が気温が低いって言いますし。
(照れ隠しの下手な誤魔化しは通用しなかったのだろうか、柔らかくも悪戯な笑みが隣にある事を視界の片隅に確認しそのうえ鼓膜を揺らす相手の声音の変化に気付けば一呼吸の合間両目を瞑り、決まりの悪さに口をへの字に歪めて素知らぬ振りを決め込んで。青い光が散乱する天空は夏空に相応しく光度の強い鮮やかな色合いがあり、明るく輝く美しさに溜息を漏らしては五本指の隙間から差し込む陽光に目蓋を半ばまで伏せて。廂にしていた手を下ろし再び開いた左右の目でゆっくりと見上げた空には翼を広げ悠々と風に乗る鳥が羽ばたき、その光景は青に映えて清々しく意識を奪われかけたが相手の言葉を聞くと片眉上げて視線を向け、笑みとして認めるには難しい程の微小な変化ながらも唇の端を持ち上げ双眸は和やかに細めた面持ちにて)本当にね…こんなに澄んだ青が頭上にあるって考えると、気持ちが晴れやかになるわ。あんた…自由に空を飛びたいとかそういう可愛らしい理由じゃなくて、ただ単に暑さをどうにかしたいだけなんじゃないの。